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第3章『雨に魅入られたもの』
第13話
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「おはよう」
「おはよう…」
結局昨夜は何もおこらず、そのまま解散になった。
久しぶりの誰かと食べる朝食は、少しだけにぎやかだ。
「昨日、白露に洗濯物をたたむの手伝ってもらったんだ」
「そうなのか?」
《…住処と霊力を提供してもらっているのだから、あの程度当然だ》
「ありがとう。正直手伝ってくれると助かるよ」
白露は首を傾げながら問いかけてきた。
《何故おまえたちが作った料理には霊力がこめられているんだ?》
「意識したことなかったな…」
「私も。それなら、白露にとってすごく美味しいご飯になってるの?」
《…分からない。前の持ち主は俺を道具として扱っていたからな》
「…?白露は人だよ?」
穂乃は時々抜けているところがある。
おそらく今の言葉の意味がよく分かっていない。
だが、白露は過去についてあまり言及されたくなさそうな顔をしていたので話題を変えた。
「そういえば、今日は雨だな」
「雨女が来るかもしれないってこと…?」
「心配しなくても、夜まではあまり悪さできないはずだ。
悪戯にしても何か理由があるにしても、早く止めたいところだな」
穂乃の不安を拭いながら、どう手を打つか思考を巡らせる。
だが、相手の姿も知らないのに対処するのは難しいだろう。
「いけない、もう行かないと!ごちそうさまでした。いってきます」
「いってらっしゃい」
《……》
白露は両手をあわせ立ちあがる。
そのまま穂乃を追いかける姿に頼もしさを感じた。
「では、今回の講義は…」
教授が説明している間、あまり話を聞かず朝陽向が連絡してくれた内容を精査する。
雨女に飴を渡すと仲良くなれるらしいとか傘を持っていないと襲われないとか、よく分からない条件が多い。
ただ、相手が死者だった場合は納得できる。
「では、今回はここまで」
気づくと講義は終わっていて、生徒たちが楽しそうに話しながら移動していく。
大学部に入っても、私がひとりでいることは変わらなかった。
だが、変えようとも思わない。
時々会って話す相手がいればそれだけで充分だ。
「見て、憲兵姫よ」
「相変わらず凛としてるな…」
「憲兵姫って何?」
「あの人だよ。高等部の頃…」
そんな事を話しているのを聞きながら、内心苦笑する。
相変わらず監査部にいた頃のイメージが強いらしく、同じようにエスカレーター式で進学した生徒の一部が触れ回っているようだ。
「…連絡通路、調べてみるか」
特にやることがなかった私は、独自に調査してみることにした。
外は雨が降っていて、とても出られる状態ではなかったから。
そのとき、雨音に混じって悲鳴が聞こえた。
「おはよう…」
結局昨夜は何もおこらず、そのまま解散になった。
久しぶりの誰かと食べる朝食は、少しだけにぎやかだ。
「昨日、白露に洗濯物をたたむの手伝ってもらったんだ」
「そうなのか?」
《…住処と霊力を提供してもらっているのだから、あの程度当然だ》
「ありがとう。正直手伝ってくれると助かるよ」
白露は首を傾げながら問いかけてきた。
《何故おまえたちが作った料理には霊力がこめられているんだ?》
「意識したことなかったな…」
「私も。それなら、白露にとってすごく美味しいご飯になってるの?」
《…分からない。前の持ち主は俺を道具として扱っていたからな》
「…?白露は人だよ?」
穂乃は時々抜けているところがある。
おそらく今の言葉の意味がよく分かっていない。
だが、白露は過去についてあまり言及されたくなさそうな顔をしていたので話題を変えた。
「そういえば、今日は雨だな」
「雨女が来るかもしれないってこと…?」
「心配しなくても、夜まではあまり悪さできないはずだ。
悪戯にしても何か理由があるにしても、早く止めたいところだな」
穂乃の不安を拭いながら、どう手を打つか思考を巡らせる。
だが、相手の姿も知らないのに対処するのは難しいだろう。
「いけない、もう行かないと!ごちそうさまでした。いってきます」
「いってらっしゃい」
《……》
白露は両手をあわせ立ちあがる。
そのまま穂乃を追いかける姿に頼もしさを感じた。
「では、今回の講義は…」
教授が説明している間、あまり話を聞かず朝陽向が連絡してくれた内容を精査する。
雨女に飴を渡すと仲良くなれるらしいとか傘を持っていないと襲われないとか、よく分からない条件が多い。
ただ、相手が死者だった場合は納得できる。
「では、今回はここまで」
気づくと講義は終わっていて、生徒たちが楽しそうに話しながら移動していく。
大学部に入っても、私がひとりでいることは変わらなかった。
だが、変えようとも思わない。
時々会って話す相手がいればそれだけで充分だ。
「見て、憲兵姫よ」
「相変わらず凛としてるな…」
「憲兵姫って何?」
「あの人だよ。高等部の頃…」
そんな事を話しているのを聞きながら、内心苦笑する。
相変わらず監査部にいた頃のイメージが強いらしく、同じようにエスカレーター式で進学した生徒の一部が触れ回っているようだ。
「…連絡通路、調べてみるか」
特にやることがなかった私は、独自に調査してみることにした。
外は雨が降っていて、とても出られる状態ではなかったから。
そのとき、雨音に混じって悲鳴が聞こえた。
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