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第4章『操り糸』
第22話
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紅をさし、ゆっくり動かない人形に近づいていく。
「詩乃ちゃん!」
相手はけたけた笑いながら、視線をこちらに向ける。
《私ト、遊ンデクレルノ?》
噂の影響か、妖や付喪神度は別の何かになっている。
おかしな広まり方をしているから、いつもの怪異以上の狂気を感じるのかもしれない。
「何をして遊ぶんだ?」
《ツ、ツ…ツッテ?》
「つるって一体どういう、」
「詩乃ちゃん!」
頭上からいきなり落ちてきた糸を避け、瞬の隣へ着地した。
「つるっていうのは、吊るってことなんだと思う…多分」
「成程、首を吊ってほしいのか」
「冷静に話してる場合じゃないよ…」
マリオネットはかたかた音をたて、真っ直ぐ立ちあがる。
《ク、ク、首ヲ…》
「悪いけど、渡してやれない」
マリオネットの糸に向かって札を投げつける。
「──爆ぜろ」
小さく爆発したものの、糸が全て切れたわけではなかったらしくマリオネットは逃げていく。
「待て!」
ナイフを投げたものの、マリオネットの服を掠めただけだった。
「…ふたりとも、ごめん。今逃げられた」
『正体、何だったんですか?』
「マリオネットの人形だ。首を吊ってほしいって言われた」
『えげつな!…ふたりとも怪我はないんですよね?』
「ああ。こっちは大丈夫だ。ありがとう」
『また後で合流しましょう』
「そうだな。また後で」
通話を切った後、瞬と話しながら監査室までの道を歩く。
「先生、無理してないか?」
「マシンガンみたいに手を動かしてたけど、疲れている様子じゃなかった。
先生って疲れてると癖が出るからすぐ分かるんだ。けど、今はそれが出てない」
「そうか。なら、これ以上無理して疲れさせないために私たちで解決しよう」
「うん。一緒に頑張ろうね」
瞬は仲間の中で誰よりも先生のことを知っている。
ただ、念のため噂について報告だけはしておいた方がいいだろう。
『…先輩』
「陽向?どうかしたのか?」
『今から先輩たちのところに行くんで、俺のこと殺してくれませんか?』
「一体何を言って…」
まさか、と思った。
だが、通信機越しに陽向がふっと笑ったのを感じる。
『ちび、おまえなら俺を殺せるか?』
「なんでそんなこと、」
「瞬、後ろに走れ」
「え?こう?」
その場に現れたのは、強烈な拳を動かしがむしゃらに進もうとする陽向だった。
「ひな君、どうし──」
瞬との間に入りこみ、陽向の拳を素手で受け止める。
流石にずきりと痛みがはしった。
「穂乃ちゃん、白露と一緒にいるんで…取り敢えず殺してもらえませんか?」
「無理に決まってるだろ。瞬、動きを止めてくれ」
「やってみる」
瞬が使えるのは、自ら命を絶ったときに使用したもののみ。
ひとつは薬剤、ひとつは包丁…そして、もうひとつはロープだ。
「ごめん、ひな君!」
首と四肢にロープが引っかかり、陽向の動きが止まる。
今のうちになんとかしたいが、打開策が思いつかなかった。
「詩乃ちゃん!」
相手はけたけた笑いながら、視線をこちらに向ける。
《私ト、遊ンデクレルノ?》
噂の影響か、妖や付喪神度は別の何かになっている。
おかしな広まり方をしているから、いつもの怪異以上の狂気を感じるのかもしれない。
「何をして遊ぶんだ?」
《ツ、ツ…ツッテ?》
「つるって一体どういう、」
「詩乃ちゃん!」
頭上からいきなり落ちてきた糸を避け、瞬の隣へ着地した。
「つるっていうのは、吊るってことなんだと思う…多分」
「成程、首を吊ってほしいのか」
「冷静に話してる場合じゃないよ…」
マリオネットはかたかた音をたて、真っ直ぐ立ちあがる。
《ク、ク、首ヲ…》
「悪いけど、渡してやれない」
マリオネットの糸に向かって札を投げつける。
「──爆ぜろ」
小さく爆発したものの、糸が全て切れたわけではなかったらしくマリオネットは逃げていく。
「待て!」
ナイフを投げたものの、マリオネットの服を掠めただけだった。
「…ふたりとも、ごめん。今逃げられた」
『正体、何だったんですか?』
「マリオネットの人形だ。首を吊ってほしいって言われた」
『えげつな!…ふたりとも怪我はないんですよね?』
「ああ。こっちは大丈夫だ。ありがとう」
『また後で合流しましょう』
「そうだな。また後で」
通話を切った後、瞬と話しながら監査室までの道を歩く。
「先生、無理してないか?」
「マシンガンみたいに手を動かしてたけど、疲れている様子じゃなかった。
先生って疲れてると癖が出るからすぐ分かるんだ。けど、今はそれが出てない」
「そうか。なら、これ以上無理して疲れさせないために私たちで解決しよう」
「うん。一緒に頑張ろうね」
瞬は仲間の中で誰よりも先生のことを知っている。
ただ、念のため噂について報告だけはしておいた方がいいだろう。
『…先輩』
「陽向?どうかしたのか?」
『今から先輩たちのところに行くんで、俺のこと殺してくれませんか?』
「一体何を言って…」
まさか、と思った。
だが、通信機越しに陽向がふっと笑ったのを感じる。
『ちび、おまえなら俺を殺せるか?』
「なんでそんなこと、」
「瞬、後ろに走れ」
「え?こう?」
その場に現れたのは、強烈な拳を動かしがむしゃらに進もうとする陽向だった。
「ひな君、どうし──」
瞬との間に入りこみ、陽向の拳を素手で受け止める。
流石にずきりと痛みがはしった。
「穂乃ちゃん、白露と一緒にいるんで…取り敢えず殺してもらえませんか?」
「無理に決まってるだろ。瞬、動きを止めてくれ」
「やってみる」
瞬が使えるのは、自ら命を絶ったときに使用したもののみ。
ひとつは薬剤、ひとつは包丁…そして、もうひとつはロープだ。
「ごめん、ひな君!」
首と四肢にロープが引っかかり、陽向の動きが止まる。
今のうちになんとかしたいが、打開策が思いつかなかった。
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