15 / 309
第3章『雨に魅入られたもの』
第12話
しおりを挟む
「遅れてごめん。バイト先の店長に捕まってた。お詫びに夜食を持ってきたよ」
「わあ、美味しそう!僕も食べていい?」
「勿論だ」
瞬が夜食に持ってきたおにぎりを食べはじめ、他の面々もおかずをつまんでくれた。
「先輩、今日はいくつバイト行ったんですか?」
「ふたつ。猫カフェと喫茶店。あ、ヘルプで1時間楽器屋にも行ったな…」
「体壊さないように気をつけてくださいね」
「それはこっちの台詞だ。今夜は絶対死ぬな」
「気をつけます」
いくら死なない体とはいえ、心に蓄積されたダメージは大きいだろう。
「陽向は私と偵察。先生と瞬は何か変化があれば教えてくれ」
「気をつけてね」
「ありがとう。いってきます」
この日は曇りで、雨降る日にやってくる怪異が現れるかは五分五分だった。
「先輩」
「どうした?」
「大学棟って開いてるんですかね?」
「そういえば、試したことがなかったな…」
実は新校舎にある連絡通路を使えば、大学棟へ抜けられるらしいと先生が教えてくれた。
知る人ぞ知る隠れスポットになっているらしく、私と先生以外が通るのを見たことがない。
「…行ってみるか」
「なんかわくわくします」
「そういえば、進路は考えているのか?」
「先輩と似たような学部に入るつもりです。短大部の文学系にしようかと」
「そうか」
陽向は今年受験になる。
私のときもそうだったが、エスカレーター式で上がって学費免除を手に入れるには試験を上位でパスしなければならない。
「先輩、今度数学教えてください。せめて半額免除の枠には入りたいんです」
「分かった。いつでも声をかけてくれ」
「ありがとうございます」
陽向は少し眠そうに欠伸をした。
彼は今、生徒会からも独立した教師や生徒たちを取り締まる権利を持つ監査部の部長をしている。
去年までは私がやっていたが、部長となると万年人手不足のあの場所では激務になってしまう。
「夜仕事、少しは休んでもいいんだぞ」
「いやいや、この時間を楽しみに頑張れるんですから。けど、心配してくれてありがとうございます」
「特に収穫はなさそうだし、そろそろ戻るか」
「ですね」
戻ろうとしたとき、何かが光っているように見えてその方へ走る。
そこは、大学棟へと繋がる通路だった。
「…誰かいるのか?」
声をかけてみたものの、返事はかえってこない。
少し気になったがわ陽向に呼ばれてその場を後にする。
噂に関係あるのか、あるいは別の何かができようとしているのか。
また見に来ようと決め、その場を後にする。
──背後で誰かが、何かの頁を捲っているとも知らずに。
「わあ、美味しそう!僕も食べていい?」
「勿論だ」
瞬が夜食に持ってきたおにぎりを食べはじめ、他の面々もおかずをつまんでくれた。
「先輩、今日はいくつバイト行ったんですか?」
「ふたつ。猫カフェと喫茶店。あ、ヘルプで1時間楽器屋にも行ったな…」
「体壊さないように気をつけてくださいね」
「それはこっちの台詞だ。今夜は絶対死ぬな」
「気をつけます」
いくら死なない体とはいえ、心に蓄積されたダメージは大きいだろう。
「陽向は私と偵察。先生と瞬は何か変化があれば教えてくれ」
「気をつけてね」
「ありがとう。いってきます」
この日は曇りで、雨降る日にやってくる怪異が現れるかは五分五分だった。
「先輩」
「どうした?」
「大学棟って開いてるんですかね?」
「そういえば、試したことがなかったな…」
実は新校舎にある連絡通路を使えば、大学棟へ抜けられるらしいと先生が教えてくれた。
知る人ぞ知る隠れスポットになっているらしく、私と先生以外が通るのを見たことがない。
「…行ってみるか」
「なんかわくわくします」
「そういえば、進路は考えているのか?」
「先輩と似たような学部に入るつもりです。短大部の文学系にしようかと」
「そうか」
陽向は今年受験になる。
私のときもそうだったが、エスカレーター式で上がって学費免除を手に入れるには試験を上位でパスしなければならない。
「先輩、今度数学教えてください。せめて半額免除の枠には入りたいんです」
「分かった。いつでも声をかけてくれ」
「ありがとうございます」
陽向は少し眠そうに欠伸をした。
彼は今、生徒会からも独立した教師や生徒たちを取り締まる権利を持つ監査部の部長をしている。
去年までは私がやっていたが、部長となると万年人手不足のあの場所では激務になってしまう。
「夜仕事、少しは休んでもいいんだぞ」
「いやいや、この時間を楽しみに頑張れるんですから。けど、心配してくれてありがとうございます」
「特に収穫はなさそうだし、そろそろ戻るか」
「ですね」
戻ろうとしたとき、何かが光っているように見えてその方へ走る。
そこは、大学棟へと繋がる通路だった。
「…誰かいるのか?」
声をかけてみたものの、返事はかえってこない。
少し気になったがわ陽向に呼ばれてその場を後にする。
噂に関係あるのか、あるいは別の何かができようとしているのか。
また見に来ようと決め、その場を後にする。
──背後で誰かが、何かの頁を捲っているとも知らずに。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
星渦のエンコーダー
山森むむむ
ライト文芸
繭(コクーン)というコックピットのような機械に入ることにより、体に埋め込まれたチップで精神を電脳世界に移行させることができる時代。世界は平和の中、現実ベースの身体能力とアバターの固有能力、そして電脳世界のありえない物理法則を利用して戦うレースゲーム、「ネオトラバース」が人気となっている。プロデビューし連戦連勝の戦績を誇る少年・東雲柳は、周囲からは順風満帆の人生を送っているかのように見えた。その心の断片を知る幼馴染の桐崎クリスタル(クリス)は彼を想う恋心に振り回される日々。しかしある日、試合中の柳が突然、激痛とフラッシュバックに襲われ倒れる。搬送先の病院で受けた治療のセッションは、彼を意のままに操ろうとする陰謀に繋がっていた。柳が競技から離れてしまうことを危惧して、クリスは自身もネオトラバース選手の道を志願する。
二人は名門・未来ノ島学園付属高専ネオトラバース部に入部するが、その青春は部活動だけでは終わらなかった。サスペンスとバーチャルリアリティスポーツバトル、学校生活の裏で繰り広げられる戦い、そしてクリスの一途な恋心。柳の抱える過去と大きな傷跡。数々の事件と彼らの心の動きが交錯する中、未来ノ島の日々は一体どう変わるのか?
強面男の行進曲
C@CO
ライト文芸
とある地方都市のほぼ中心部に位置する商店街の一角で店を構えている細谷誠治はコンプレックスの塊である。
大柄で筋肉質、ガタイの良い肉体、どんな時にも表情筋が動かない顔、etc。「男らしい」と称える人もいるだろうが、誠治にとっては「欠陥だらけの身体」だった。
理由は、商売人として客を怖がらせるから。せいぜい役立つのは、夏祭りで近所の悪ガキたちがやる肝試しに怖がらせる側として参加する時くらい(一年で最も楽しいことではある)。おまけに、生花店を営むのに、花を飾るセンスが欠片もない。酒も飲めない。
それでも、自分の人生は幸せな方だと思っていた。常連客からの贔屓によって店の営みに今のところ問題はない。商店街の先輩店主たちからは可愛がられ、幼い時からの幼馴染も多くいる。中学高校の同級生で妻の美里もいた。
つまづいたのは、美里の浮気を知った時。
同時に、行進曲の公演開幕のベルが鳴る。曲を奏でるのは、強面男と横に並び支える仲間たち。
*
全3話、2万6千字。
カクヨムで先行して投稿しています。
小説家になろうにも投稿しています。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~
yolu
ライト文芸
café R のオーナー・莉子と、後輩の誘いから通い始めた盲目サラリーマン・連藤が、料理とワインで距離を縮めます。
連藤の同僚や後輩たちの恋愛模様を絡めながら、ふたりの恋愛はどう進むのか?
※小説家になろうでも連載をしている作品ですが、アルファポリスさんにて、書き直し投稿を行なっております。第1章の内容をより描写を濃く、エピソードを増やして、現在更新しております。
サレ夫が愛した女性たちの追憶
しらかわからし
ライト文芸
この小説は、某ブログで掲載していたものですが、この度閉鎖しアクアポリス様だけで掲載いたします。
愛と欲望、裏切りと再生をテーマに主人公自身が女性たちと交錯し、互いに影響をし合いながら変化していく、様子を描きました。暫く、公開を停止していたのですが、本日(2024年10月5日)より再公開させて頂きました。
表紙の画像はCANVA様からお借りしました。
夜紅の憲兵姫
黒蝶
ライト文芸
烏合学園監査部…それは、生徒会役員とはまた別の権威を持った独立部署である。
その長たる高校部2年生の折原詩乃(おりはら しの)は忙しい毎日をおくっていた。
妹の穂乃(みの)を守るため、学生ながらバイトを複数掛け持ちしている。
…表向きはそういう学生だ。
「普通のものと変わらないと思うぞ。…使用用途以外は」
「あんな物騒なことになってるなんて、誰も思ってないでしょうからね…」
ちゃらい見た目の真面目な後輩の陽向。
暗い過去と後悔を抱えて生きる教師、室星。
普通の人間とは違う世界に干渉し、他の人々との出逢いや別れを繰り返しながら、詩乃は自分が信じた道を歩き続ける。
これは、ある少女を取り巻く世界の物語。
腐っている侍女
桃井すもも
恋愛
私は腐っております。
腐った侍女でございます。
腐った眼(まなこ)で、今日も麗しの殿下を盗み視るのです。
出来過ぎ上司の侍従が何やらちゃちゃを入れて来ますが、そんなの関係ありません。
短編なのに更に短めです。
内容腐り切っております。
お目汚し確実ですので、我こそは腐ってみたいと思われる猛者読者様、どうぞ心から腐ってお楽しみ下さい。
昭和のネタが入るのはご勘弁。
❇相変わらずの100%妄想の産物です。
❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。
疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。
❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。
「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 11/19 『夫の疑問、妻の確信3』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/15
*『夫の疑問、妻の確信2』
11/11
*『夫の疑問、妻の確信 1 』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる