未熟な蕾ですが

黒蝶

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第2項

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「……」
《なんでひとりなの?》
「少し風に当たりたかったの」
結月は黒猫の姿から猫娘の姿になる。
「あなたは電話から離れていいの?」
恋愛電話の噂…本気の告白なら相手に繋がり、恋愛成就の助けになってくれる存在。
それの持ち主が結月だ。
昔は飼い猫として暮らしていた彼女が人間嫌いになり、一時期は噂を悪い方向へ捻じ曲げられてしまっていた。
色々あって今は時々お茶会をする仲だ。
「今夜はいいのよ。どうせ夜中なら誰もかけに来やしないから」
「…そう」
「あんたこそ、放送室から出てくるなんて珍しいじゃない。何かあったの?」
「特に変わったことはない。ただ、何かいるようなら少し見ておこうと思っただけ」
「何かって、ああいうやつのこと?」
結月が指さした方には、がちゃがちゃと音をたてて歩く何かがいた。
目を合わさないように気をつけていたけれど、最終的に向こうがこちらに突進してくる。
《ヴォア!》
本来であれば避けたいけれど、ゆっくり息を吸って言葉をぶつける。
「【動かないで】」
《……ア?》
満月が近いから、この程度では体力が減ることもない。
普段は噂を変えるために使っているローレライに近い声の力を、今回は相手を意のままに操る方向で使った。
相手の体が石化するのを見届けた後、結月の手を引いて放送室へ急いだ。
「はあ……」
息が切れて話せない私を見て、結月はただ息を吐く。
「あんなに走らなくても追いつけなかったんじゃない?」
「満月が近いということは、あちらの力も強いということだから…。気をつけておくに越したことはないと思ったの」
「それもそうね。無茶しない程度にやってるの、あんたと夜紅妹くらいだし」
結月の話を聞いて、ふと疑問に思ったことがある。
「…白露は?」
「時々無理しているように見えるわ。…本人に自覚はないでしょうけど」
とても過酷な境遇のなか必死にやってきたことは知っているし、人として扱われていなかったことも分かっているつもりだ。
…やっぱり式神だから無理をしてしまうのだろうか。
「無理とか無茶とか、そういう概念を持ってないのよ。それが当たり前の日常だったんだから」
「式神について詳しいのね」
「少し本で読んだ程度よ」
放送室の資料が時々消えていたのは、きっと結月が持ち出して読んでいたからだ。
少し微笑ましく思っていると、むっとした顔でこちらを見ている結月の視線が突き刺さる。
「なんだか楽しんでない?」
「そんなことはないわ。ただ、少し考え事をしていただけ」
夜食も作っておいたし、結月にも味見してもらおう。
…なんて呑気なことを考えていた。
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