夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
42 / 309
第5章『星逢いの空』

第37話

しおりを挟む
「…入るぞ」
密かに家庭科室を使い、朝食を作り終えた私は再び放送室へ向かった。
「おはようございます」
「ごめん。起こしたか?」
「いえ、これから朝食を作ろうと…もしかして、もう完成していますか?」
「ああ。あと、こっちも完成した」
綺麗に畳んでおいた羽衣を見せると、桜良はかなり驚いていた。
「材料を手に入れるのが難しいって言ってたのに、もう完成して…」
「知り合いが気前よくくれたんだ。今日中に完成させないといけなかったけど、間に合ってよかった」
小声で話していたが、周りで寝ていた人たちが次々起きはじめる。
特にさざめは起きた瞬間、すっかり修繕された羽衣に飛びついた。
《私の羽衣、こんなに綺麗に…ありがとうございます》
「たまたま道具が揃っていたから早く直せたんだ。着てみてくれ」
さざめが着替えている間、陽向たちと朝食を食べる準備をする。
「あれってかなり高難易度だって聞いてましたけど、先輩が全部ひとりで完成させたんですか?」
「材料を分けてもらえたおかげだ。…縫うという作業そのものには時間がかからなかったからな」
ただ、体がふらつく。頭が重い。
「先輩、顔色悪いですけど、」
「悪いが夜までさざめの護衛を任せてもいいか?これから先生のところへ行かないといけないんだ」
「分かりました」
何も訊かずにいてくれる周りに感謝しながら、ふらふらと旧校舎へ向かう。
検査すると言われていたので、それまで少し休めれば止めを閉じた。


──次に目を開けたとき、真っ先に飛びこんできたのは瞬の曇った表情だ。
「先生、何か隠してるでしょ?」
「別に」
「詩乃ちゃんのこともそうだけど、先生も何かあるんだよね?」
「……」
「僕じゃ、信用ない?」
「違う、そういうわけじゃ、」
ふたりが言い合っているなか、視線だけ動かすと先生の体から黒い煙が出ていた。
「…呪われたのか」
ふたりとも私が起きているとは気づいていなかったらしく、驚いた様子で顔をのぞきこまれる。
「ねえ、詩乃ちゃん。それってどういうこと?」
「…そうか、瞬は視える範囲が違うから分からないのか。私には、先生の体に黒い煙がまとわりついているように見える。
何が原因か知らないけど、割と強めの呪いだってことだけは分かる」
先生の視線を遮りはっきり告げる。
瞬は不安と恐怖に満ちた表情をしていた。
「先生、いなくなっちゃうの…?」
「どこでかけられたかも分からない。嫌な気配はしたが、呪いの系統さえ不明だ」
先生は誰にも迷惑をかけないようにひっそり姿を消すつもりだったのだろう。
だが、そんなことをする必要はない。
「安心しろ。私に考えがかる」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...