夜紅譚

黒蝶

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第4章『操り糸』

第19話

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「け、憲兵姫…」
誰かに呼ばれてふりかえると、高等部の制服を着た生徒がふたり立っていた。
「どうした?」
「このお菓子を食べてみてほしくて…。受け取っていただけませんか?」
「本当に私でいいのか?」
「は、はい!」
「ありがとう。大切にいただくよ」
生徒のうちひとりは喜んでいる様子だったものの、もうひとりの目に生気が宿っていないのが気になる。
もう少し話そうと思ったが、時間がないのは分かっていたので引き止められなかった。

「桜良、体調はどうだ?」
「だいぶ、よくなり、ました」
「そうか。これ、よかったら食べてくれ」
「あ、りがと、ござ…ます」
まだ本調子ではないようだが、いつもより顔色がよさそうで安堵する。
桜良のローレライの力は、ありとあらゆるものを魅了してしまうそうだ。
様々な場合に使うが、噂を書き換えるには体力が必要らしく代償にしばらく声が出なくなってしまう。
「のど飴、次は別の種類を持ってくるよ」
「……」
微笑む姿があまりに美しく、天使のように思えた。
「それじゃあ、私はこれで。…穂乃を頼む」
それならすぐ大学棟に戻ったものの、講義を受ける気になれず大学棟の屋上へ向かった。
誰もいないなか、そよ風がふわりと歓迎してくれる。
大学棟に戻るときに聞いた話…あれが本当ならそろそろ何かおきてもおかしくない。
【ねえ、知ってる?マリオネットの噂…】
【聞いた聞いた!あれやばいよね】
【マリオネットにされた人たちってどうなっちゃうんだろうね】
それは、体が人形になるという意味なのか、それとも…。
どちらにせよ厄介だ。
『先輩、聞こえますか?』
「陽向?どうかしたのか?」
『桜良がお礼を伝えてほしいって言ってました。俺からも言わせてください』
「気にしなくていい。また放課後話をしよう」
『了解です!穂乃ちゃんも呼んで待ってますね』
よりにもよって今日は金曜日なので、穂乃も夜仕事に参加する。
「…どうするか考えないと」
先程もらったクッキーを一口食べると、舌が痺れる。
…普通の人間の体なら持たなかったかもしれない。
なんとか連絡通路に辿り着いたものの、痺れは全身に広がっていた。
「あれ、詩乃ちゃん?」
「…瞬、せんせ、を……」
体に力が入らなくなったかと思うと、突然気分が悪くなり吐血してしまう。
「詩乃ちゃん!待ってて、すぐ探してくるから!」
クッキーの袋を握りしめ、膝から崩れ落ちる。
あの目が死んでいた方が入れたのだろうか。
「…苦し、のか」
ごぼごぼと言葉にならない言葉を吐きながら、意識がどんどん遠ざかっていく。
誰かの足音が近づいてくるのが聞こえるのと同時に意識を手放した。
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