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第3章『雨に魅入られたもの』
第16話
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「随分思い切ったことをしましたね」
学校へ戻ると、陽向が苦笑しながら資料をまとめていた。
「先生から聞いたのか」
「まさか傘を放り投げるとは思わなかったって言ってました。
そのまま襲われていたかもしれないのに、なんでそんなことをやろうって思ったんですか?」
「雨女が固執しているのが、傘を持った人間なのか傘それ自体なのか知りたかったんだ」
「先輩はどんな答えを出したんですか?」
わくわくした様子で尋ねてくる陽向に淡々と答えた。
「恐らく、傘を探しているんだと思う。だから誰かに入れてほしかったんじゃないかって思ってるんだ」
「え?それって、話しかけられた人間たちは襲われたわけじゃなくて傘に入れてって言われて驚いたってことですか?」
「暴走傾向に入っているのか、ちゃんと発音できていなかったんだ。
もしかしたら貸してだったのかもしれないし、まだ真相に辿り着けたわけじゃない」
いえ、いえとずっと言っていたのは、入れてと言いたかったのではないかと予想した。
だから傘を持っていない相手の前を現れることはないのでは、と考えたのだ。
『女の子絡みの事件を調べておきました。資料は陽向が持っています』
「ありがとう」
ラジオ越しの言葉に感謝しつつ、陽向がに手渡された資料を見る。
正直目を背けたくなるものもあったが、そんなことを言ってはいられない。
「今夜ケリをつけよう。次の雨まで待っていたら、あの子はきっと暴走してしまう」
「了解です!頑張りましょうね」
「桜良、先生たちにも伝えておいてくれ。私はこれから誘いだしに行ってみる」
『…分かりました。気をつけてくださいね』
「ありがとう」
そのまま外に出て紅をつける。
念のため戦えるよう備えておくべきだろう。
しとしとと雨が降る中、今度はパーカーのフードをかぶり傘をさす。
少し歩いたところで、先程と同じ手が袖を引っ張った。
《イ、エ…》
「この傘、古いけど使うか?私はこれがあるから濡れないし、風邪ひいたら大変だもんな」
手渡すと、子どもは首を傾げている。
《入れ、テ、くれルの?》
「ああ。その傘はもうおまえのものだ。好きに使ってくれ」
《私の、傘…》
女の子は大切そうに握りしめた後、じっと私を見つめる。
「どうした?」
《私の傘、盗られちゃったの。ピンクのちょうちょがついた、ふりふりの…》
だからこの子は傘にこだわっていたのか。
《お兄ちゃんが買ってきてくれたの。でも、自転車の人に盗られて…》
「酷い話だな」
一瞬見えた女の子の表情は、鬼のような形相をしていた。
目は血走り、どろどろと口から血を垂れ流している。
そして、重い声ではっきり言った。
《アノ傘、ドコ?》
学校へ戻ると、陽向が苦笑しながら資料をまとめていた。
「先生から聞いたのか」
「まさか傘を放り投げるとは思わなかったって言ってました。
そのまま襲われていたかもしれないのに、なんでそんなことをやろうって思ったんですか?」
「雨女が固執しているのが、傘を持った人間なのか傘それ自体なのか知りたかったんだ」
「先輩はどんな答えを出したんですか?」
わくわくした様子で尋ねてくる陽向に淡々と答えた。
「恐らく、傘を探しているんだと思う。だから誰かに入れてほしかったんじゃないかって思ってるんだ」
「え?それって、話しかけられた人間たちは襲われたわけじゃなくて傘に入れてって言われて驚いたってことですか?」
「暴走傾向に入っているのか、ちゃんと発音できていなかったんだ。
もしかしたら貸してだったのかもしれないし、まだ真相に辿り着けたわけじゃない」
いえ、いえとずっと言っていたのは、入れてと言いたかったのではないかと予想した。
だから傘を持っていない相手の前を現れることはないのでは、と考えたのだ。
『女の子絡みの事件を調べておきました。資料は陽向が持っています』
「ありがとう」
ラジオ越しの言葉に感謝しつつ、陽向がに手渡された資料を見る。
正直目を背けたくなるものもあったが、そんなことを言ってはいられない。
「今夜ケリをつけよう。次の雨まで待っていたら、あの子はきっと暴走してしまう」
「了解です!頑張りましょうね」
「桜良、先生たちにも伝えておいてくれ。私はこれから誘いだしに行ってみる」
『…分かりました。気をつけてくださいね』
「ありがとう」
そのまま外に出て紅をつける。
念のため戦えるよう備えておくべきだろう。
しとしとと雨が降る中、今度はパーカーのフードをかぶり傘をさす。
少し歩いたところで、先程と同じ手が袖を引っ張った。
《イ、エ…》
「この傘、古いけど使うか?私はこれがあるから濡れないし、風邪ひいたら大変だもんな」
手渡すと、子どもは首を傾げている。
《入れ、テ、くれルの?》
「ああ。その傘はもうおまえのものだ。好きに使ってくれ」
《私の、傘…》
女の子は大切そうに握りしめた後、じっと私を見つめる。
「どうした?」
《私の傘、盗られちゃったの。ピンクのちょうちょがついた、ふりふりの…》
だからこの子は傘にこだわっていたのか。
《お兄ちゃんが買ってきてくれたの。でも、自転車の人に盗られて…》
「酷い話だな」
一瞬見えた女の子の表情は、鬼のような形相をしていた。
目は血走り、どろどろと口から血を垂れ流している。
そして、重い声ではっきり言った。
《アノ傘、ドコ?》
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