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勝利
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「くそ、化け物め…」
光の矢を放とうとしたみたいだけど、やっぱり出なかった。
そうなるように力を斬ったのだから当然だ。
「もう二度とその眼に普通の人間には視えないものがうつることはない。もう諦めろ」
「僕が何をしたっていうんだ!僕はただ、人の為に、」
「人の為に噂を暴走させて、自分の手は汚さず関わった人たちから笑顔を奪うのが誰かの為?…ふざけるな」
抑えていた怒りが全部飛び散りそうだ。
本当ならこの男を塵になるまでいたぶるのが正解なのかもしれない。
ただ、暴力を暴力で返して何が生まれるというのか。
フードの男の素顔を覚えておきたくて洋服に触ろうとすると、勢いよく後ろに倒れる。
思った以上に疲れていたのか、それとも…。
『こちらです』
「君は、あの屋敷のメイド?」
「なんだ、誰かいるのか?」
あの男の目には何もうつっていないらしい。
あの男なりに事情があったのかもしれないが、俺はやっぱり許せなかった。
『行きましょう』
「…分かった」
大人しくついていくことにしたものの、3人の姿が見当たらない。
『誰かお探しですか?』
「ちゃんと逃げられたのか心配で…」
『大丈夫。この部屋にいます』
久しぶりに入った屋敷で辺りを見回すと、そこには横たわる手鞠と心配そうに見つめる瑠璃と小鞠の姿があった。
「手鞠、起きないのか」
『どうやら核の一部に損傷が見られるようです。私に分かるのはそこまでですが…』
「そうか。助けてくれてありがとう」
メイドにも感謝の言葉を伝え、ただ鞄をじっと見つめる。
小鞠は俺の方に寄ってきた後、そのまま眠ってしまった。
『何か核の代わりにできるようなものがあればよかったのですが、あの状況で見つけることはできなくて…』
「…なるかは分からないけど、思い当たるものならある」
鞄から小さな袋ごと出てきたのは、少し前にシェリからもらったひと品だ。
『それはたしか、幸運をもたらすと言われている石ですか?』
「うん。さっきあの男と戦っているときにこれだけ反応を示さなかったんだ。
つまり、俺にはこの石の力を引き出すことはできないんじゃないかって…無謀かな?」
『いいえ。案外いけそうです』
「やってみるか」
ぱっと光ったそれはただ輝いているだけではなく、手鞠の体の真ん中の方に向かって勝手に進んでいく。
それは溶けこむように消えていった。
『目を覚ますまでには時間が掛かりそうですが、命を落とすことはないでしょう』
「よかった…」
『八尋』
「なに?」
『そろそろ教えてもらえませんか?』
「…そうだな」
ここまで巻きこんでしまっては、話さないわけにもいかない。
小鞠の頭を撫でながら、言葉を選んでゆっくり話す。
「昔、あの男に大切な友人を消されたことがあるんだ」
光の矢を放とうとしたみたいだけど、やっぱり出なかった。
そうなるように力を斬ったのだから当然だ。
「もう二度とその眼に普通の人間には視えないものがうつることはない。もう諦めろ」
「僕が何をしたっていうんだ!僕はただ、人の為に、」
「人の為に噂を暴走させて、自分の手は汚さず関わった人たちから笑顔を奪うのが誰かの為?…ふざけるな」
抑えていた怒りが全部飛び散りそうだ。
本当ならこの男を塵になるまでいたぶるのが正解なのかもしれない。
ただ、暴力を暴力で返して何が生まれるというのか。
フードの男の素顔を覚えておきたくて洋服に触ろうとすると、勢いよく後ろに倒れる。
思った以上に疲れていたのか、それとも…。
『こちらです』
「君は、あの屋敷のメイド?」
「なんだ、誰かいるのか?」
あの男の目には何もうつっていないらしい。
あの男なりに事情があったのかもしれないが、俺はやっぱり許せなかった。
『行きましょう』
「…分かった」
大人しくついていくことにしたものの、3人の姿が見当たらない。
『誰かお探しですか?』
「ちゃんと逃げられたのか心配で…」
『大丈夫。この部屋にいます』
久しぶりに入った屋敷で辺りを見回すと、そこには横たわる手鞠と心配そうに見つめる瑠璃と小鞠の姿があった。
「手鞠、起きないのか」
『どうやら核の一部に損傷が見られるようです。私に分かるのはそこまでですが…』
「そうか。助けてくれてありがとう」
メイドにも感謝の言葉を伝え、ただ鞄をじっと見つめる。
小鞠は俺の方に寄ってきた後、そのまま眠ってしまった。
『何か核の代わりにできるようなものがあればよかったのですが、あの状況で見つけることはできなくて…』
「…なるかは分からないけど、思い当たるものならある」
鞄から小さな袋ごと出てきたのは、少し前にシェリからもらったひと品だ。
『それはたしか、幸運をもたらすと言われている石ですか?』
「うん。さっきあの男と戦っているときにこれだけ反応を示さなかったんだ。
つまり、俺にはこの石の力を引き出すことはできないんじゃないかって…無謀かな?」
『いいえ。案外いけそうです』
「やってみるか」
ぱっと光ったそれはただ輝いているだけではなく、手鞠の体の真ん中の方に向かって勝手に進んでいく。
それは溶けこむように消えていった。
『目を覚ますまでには時間が掛かりそうですが、命を落とすことはないでしょう』
「よかった…」
『八尋』
「なに?」
『そろそろ教えてもらえませんか?』
「…そうだな」
ここまで巻きこんでしまっては、話さないわけにもいかない。
小鞠の頭を撫でながら、言葉を選んでゆっくり話す。
「昔、あの男に大切な友人を消されたことがあるんだ」
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