54 / 309
閑話『それぞれの夏』
夏デート
しおりを挟む
「桜良、おまたせ!」
「…別に、そんなに待ってない」
「いやあ、まさか今年も行けるなんて思わなかった」
「…そうね。私も」
桜良は少し緊張しているのか、いつもより口数が少ない気がする。
あと、話すときのトーンがいつもと違う。
「相変わらず浴衣似合うね」
「…陽向は、」
「ん?」
「陽向はやっぱり、こういう服が好きなの?」
直球で訊かれて即答した。
「桜良なら何着てても可愛いよ。俺の隣にいてくれるだけで心が明るくなるし」
「……なにそれ」
顔を真っ赤にして俯いた姿まで可愛いなんて反則だ。
本人に言ったら怒らせてしまうかもしれないけど、やっぱり俺の恋人は世界で1番可愛い。
「手、繋いでもいい?」
「…はい」
差し出された手を握って少しずつ歩く。
足元を確認すると、ちらっとスニーカーが見えた。
「まずどの屋台にしようか?射的?」
「…りんご飴」
「分かった。それから射的行ってたこ焼き買おう」
「うん」
色々な屋台に立ち寄りながら、未来の話をする。
「進路、決めた?」
「短期通信課程のシステムデータコース」
「そっか」
「陽向は?」
「短大学部の文学科」
はじめは文学部の通信課程にしようと思っていたけど、まだ色々悩んでいるので短大学部にしようと決めた。
ただ、とっておくとなんとなく後々役に立ちそうな資格があるから勉強してみようと思ったのだ。
「……」
「桜良?」
「来年は、もう無理かもしれない」
「そんなことないよ。俺は、」
「私のことはいいから、自分の生活を大事にして」
桜良はいつもそうだ。
自分のせいで俺が遠慮してるんじゃないかって不安がってる。
…全然そんなことないのに。
「大事にしてるよ。ただ、他の人と関わるより桜良と一緒にいる時間がほんの少し長くて…できるだけそのままがいいって思うだけ」
たこ焼きを食べながらそう答えて、ずっと気になっていた射的の出店に向かう。
「じゃあ、桜良がほしいであろうものに当ててみせるから信じて。
…それから、来年も他のみんなともふたりきりでも思い出を作ろう」
「陽向」
俺は先生ほど得意なわけじゃない。
それでも、今夜は不思議と外す気がしなかった。
小さな猫のマスコットと、ワンポイントに蝶がかたどられていたブレスレット。
「…これで信じてくれる?」
「どうして…」
「うーん…なんとなく?」
首をかしげていると、桜良がふっと笑った。
「ありがとう。…私はやっぱり、みんなの側にいたい。そのなかにあなたがいないと困る」
「そんなふうに思ってくれてたなんて、嬉しいな…」
言葉にするのは平気なのに、自分が言われるとちょっと恥ずかしい。
この感覚はなんだろう。
人混みを避け、ふたりでマンションの部屋に入る。
「大丈夫!毎日こうやって会えるから」
「…そうだね」
空に花火があがるのと同時にキスをする。
桜良は恥ずかしがっているけど、今はこうしていたい。
「寂しいときは、ブレスレットを俺だと思って」
「……」
突然抱きつかれてどきっとしてしまう。
心臓の音と花火が混ざりあって、今まで以上に緊張した夜だった。
「…別に、そんなに待ってない」
「いやあ、まさか今年も行けるなんて思わなかった」
「…そうね。私も」
桜良は少し緊張しているのか、いつもより口数が少ない気がする。
あと、話すときのトーンがいつもと違う。
「相変わらず浴衣似合うね」
「…陽向は、」
「ん?」
「陽向はやっぱり、こういう服が好きなの?」
直球で訊かれて即答した。
「桜良なら何着てても可愛いよ。俺の隣にいてくれるだけで心が明るくなるし」
「……なにそれ」
顔を真っ赤にして俯いた姿まで可愛いなんて反則だ。
本人に言ったら怒らせてしまうかもしれないけど、やっぱり俺の恋人は世界で1番可愛い。
「手、繋いでもいい?」
「…はい」
差し出された手を握って少しずつ歩く。
足元を確認すると、ちらっとスニーカーが見えた。
「まずどの屋台にしようか?射的?」
「…りんご飴」
「分かった。それから射的行ってたこ焼き買おう」
「うん」
色々な屋台に立ち寄りながら、未来の話をする。
「進路、決めた?」
「短期通信課程のシステムデータコース」
「そっか」
「陽向は?」
「短大学部の文学科」
はじめは文学部の通信課程にしようと思っていたけど、まだ色々悩んでいるので短大学部にしようと決めた。
ただ、とっておくとなんとなく後々役に立ちそうな資格があるから勉強してみようと思ったのだ。
「……」
「桜良?」
「来年は、もう無理かもしれない」
「そんなことないよ。俺は、」
「私のことはいいから、自分の生活を大事にして」
桜良はいつもそうだ。
自分のせいで俺が遠慮してるんじゃないかって不安がってる。
…全然そんなことないのに。
「大事にしてるよ。ただ、他の人と関わるより桜良と一緒にいる時間がほんの少し長くて…できるだけそのままがいいって思うだけ」
たこ焼きを食べながらそう答えて、ずっと気になっていた射的の出店に向かう。
「じゃあ、桜良がほしいであろうものに当ててみせるから信じて。
…それから、来年も他のみんなともふたりきりでも思い出を作ろう」
「陽向」
俺は先生ほど得意なわけじゃない。
それでも、今夜は不思議と外す気がしなかった。
小さな猫のマスコットと、ワンポイントに蝶がかたどられていたブレスレット。
「…これで信じてくれる?」
「どうして…」
「うーん…なんとなく?」
首をかしげていると、桜良がふっと笑った。
「ありがとう。…私はやっぱり、みんなの側にいたい。そのなかにあなたがいないと困る」
「そんなふうに思ってくれてたなんて、嬉しいな…」
言葉にするのは平気なのに、自分が言われるとちょっと恥ずかしい。
この感覚はなんだろう。
人混みを避け、ふたりでマンションの部屋に入る。
「大丈夫!毎日こうやって会えるから」
「…そうだね」
空に花火があがるのと同時にキスをする。
桜良は恥ずかしがっているけど、今はこうしていたい。
「寂しいときは、ブレスレットを俺だと思って」
「……」
突然抱きつかれてどきっとしてしまう。
心臓の音と花火が混ざりあって、今まで以上に緊張した夜だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
生贄少女は九尾の妖狐に愛されて
如月おとめ
恋愛
火事で両親を亡くした理子は
住んでいた村の村人たちに生贄に捧げられ
夏彦と名乗る九尾の妖狐に救われた。
これは全てを失った少女と彼女を一途に想う妖の
和風シンデレラストーリー
恋愛小説大賞にエントリーしております。
予後、夕焼け、スパゲティ
一初ゆずこ
ライト文芸
二十五歳の淳美は、小学校の図工の先生になって三年目。
初夏のある日、隣家に住む三つ年下の幼馴染・浩哉にスパゲティをご馳走した出来事がきっかけとなり、病で療養中の浩哉の祖父・菊次にも、毎週土曜日にスパゲティを振る舞うことになる。
淳美はさまざまなメニューに挑戦し、菊次を支える浩哉の母・佳奈子を交えて、露原家の人々と週末の昼限定で、疑似的な家族生活を送っていく。
そんな日々に慣れた頃、淳美は教え子の小学生・美里が同級生から疎まれている問題に直面する。さらに、菊次の病の後遺症が、露原家の平穏な空気を少しずつ変え始めて……。
致死量の愛を飲みほして+
藤香いつき
キャラ文芸
終末世界。
世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。
記憶のない“あなた”は、彼らに拾われ——
ひとつの物語を終えたあとの、穏やか(?)な日常のお話。
【致死量の愛を飲みほして】その後のエピソード。
単体でも読めるよう調整いたしました。

純喫茶 浪漫へようこそ
暁月
ライト文芸
ここは『純喫茶 浪漫』
マスターの田中さんが経営するごくごく普通の喫茶店。
近くの大学に通うアルバイトの学生、香坂 美晴(こうさか みはる)視点で、来店する個性豊かなお客様のお話を紹介させていただきます。
どうぞ、ごゆるりとお楽しみください。
------------------------------------
※R-15は保険です。
※ほのぼの日常系のお話を書きたいなと思って書き始めました。
※別小説をメインに更新しているので、合間に一つの章を書き終えたらまとめてアップするスタイルにさせていただこうか思います。内容も更新もまったりになります。
※ライト文芸大賞にエントリーしています。楽しんでいただけたら幸いです。よろしくお願いします。

ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!
シャウトの仕方ない日常
鏡野ゆう
ライト文芸
航空自衛隊第四航空団飛行群第11飛行隊、通称ブルーインパルス。
その五番機パイロットをつとめる影山達矢三等空佐の不本意な日常。
こちらに登場する飛行隊長の沖田二佐、統括班長の青井三佐は佐伯瑠璃さんの『スワローテールになりたいの』『その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー』に登場する沖田千斗星君と青井翼君です。築城で登場する杉田隊長は、白い黒猫さんの『イルカカフェ今日も営業中』に登場する杉田さんです。※佐伯瑠璃さん、白い黒猫さんには許可をいただいています※
※不定期更新※
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※影さんより一言※
( ゚д゚)わかっとると思うけどフィクションやしな!
※第2回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました。ありがとうございます。※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる