49 / 309
第6章『階段の怪談』
第43話
しおりを挟む
旧校舎に残っているものと新校舎の噂は、似ても似つかないものだった。
「ありがとう。あとは調べておくから、ふたりはもう帰った方がいい。気をつけて」
「ありがとうございました」
おそらく、今駆け出したふたりの記憶も明日には消えてしまうだろう。
ひとりは規則を破ったから、もうひとりは足の怪我の影響で逃げられなかった可能性が高い。
「陽向、聞こえるか?」
『こっちは片づいたよ。というより、ひな君を吹き飛ばして消えちゃった…』
「そうか。ありがとう。私もすぐ戻る」
旧校舎の噂は、昔から流れているものと変わらない。
だからこそあんな巨体の怪異が現れたのだろう。
だが、女の子の怪異が現れるなんて聞いたことがない。
「お疲れ」
「し、詩乃ちゃん…。僕をかばって、ひな君が」
「分かってる。もう少ししたら回復するから、それまで顔を伏せていればいい」
陽向の死に方はかなりグロテスクなもので、とても直視できなかった。
「はじめから狙いは陽向だったのかもしれない」
「どういうこと?」
「瞬は死霊だろ?内臓を狙うように潰してるってことは、食べるタイプだったのかもしれない。
生きている人間から採取したそれはかなり美味しいっていわれてる。…一部の怪異の間でという話だが」
できるだけ直接的な表現は避けたかったが、これ以上オブラートに包めない。
瞬が怖がらないよう、話題を変える。
「旧校舎と新校舎では、流れている噂の中身や現れる怪異にだいぶ違いがあるみたいだ」
「違い?」
先程視たものをありのまま話すと、瞬は顔を伏せたまま驚いていた。
「珍しいね。ふたつ噂があったら混ざり合って流れにくくなるのに、ふたつとも流れてるなんて…」
「ふたつ、あったんですね」
完治した陽向が起きあがると同時に、瞬が俯いたまま駆け寄る。
「え、ちび?」
「…ごめん」
「大丈夫だって。もうぴんぴんしてるし!それに、おまえがやられてたらもう1回死んじゃってたかもしれないだろ?
そんなことになるくらいなら、何回だって体張る」
「ひな君…」
「…で、他の噂ってどういうのなんですか?」
私は見聞きしたものをもう一度話した。
「分かりづらかったら言ってくれ」
「いえ、大体分かりました。…てことは、旧校舎と新校舎、両方調べないといけないってことですよね?」
「明日は新校舎で試してみよう。階段が十三段あればだけどな」
「そっか、いつも一段増えるとは限らないから…」
この噂にはちょっとした弱点がある。
それは、毎晩階段の数が増えるわけではないということだ。
調べるにしろ誰かが動機があって怪談をするにしろ、毎回成功するとは限らない。
「強引に増やすわけにもいかないが、短期決着ですませたいな」
「ですね…」
床に飛び散った陽向の血を掃除しながら、これからのことを話す。
今できるのは、見回りの強化ぐらいだった。
「ありがとう。あとは調べておくから、ふたりはもう帰った方がいい。気をつけて」
「ありがとうございました」
おそらく、今駆け出したふたりの記憶も明日には消えてしまうだろう。
ひとりは規則を破ったから、もうひとりは足の怪我の影響で逃げられなかった可能性が高い。
「陽向、聞こえるか?」
『こっちは片づいたよ。というより、ひな君を吹き飛ばして消えちゃった…』
「そうか。ありがとう。私もすぐ戻る」
旧校舎の噂は、昔から流れているものと変わらない。
だからこそあんな巨体の怪異が現れたのだろう。
だが、女の子の怪異が現れるなんて聞いたことがない。
「お疲れ」
「し、詩乃ちゃん…。僕をかばって、ひな君が」
「分かってる。もう少ししたら回復するから、それまで顔を伏せていればいい」
陽向の死に方はかなりグロテスクなもので、とても直視できなかった。
「はじめから狙いは陽向だったのかもしれない」
「どういうこと?」
「瞬は死霊だろ?内臓を狙うように潰してるってことは、食べるタイプだったのかもしれない。
生きている人間から採取したそれはかなり美味しいっていわれてる。…一部の怪異の間でという話だが」
できるだけ直接的な表現は避けたかったが、これ以上オブラートに包めない。
瞬が怖がらないよう、話題を変える。
「旧校舎と新校舎では、流れている噂の中身や現れる怪異にだいぶ違いがあるみたいだ」
「違い?」
先程視たものをありのまま話すと、瞬は顔を伏せたまま驚いていた。
「珍しいね。ふたつ噂があったら混ざり合って流れにくくなるのに、ふたつとも流れてるなんて…」
「ふたつ、あったんですね」
完治した陽向が起きあがると同時に、瞬が俯いたまま駆け寄る。
「え、ちび?」
「…ごめん」
「大丈夫だって。もうぴんぴんしてるし!それに、おまえがやられてたらもう1回死んじゃってたかもしれないだろ?
そんなことになるくらいなら、何回だって体張る」
「ひな君…」
「…で、他の噂ってどういうのなんですか?」
私は見聞きしたものをもう一度話した。
「分かりづらかったら言ってくれ」
「いえ、大体分かりました。…てことは、旧校舎と新校舎、両方調べないといけないってことですよね?」
「明日は新校舎で試してみよう。階段が十三段あればだけどな」
「そっか、いつも一段増えるとは限らないから…」
この噂にはちょっとした弱点がある。
それは、毎晩階段の数が増えるわけではないということだ。
調べるにしろ誰かが動機があって怪談をするにしろ、毎回成功するとは限らない。
「強引に増やすわけにもいかないが、短期決着ですませたいな」
「ですね…」
床に飛び散った陽向の血を掃除しながら、これからのことを話す。
今できるのは、見回りの強化ぐらいだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
狗神巡礼ものがたり
唄うたい
ライト文芸
「早苗さん、これだけは信じていて。
俺達は“何があっても貴女を護る”。」
ーーー
「犬居家」は先祖代々続く風習として
守り神である「狗神様」に
十年に一度、生贄を献げてきました。
犬居家の血を引きながら
女中として冷遇されていた娘・早苗は、
本家の娘の身代わりとして
狗神様への生贄に選ばれます。
早苗の前に現れた山犬の神使・仁雷と義嵐は、
生贄の試練として、
三つの聖地を巡礼するよう命じます。
早苗は神使達に導かれるまま、
狗神様の守る広い山々を巡る
旅に出ることとなりました。
●他サイトでも公開しています。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
伊緒さんのお嫁ご飯
三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。
伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。
子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。
ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。
「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!
余命2ヶ月の俺の青春
希望
ライト文芸
俺は小説を書いて、そこそこ売れている作家だ。両親はいないが、妹と二人で親の遺産と俺の印税でそこそこ小金持ちの生活をしていた。あの診断がでるまではー
そう俺は余命2ヶ月のガンの診断を受けた。そして俺は高校を辞めて、誰も悲しませずにひっそりと暮らそうと、千葉の田舎のほうに親の遺産のひとつであるアパートに移り住むことになった。
そして青春しませんかという看板を見つけて、死ぬ前に遺作として、新しい小説を書くのも悪くないなと思い参考にするためその神社を潜った。そして俺はある少女に出会い、最後の青春をして、小説に残し、それが後世に語り継がれる物語となるー。
これは俺と少女の最後の青春である。
少女漫画と君と巡る四季
白川ちさと
ライト文芸
尾形爽次郎はこの春、出版社に就職する。
そこで配属されたのが少女漫画雑誌、シュシュの編集部。しかも、指導係の瀬戸原に連れられて、憧れの少女漫画家、夢咲真子の元を訪れることに。
しかし、夢咲真子、本名小野田真咲はぐーたらな性格で、現在連載中の漫画終了と同時に漫画家を辞めようと思っているらしい。
呆然とする爽次郎に瀬戸原は、真咲と新しい企画を作るように言い渡す。しかも、新人歓迎会で先輩編集者たちに問題児作家だと明かされた。前途多難な中、新人編集者の奮闘が始まる。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる