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第4章『操り糸』
第29話
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《タノシイナア…!》
左腕に命中したはずなのに、相手は燃える体でケタケタ嗤っている。
「痛くないのか?」
《痛イ痛イッテ何?》
おちょくっているわけではなく、本気で尋ねているらしい。
どうしたものかと迷ったが、幸い札が複数枚残っているので応戦することにした。
「──燃えろ」
《…エ?》
相手の体は音をたてて燃えているが、それでもまったく平気そうだ。
相手をよく観察すると、胸の真ん中あたりが鈍く光っている。
「そこか」
ナイフ投げのように矢を思いきり投げると、相手の弱点らしき部分に命中した。
「──爆ぜろ」
《ギャア!》
相手は悲鳴をあげ、じたばたと暴れまわっている。
《何故ダ、何故…》
「弱点がない奴なんていない。…油断したな」
ゆらゆら不気味に動き回っていた糸も紅蓮に染まり、為す術がなくなった相手は膝から崩れ落ちる。
《造ラレタ、俺ガ、負ケルダト…》
「それってどういう意味なんだ」
《アノ、方ハ、》
その直後、相手の体は膨張し破裂した。
特に何の攻撃もしていないし、他の場所から攻撃を受けたわけでもなさそうだ。
あたりを見回してみたものの、気配ひとつ感じない。
『どこにいる』
先生の低い声が鼓膜をつんざく。
「取り敢えず、マリオネットの件は片づいたよ」
目の前に散らばった大量の人間を見て、それだけ伝える。
これから先生にたんまり叱られることになるだろう。
矢を集めていると、きらりと足元で何かが光る。
「…?」
ステンドグラスの破片のようなそれは、あの怪異の体にあった胸の光によく似ている。
そのまま放っておくのもいけないような気がして持ち帰ることにした。
みんなにどこから話せばいいか分からないが、取り敢えず先生の診察を受けに行こう。
穂乃に心配をかけないよう、早く行かなくては。
…なんて思っていたのに。
《見つけた》
「白露か」
「お姉ちゃん!」
駆け寄ってくる姿に成長を感じながら、むすっとした顔をしている穂乃は不安そうに私を見た。
「大丈夫なの?」
「ああ。平気だ」
もう腕に感覚がない。
それを悟られないように立ちあがろうとすると、先生が腕を引っ張ってくれる。
「すまないがこいつを借りていく」
「は、はい!」
先生にさりげなく支えられ、そのまま保健室まで連れて行かれる。
怒りながらもなんだかんだで手当てをしてくれる先生に優しさを感じながら、最後に聞いた言葉を思いかえす。
あの言い方だと、まるで怪異を造れる何かがあるみたいだ。
「…具現化ノートか?」
「どうした」
「ううん、なんでもない」
もう少し確証がほしい。
若干痛む体を横たえ、そのままゆっくり目を閉じる。
霊力の消耗が激しかったようで、ぐっすり眠ってしまっていた。
左腕に命中したはずなのに、相手は燃える体でケタケタ嗤っている。
「痛くないのか?」
《痛イ痛イッテ何?》
おちょくっているわけではなく、本気で尋ねているらしい。
どうしたものかと迷ったが、幸い札が複数枚残っているので応戦することにした。
「──燃えろ」
《…エ?》
相手の体は音をたてて燃えているが、それでもまったく平気そうだ。
相手をよく観察すると、胸の真ん中あたりが鈍く光っている。
「そこか」
ナイフ投げのように矢を思いきり投げると、相手の弱点らしき部分に命中した。
「──爆ぜろ」
《ギャア!》
相手は悲鳴をあげ、じたばたと暴れまわっている。
《何故ダ、何故…》
「弱点がない奴なんていない。…油断したな」
ゆらゆら不気味に動き回っていた糸も紅蓮に染まり、為す術がなくなった相手は膝から崩れ落ちる。
《造ラレタ、俺ガ、負ケルダト…》
「それってどういう意味なんだ」
《アノ、方ハ、》
その直後、相手の体は膨張し破裂した。
特に何の攻撃もしていないし、他の場所から攻撃を受けたわけでもなさそうだ。
あたりを見回してみたものの、気配ひとつ感じない。
『どこにいる』
先生の低い声が鼓膜をつんざく。
「取り敢えず、マリオネットの件は片づいたよ」
目の前に散らばった大量の人間を見て、それだけ伝える。
これから先生にたんまり叱られることになるだろう。
矢を集めていると、きらりと足元で何かが光る。
「…?」
ステンドグラスの破片のようなそれは、あの怪異の体にあった胸の光によく似ている。
そのまま放っておくのもいけないような気がして持ち帰ることにした。
みんなにどこから話せばいいか分からないが、取り敢えず先生の診察を受けに行こう。
穂乃に心配をかけないよう、早く行かなくては。
…なんて思っていたのに。
《見つけた》
「白露か」
「お姉ちゃん!」
駆け寄ってくる姿に成長を感じながら、むすっとした顔をしている穂乃は不安そうに私を見た。
「大丈夫なの?」
「ああ。平気だ」
もう腕に感覚がない。
それを悟られないように立ちあがろうとすると、先生が腕を引っ張ってくれる。
「すまないがこいつを借りていく」
「は、はい!」
先生にさりげなく支えられ、そのまま保健室まで連れて行かれる。
怒りながらもなんだかんだで手当てをしてくれる先生に優しさを感じながら、最後に聞いた言葉を思いかえす。
あの言い方だと、まるで怪異を造れる何かがあるみたいだ。
「…具現化ノートか?」
「どうした」
「ううん、なんでもない」
もう少し確証がほしい。
若干痛む体を横たえ、そのままゆっくり目を閉じる。
霊力の消耗が激しかったようで、ぐっすり眠ってしまっていた。
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