夜紅譚

黒蝶

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第3章『雨に魅入られたもの』

第15話

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「雨空の下で飴を渡して助かった被害者が多いみたいだが、雨女の顔を見ていないのは変だな。
私が聞いた噂の中にも飴を渡すと仲良くなれるというものがあったけど、それなら誰かひとりくらい顔を見ていないとおかしい」
「言われてみると、たしかに不思議ですね。みんながみんな俯いて渡すわけじゃないだろうに…」
その言葉を聞いてはっとする。
ここで、あるひとつの仮説をたてた。
「もしかすると、相手は小さい子どもの姿をしているんじゃないか?」
「あ、そっか!それなら俯いたぐらいじゃ顔は見えませんね」
「あるいは、相手が八尺様くらい大きい体をしていたらどんなに見上げても見えないはずだ」
「そっちだったら俺、どうやって立ち向かえばいいですかね…」
とにかく、相手の体は私たちよりはるかに大きいか小さいかのどちらかである可能性が高い。
誰も見た目すら覚えていない以上、それが分かっただけでも収穫だ。
「あとはみんなが集まってから考えるしかないな」
「ですね。…桜良、聞こえる?」
『聞こえてる。詩乃先輩、他に聞いている情報はありませんか?』
「ごめん。先生が何か知ってるみたいだったけど、授業前だったから聞けなかったんだ。
それに、大学は生徒が多いからまだ顔と名前が一致してない。」
『そうですか…』
できればいなくなったであろう人物を特定したかったが、そう簡単にはいかないようだ。
『私の方でも少し調べてみます』
「ありがとう。助かるよ」
ラジオ越しに桜良の声を聞きながら、どう対処すべきか考える。
実は、夕方になって生徒が少なくなったら試してみたいことがあった。

「悪い。待たせたな」
「いや、いいんだ。忙しいんだし…そうだ、ひとつ試したいことがある」
外はまだ雨。試すなら今しかない。
先生は首を傾げながら、そのまま近くで待っていてくれることになった。
傘を持ったまま空を見上げる。
すると、小さな手が私の服を掴んだ。
「…こんにちは」
しゃがんで視線を合わせようとすると、いきなり首を掴まれそうになる。
《イ、エ、》
「…!」
空に向かって傘を投げると、相手ははっとしたように私から離れる。
《イ、エ……ェ》
「小さい声じゃよく聞こえないな」
相手はそのまま走り去ってしまった。
びしょ濡れになってしまったものの、雨女…もとい、雨子どもは傘に関係しているようだ。
「そのままだと風邪ひくぞ」
「ごめん。これから楽器屋のバイトがあるから、ついでに隣の銭湯に行ってくるよ」
「…岡副たちには伝えておく」
「ありがとう」
そのままの格好で走り抜け、銭湯まで一直線に向かう。
温かい湯船に浸かりながら、これからのことを少し考えた。
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