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第5章『星逢いの空』
第33話
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流石に火炎刃を何度も出すと疲れる。
「……!」
少し離れた場所から視線を感じ、弓を構えた。
「誰だ」
答えがかえってくることはなく、代わりにあたり一面白い光が直撃した。
「詩乃ちゃん!」
瞬が引っ張ってくれたことによりなんとかなったが、あと一歩でも会えに出ていれば直撃していたかもしれない。
「ありがとう。助かった」
「間に合ってよかった…」
「いつからいたんだ?」
「ついさっきだよ。炎が舞っているのが見えたから、詩乃ちゃんが戦ってるのかもって思って…」
そこまで話したところで震えだした瞬の視線の先を追う。
目の前にいたはずの気絶した相手が、全身丸焦げになって転がっていた。
「やっぱり瞬が来てくれなかったら危なかったな」
「ごめん。僕、そういうの苦手で…」
そういえば、瞬はグロテスクなものを嫌っていると先生が言っていた。
「大丈夫。そのまま目を閉じててくれ」
「ごめん…」
「大丈夫だから」
メッセージアプリを使って先生に瞬の状態を伝え、取り敢えず旧校舎保健室へ向かう。
やはりこの一件にはもうひとり誰かが関わっている。
それとも、実は以前から何かしら関わっているのだろうか。
「詩乃ちゃん、どこ行くの…?」
「心配しなくても、怖い場所に行くわけじゃないよ」
ふらふらの瞬はおそろしいほど軽くて、特に何事もなく目的地へ辿り着いた。
「来たか」
「先生…?忙しいんじゃ、」
「おまえのことを放り出すほどのものはない。…悪いが少しふたりにしてくれるか?」
「勿論。じゃあ私はこれで」
「…折原」
「なんだ?」
「気をつけろ」
「…分かってる」
さっきの連絡で先生は察したのだろう。
周囲を警戒しながらひとり中庭へ向かった。
中庭には小さめの池があるが、普通の人間には水が枯れているように見えるらしい。
満杯の水が溢れているようにしか視えないが、周囲の反応は違った。
「魚姫様お願いします。魚姫様お願いします、魚姫様お願いします」
持っていた手鏡とクッキーの袋を投げ入れると、ぶくぶくと泡がたった。
これからあと24時間以内、しかも夜の時間帯に訪れなければ魚姫は現れない。
以前知り合ったときから簡略化した呼び方だと話していたものの、魚姫は余程のことがない限り約束を護ってくれる。
まだ独りで調査していた頃を思い出して、少し懐かしくなった。
「こんなところにいたの」
「結月?どうしたんだそれ」
手に傷を負っているのを見つけ、思わず駆け寄って掴んでしまう。
「別に。大したことじゃないわ」
「消毒はしないとまずいだろ」
「世話焼きね…」
傷口を洗い、消毒液と絆創膏で手当てさせてもらった。
いつも絹のような綺麗な手なのに、大量の絆創膏のせいで痛々しい。
「監査室へ行こう。話はそこで聞かせてほしい」
「……!」
少し離れた場所から視線を感じ、弓を構えた。
「誰だ」
答えがかえってくることはなく、代わりにあたり一面白い光が直撃した。
「詩乃ちゃん!」
瞬が引っ張ってくれたことによりなんとかなったが、あと一歩でも会えに出ていれば直撃していたかもしれない。
「ありがとう。助かった」
「間に合ってよかった…」
「いつからいたんだ?」
「ついさっきだよ。炎が舞っているのが見えたから、詩乃ちゃんが戦ってるのかもって思って…」
そこまで話したところで震えだした瞬の視線の先を追う。
目の前にいたはずの気絶した相手が、全身丸焦げになって転がっていた。
「やっぱり瞬が来てくれなかったら危なかったな」
「ごめん。僕、そういうの苦手で…」
そういえば、瞬はグロテスクなものを嫌っていると先生が言っていた。
「大丈夫。そのまま目を閉じててくれ」
「ごめん…」
「大丈夫だから」
メッセージアプリを使って先生に瞬の状態を伝え、取り敢えず旧校舎保健室へ向かう。
やはりこの一件にはもうひとり誰かが関わっている。
それとも、実は以前から何かしら関わっているのだろうか。
「詩乃ちゃん、どこ行くの…?」
「心配しなくても、怖い場所に行くわけじゃないよ」
ふらふらの瞬はおそろしいほど軽くて、特に何事もなく目的地へ辿り着いた。
「来たか」
「先生…?忙しいんじゃ、」
「おまえのことを放り出すほどのものはない。…悪いが少しふたりにしてくれるか?」
「勿論。じゃあ私はこれで」
「…折原」
「なんだ?」
「気をつけろ」
「…分かってる」
さっきの連絡で先生は察したのだろう。
周囲を警戒しながらひとり中庭へ向かった。
中庭には小さめの池があるが、普通の人間には水が枯れているように見えるらしい。
満杯の水が溢れているようにしか視えないが、周囲の反応は違った。
「魚姫様お願いします。魚姫様お願いします、魚姫様お願いします」
持っていた手鏡とクッキーの袋を投げ入れると、ぶくぶくと泡がたった。
これからあと24時間以内、しかも夜の時間帯に訪れなければ魚姫は現れない。
以前知り合ったときから簡略化した呼び方だと話していたものの、魚姫は余程のことがない限り約束を護ってくれる。
まだ独りで調査していた頃を思い出して、少し懐かしくなった。
「こんなところにいたの」
「結月?どうしたんだそれ」
手に傷を負っているのを見つけ、思わず駆け寄って掴んでしまう。
「別に。大したことじゃないわ」
「消毒はしないとまずいだろ」
「世話焼きね…」
傷口を洗い、消毒液と絆創膏で手当てさせてもらった。
いつも絹のような綺麗な手なのに、大量の絆創膏のせいで痛々しい。
「監査室へ行こう。話はそこで聞かせてほしい」
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