夜紅譚

黒蝶

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第5章『星逢いの空』

第38話

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その夜、空には星の絨毯がかかっていた。
《お世話になりました》
「また苦しくなったらいつでも来い。それと…頼む」
《勿論。私なんかで役に立てるなら頑張る》
近くで見ていた他のメンバーは首を傾げていたが、さざめにはしっかり伝わったらしい。
さざめを見送った後、先生と瞬がふたりきりになれるよう屋上にいてほしいと連絡する。
前々からさざめに何か礼をさせてほしいと言われていたが、何を頼めばいいか分からなかった。
ただ、今はもう任せられそうだ。
「……さて」
紅をさし、弓を構える。
羽衣を直すために使った鱗の破片を持っているから、今夜狙われるのは私だけだ。
《不老不死、不老不死!》
楽しそうな妖を前に、ひたすら矢を放った。
「そんなに欲しいならかかってこい。何人でも相手してやる」
満月でも新月でも半月でもない今夜、どちらかの力が弱まることはない。
このまま先生たちの邪魔をさせないように相手をするのが私の仕事だ。
《ぐわ!》
攻撃が飛んできた方を見ると、陽向が苦笑しながら立っていた。
「どうしてここに…」
「天女を還したとき、何か約束してるみたいだったので…もしかしたらこうなるんじゃないかと思って用意してました」
陽向がはめているグローブは、以前より若干威力が高いものになった。
力加減が難しいと言っていたが、今では衝撃波を飛ばせるほど使いこなしている。
「屋上に先生たちがいるんだ。しかも新校舎は生徒で溢れかえっているし…。
桜良どの時間を邪魔して悪いが、手をかしてほしい」
「任せてください!とっとと片づけちゃいましょう」
《グオオン!》
こちらに押し寄せてくる大群にひたすら矢を放つ。
札を投げつけ、大量の妖を囲んだ。
「──爆ぜろ」
相手を殺さない程度に妖力や邪気を燃やす。
なかなか諦めてもらえなかったが、最後はなんとか押し切った。
「ありがとう。助かったよ」
「力になれてよかったです。それより…天女に何を頼んだんですか?」
「それは言えない」
先生にかけられていた呪いのことを勝手に話すわけにもいかず、それだけ言って話題を変える。
「それより、桜良とふたりで見なくていいのか?」
「あ、そうだった!いってきます」
後ろ姿を見送り、独り空を見上げる。
星々が煌めいていて、1枚だけ写真を撮った。
【空見てる?私は白露と見てるよ】
そんなメッセージを微笑ましく感じ、写真付きで返信した。
【こっちも綺麗に見えているよ】
さざめは空を舞えているだろうか。
もう辛い思いをしていないことを祈りながら、吸いこまれそうなほど美しい星空を見続けた。
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