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第4章『操り糸』
第20話
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「……っ、げほ」
「起きたか」
目を開けると、先生の顔と白い天井が目に入る。
腕には点滴のチューブが繋がれていた。
「…ごめん」
「まさか、自ら命を──」
「違う。高等部の制服を着た後輩たちが、受け取って欲しいって言われたんだ。
そのクッキーを食べて、毒だと気づいたときには遅かった」
「狙われているのか?」
「…分からない」
本心だった。狙われるとしても、初対面の相手に殺されるほどのことはしていないはずだ。
狙われたというより、狙わせたのかもしれない。
「ふたりのうち、ひとりの様子がおかしかった。目が死んでたというか、まるで周りに興味がないみたいで…」
「まだ動かない方がいい」
起きあがろうとしたが、先生に止められてしまった。
そして、深刻そうな表情で話しはじめる。
「…マリオネットの噂って知ってるか?」
「詳しい内容までは知らない」
「糸が繋がれた人間が思いのまま動かされてしまうらしい、という内容だ」
「…まさか、またあの男なのか?」
私には、ある男との因縁がある。
今は沢山の人たちの力をかりて無力化できているが、かなりの曲者だった。
「それなら誰かが気配を感じないとおかしいし、わざわざ大学部に顔を出させないんじゃないか?」
「…そっか。そうだな」
あの頃穂乃は小学生だったから狙われなかった。
だが、今はこの烏合学園中等部にいる。
わざわざ私を狙っているとばれないように動けばいいのに、そうならなかった。
「厄介だな。無作為に人を襲ってるとしたら片づけきれない」
「…そうだな」
先生は点滴の液を換えながら私に尋ねる。
「痺れが残っている箇所はないか?」
「特にないけど…何かあったのか?」
「…普通の人間なら、この薬品が含まれたものを食べると死んでいる」
「やっぱりそうなのか」
「致死量入っていたうえ、1個食べれば即死だ」
それは毒の効果が出はじめた瞬間から分かっていた。
まさか即死レベルだとは思っていなかったが、そんなに危険なものが簡単に手に入るとは思えない。
「お姉ちゃん!」
「ああ、穂乃か」
「大丈夫なの?」
「うん。全然平気だ」
いきなり扉が開いたことに驚いたものの、扉の隙間から見える陽向が頭をぺこぺこ下げる姿を見て察した。
「陽向君から聞いて、様子を見に行かせてほしいってお願いしたの」
「そうか。点滴が終わったら監査室に行くから、そこで待っててくれ」
「分かった。だけど、無理しないでね」
「うん。ありがとう」
白露も私をじっと見ていたが、何も言わずに穂乃の後を追いかける。
先生との会話を聞かれていないことを祈りながら、もう少しマリオネットの噂について詳しく教えてもらうことにした。
「起きたか」
目を開けると、先生の顔と白い天井が目に入る。
腕には点滴のチューブが繋がれていた。
「…ごめん」
「まさか、自ら命を──」
「違う。高等部の制服を着た後輩たちが、受け取って欲しいって言われたんだ。
そのクッキーを食べて、毒だと気づいたときには遅かった」
「狙われているのか?」
「…分からない」
本心だった。狙われるとしても、初対面の相手に殺されるほどのことはしていないはずだ。
狙われたというより、狙わせたのかもしれない。
「ふたりのうち、ひとりの様子がおかしかった。目が死んでたというか、まるで周りに興味がないみたいで…」
「まだ動かない方がいい」
起きあがろうとしたが、先生に止められてしまった。
そして、深刻そうな表情で話しはじめる。
「…マリオネットの噂って知ってるか?」
「詳しい内容までは知らない」
「糸が繋がれた人間が思いのまま動かされてしまうらしい、という内容だ」
「…まさか、またあの男なのか?」
私には、ある男との因縁がある。
今は沢山の人たちの力をかりて無力化できているが、かなりの曲者だった。
「それなら誰かが気配を感じないとおかしいし、わざわざ大学部に顔を出させないんじゃないか?」
「…そっか。そうだな」
あの頃穂乃は小学生だったから狙われなかった。
だが、今はこの烏合学園中等部にいる。
わざわざ私を狙っているとばれないように動けばいいのに、そうならなかった。
「厄介だな。無作為に人を襲ってるとしたら片づけきれない」
「…そうだな」
先生は点滴の液を換えながら私に尋ねる。
「痺れが残っている箇所はないか?」
「特にないけど…何かあったのか?」
「…普通の人間なら、この薬品が含まれたものを食べると死んでいる」
「やっぱりそうなのか」
「致死量入っていたうえ、1個食べれば即死だ」
それは毒の効果が出はじめた瞬間から分かっていた。
まさか即死レベルだとは思っていなかったが、そんなに危険なものが簡単に手に入るとは思えない。
「お姉ちゃん!」
「ああ、穂乃か」
「大丈夫なの?」
「うん。全然平気だ」
いきなり扉が開いたことに驚いたものの、扉の隙間から見える陽向が頭をぺこぺこ下げる姿を見て察した。
「陽向君から聞いて、様子を見に行かせてほしいってお願いしたの」
「そうか。点滴が終わったら監査室に行くから、そこで待っててくれ」
「分かった。だけど、無理しないでね」
「うん。ありがとう」
白露も私をじっと見ていたが、何も言わずに穂乃の後を追いかける。
先生との会話を聞かれていないことを祈りながら、もう少しマリオネットの噂について詳しく教えてもらうことにした。
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