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第4章『操り糸』
第24話
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鋭い刃物が切り裂く音と同時に、腕にずしりと重みがのった。
「た、助かった…」
「怪我はないか?」
「大丈夫です。流石にちょっと疲れましたけど…」
今回は陽向でもかなり焦っていたようだ。
「正直、もう駄目かもって思ってました。けど、みんなのおかげで助かった。…ありがとう」
「ひな君がお礼を言うなんて珍しい…」
「俺だってちゃんとありがとうくらいは言うし!」
そんな和やかな雰囲気が続いた後、私は陽向たちに尋ねる。
「…それで、何があったんだ?」
「俺、人形に近づいて触っちゃったんです。手にぴりって感触がきたんですけど、そのときはまだよく分からなくて…。
しばらくして、体が勝手に動きはじめたんです。このままじゃ穂乃ちゃんを殺しちゃうかもって本気で思いました」
「だから僕たちのところまできたの?」
「殺すなら誰でもよかったみたいだった。…怨念強めなのかも」
マリオネットにとって憎いのは、人間の存在それ自体ということになるのだろうか。
或いは、憎悪が強くなりすぎて無差別攻撃になったのかもしれない。
「穂乃は平気か?」
「うん。走って陽向君を追いかけようとしたら、白露が連れてきてくれたんだ」
「式神って人間より足速いの?」
《…俺は素早さに特化しているが、全体的に見るとどうなんだろうな》
まだ困り顔でいることも多いが、白露も人に慣れようとしてくれているらしい。
穂乃を護りながら、時々ふたりで話して授業を聞いていると先生から聞いている。
「マリオネットの服、どんなのでした?」
「こっちにいたのは紺と黒の服だった。そっちはどうだった?」
「俺たちが見たのは、赤とちょっとくすんだ白の服でした…」
「つまり人形は一対いるのか」
それが分かっただけでも収穫だ。
一瞬あの男のことが頭をよぎったが、今はもう力を失っているはずだと首をふる。
「先輩?」
「なんでもない。穂乃、監査室で待っててくれるか?」
「分かった。お姉ちゃんはどうするの?」
「ちょっと先生のところへ行ってくる」
せめて人形のことを報告しておこうと旧校舎理科準備室へ向かう。
「先生、入るよ」
瞬の言葉と同時に扉を開けると、机に突っ伏して寝ている先生が目に入る。
室星先生はとにかく忙しい。
未来予知日記の管理者であり、数百年生きてきた妖…半怪異状態でありながら教師としての仕事もこなしている。
「…やっぱり寝てる」
「最近大学でも忙しそうだったからな…」
大学の講義も成り行きでやることになったと言っていたが、きっと私のせいだ。
「ちゃんと伝えておくね」
「ありがとう。今夜はもう解散にしよう。瞬もゆっくり休んでくれ」
「うん。また明日」
監査室へ向かうと、ふたり仲良く眠っている。
なんとなく起こすのが嫌で、メモ書きを残して旧校舎の保健室で休むことにした。
「た、助かった…」
「怪我はないか?」
「大丈夫です。流石にちょっと疲れましたけど…」
今回は陽向でもかなり焦っていたようだ。
「正直、もう駄目かもって思ってました。けど、みんなのおかげで助かった。…ありがとう」
「ひな君がお礼を言うなんて珍しい…」
「俺だってちゃんとありがとうくらいは言うし!」
そんな和やかな雰囲気が続いた後、私は陽向たちに尋ねる。
「…それで、何があったんだ?」
「俺、人形に近づいて触っちゃったんです。手にぴりって感触がきたんですけど、そのときはまだよく分からなくて…。
しばらくして、体が勝手に動きはじめたんです。このままじゃ穂乃ちゃんを殺しちゃうかもって本気で思いました」
「だから僕たちのところまできたの?」
「殺すなら誰でもよかったみたいだった。…怨念強めなのかも」
マリオネットにとって憎いのは、人間の存在それ自体ということになるのだろうか。
或いは、憎悪が強くなりすぎて無差別攻撃になったのかもしれない。
「穂乃は平気か?」
「うん。走って陽向君を追いかけようとしたら、白露が連れてきてくれたんだ」
「式神って人間より足速いの?」
《…俺は素早さに特化しているが、全体的に見るとどうなんだろうな》
まだ困り顔でいることも多いが、白露も人に慣れようとしてくれているらしい。
穂乃を護りながら、時々ふたりで話して授業を聞いていると先生から聞いている。
「マリオネットの服、どんなのでした?」
「こっちにいたのは紺と黒の服だった。そっちはどうだった?」
「俺たちが見たのは、赤とちょっとくすんだ白の服でした…」
「つまり人形は一対いるのか」
それが分かっただけでも収穫だ。
一瞬あの男のことが頭をよぎったが、今はもう力を失っているはずだと首をふる。
「先輩?」
「なんでもない。穂乃、監査室で待っててくれるか?」
「分かった。お姉ちゃんはどうするの?」
「ちょっと先生のところへ行ってくる」
せめて人形のことを報告しておこうと旧校舎理科準備室へ向かう。
「先生、入るよ」
瞬の言葉と同時に扉を開けると、机に突っ伏して寝ている先生が目に入る。
室星先生はとにかく忙しい。
未来予知日記の管理者であり、数百年生きてきた妖…半怪異状態でありながら教師としての仕事もこなしている。
「…やっぱり寝てる」
「最近大学でも忙しそうだったからな…」
大学の講義も成り行きでやることになったと言っていたが、きっと私のせいだ。
「ちゃんと伝えておくね」
「ありがとう。今夜はもう解散にしよう。瞬もゆっくり休んでくれ」
「うん。また明日」
監査室へ向かうと、ふたり仲良く眠っている。
なんとなく起こすのが嫌で、メモ書きを残して旧校舎の保健室で休むことにした。
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