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救援
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「なんでここに…危ないですよ」
『危険なのはあなたも同じでしょう?それに、自分は自分がやるべきことを全うしただけです』
名もなき美術館の中は前に来たときより少し明るくなっているような気がする。
目の前に立っている館長は優雅に微笑んだ。
『パンフレットをなくさずお持ちいただきありがとうございます。今のこの場所にあの男は入れません。
何も返せないのは歯痒いと考えていたのですが、なんとか自分の意思で美術館を移動させられるようになりましたので…しばらく休んでいってください』
「ありがとうございます」
瑠璃たちもここにいるのかと見回してみたものの、パンフレットを持っていなければ入れないのならこの場所にはいないと肩を落とす。
みんなは逃げ切れただろうか。
『浮かない顔ですね。その怪我のせいでしょうか?』
「実は、ある人たちを逃したくてひとりで残ったんです。
逃げ切れたのか知る術がないから心配で…。それに、早く戻らないとあの男がどうなるか分かりませんから」
俺が無事でも意味がない。
みんなを逃がすのが今回の俺の役目なのに、それを果たせなかったらあのときと同じだ。
『今は大丈夫ですよ。どうやら外の時が止まっているようだ』
「時間が止まってるんですか?」
『あの方をご存知ですか?』
窓の外を指さされて覗いてみると、そこには眠っていた時計塔の姫がいた。
「話したことはありません。だけど、あの人は友人の友人です」
『そうでしたか。それでは、今のうちに止血しておきましょう』
まさかこんな形で助けに来てもらえるなんて思っていなかった。
「ありがとうございました」
『いえ。これはただ、あなた方に助けていただいたお返しがしたかっただけですので…。またいらしていただけますか?』
「勿論です」
お待ちしていますという一言で送り出された俺の手には、真新しいパンフレットがおさまっている。
扉を抜けた先で立っていた女性に声をかけた。
「あの…」
『あなたが八尋?』
「え、そうですけど…瑠璃から聞いたんですか?」
それに、どうして俺は動けているんだろう。
目の前の人物に聞こうとすると、少し苦しげに表情を歪めた。
「大丈夫ですか?」
『ええ。ですがあまり長くは持ちません』
「俺ならもう大丈夫です。あなたが起きられてよかった」
『…あの子から聞いたとおり、優しい子のようですね。そろそろあの男の刻を動かします。
あなたにもあの子にもお礼が言いたかったのです。ありがとう』
「こちらこそありがとうございました」
傷が塞がったわけじゃない。それでもさっきよりずっと動きやすいし、ふたりの優しさが伝わってきた。
微笑んだ姫君は消えて、目の前の男が動きはじめる。
「君、瞬間移動でもできるの?」
「俺にそんなことはできない。おまえみたいに誰彼構わず消せばいいとも思ってない。
理解してほしいとは言わないけど、俺はおまえを否定する」
「できるものならやってみろ!」
やっぱり強いけど、ここで負けるわけにはいかない。
引き続き鞄に入っているものを使って攻撃を防いだ。
『危険なのはあなたも同じでしょう?それに、自分は自分がやるべきことを全うしただけです』
名もなき美術館の中は前に来たときより少し明るくなっているような気がする。
目の前に立っている館長は優雅に微笑んだ。
『パンフレットをなくさずお持ちいただきありがとうございます。今のこの場所にあの男は入れません。
何も返せないのは歯痒いと考えていたのですが、なんとか自分の意思で美術館を移動させられるようになりましたので…しばらく休んでいってください』
「ありがとうございます」
瑠璃たちもここにいるのかと見回してみたものの、パンフレットを持っていなければ入れないのならこの場所にはいないと肩を落とす。
みんなは逃げ切れただろうか。
『浮かない顔ですね。その怪我のせいでしょうか?』
「実は、ある人たちを逃したくてひとりで残ったんです。
逃げ切れたのか知る術がないから心配で…。それに、早く戻らないとあの男がどうなるか分かりませんから」
俺が無事でも意味がない。
みんなを逃がすのが今回の俺の役目なのに、それを果たせなかったらあのときと同じだ。
『今は大丈夫ですよ。どうやら外の時が止まっているようだ』
「時間が止まってるんですか?」
『あの方をご存知ですか?』
窓の外を指さされて覗いてみると、そこには眠っていた時計塔の姫がいた。
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『そうでしたか。それでは、今のうちに止血しておきましょう』
まさかこんな形で助けに来てもらえるなんて思っていなかった。
「ありがとうございました」
『いえ。これはただ、あなた方に助けていただいたお返しがしたかっただけですので…。またいらしていただけますか?』
「勿論です」
お待ちしていますという一言で送り出された俺の手には、真新しいパンフレットがおさまっている。
扉を抜けた先で立っていた女性に声をかけた。
「あの…」
『あなたが八尋?』
「え、そうですけど…瑠璃から聞いたんですか?」
それに、どうして俺は動けているんだろう。
目の前の人物に聞こうとすると、少し苦しげに表情を歪めた。
「大丈夫ですか?」
『ええ。ですがあまり長くは持ちません』
「俺ならもう大丈夫です。あなたが起きられてよかった」
『…あの子から聞いたとおり、優しい子のようですね。そろそろあの男の刻を動かします。
あなたにもあの子にもお礼が言いたかったのです。ありがとう』
「こちらこそありがとうございました」
傷が塞がったわけじゃない。それでもさっきよりずっと動きやすいし、ふたりの優しさが伝わってきた。
微笑んだ姫君は消えて、目の前の男が動きはじめる。
「君、瞬間移動でもできるの?」
「俺にそんなことはできない。おまえみたいに誰彼構わず消せばいいとも思ってない。
理解してほしいとは言わないけど、俺はおまえを否定する」
「できるものならやってみろ!」
やっぱり強いけど、ここで負けるわけにはいかない。
引き続き鞄に入っているものを使って攻撃を防いだ。
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