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発動
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『八尋』
「ごめん、また意識を飛ばして…」
『それは構いませんが、どこも痛いところはありませんか?』
「俺は平気だよ」
『それならよかったです』
瑠璃の安心しきった声に体を起こす。
「どのくらい寝てた?」
『20分ほどでしょうか』
「そんなに寝てたのか、俺」
苦笑しながら自分の手に視線をやると、香炉の欠片が跡形もなく消えるところだった。
「この香炉、もしかすると前の持ち主は妖だったのかもしれない」
『その言い方だと、まるで今は違ったように聞こえますが…』
「今持ってたのは多分あの男だよ。だけど、香炉から流れてきた記憶は小鞠たちを創った妖もののものだった」
『手がかりは得られましたか?』
「少しだけ」
それから俺は見たことを噛み砕いて話す。
これがきちんと情報に繋がるかなんて分からない。
それでも、小鞠を置いて俺に託した理由やもうひとりについて分かったこともある。
『つまり、怪我だらけで逃げられないであろう小鞠から逃し、幸運を運ぶ為もうひとりは一緒に逃げたと』
「そういうことでいいんだと思う。ただ、もうひとり…手鞠の存在を変化させた理由までは分からなかった」
『つまり、呪いの人形に変えられる前に事切れたということですね』
「…多分、そういうことだと思う」
多分としか言えないのは、自分の仮説に自信がないからだ。
噂を突然変異させてあの男にとっていいことがあるのか、そもそも変異させるのにどれだけ時間がかかるのか…まだまだ謎が多い。
『ここ、どこ』
「ごめん小鞠。起こした?」
『今、元気』
「そうか。それならいいんだ」
ぐっと腕を伸ばす小鞠を見ていると胸が締めつけられる。
優しい彼女は自分にとって大切だったらしいもうひとりのことを知れば、きっと苦しむだろう。
今は話さない方がいいのかもしれない。
『だっこ』
「え?」
『だっこ』
「分かった。こう?」
『大丈夫』
どうやら落ちこんでいるから励まそうと思ってくれたらしい。
髪をわしわしされながら、じっとこちらを見つめている。
「ありがとう。元気になったよ」
『よかった』
にこにこ楽しそうに笑う小鞠を撫でると、なんだか心が温かくなった。
『八尋、伏せてください』
「伏せる…こう?」
そのままの体勢でいると、槍のようなものが顔の真横にふってきた。
ただ、それには実体がないらしくすぐ消えてしまう。
すぐ近くに人の気配がして、そのまま様子を見ることにした。
「これで邪魔者は消えたか。…さあ、ここになら孤独を振り撒いて大丈夫ですよ。
世界の全てを呪うつもりで好きなようにしてください、手鞠」
立ちあがろうとしたけど、それより先によく分からない煙が立ちこめた。
「さて。そろそろ祓わせていただきましょう」
「ごめん、また意識を飛ばして…」
『それは構いませんが、どこも痛いところはありませんか?』
「俺は平気だよ」
『それならよかったです』
瑠璃の安心しきった声に体を起こす。
「どのくらい寝てた?」
『20分ほどでしょうか』
「そんなに寝てたのか、俺」
苦笑しながら自分の手に視線をやると、香炉の欠片が跡形もなく消えるところだった。
「この香炉、もしかすると前の持ち主は妖だったのかもしれない」
『その言い方だと、まるで今は違ったように聞こえますが…』
「今持ってたのは多分あの男だよ。だけど、香炉から流れてきた記憶は小鞠たちを創った妖もののものだった」
『手がかりは得られましたか?』
「少しだけ」
それから俺は見たことを噛み砕いて話す。
これがきちんと情報に繋がるかなんて分からない。
それでも、小鞠を置いて俺に託した理由やもうひとりについて分かったこともある。
『つまり、怪我だらけで逃げられないであろう小鞠から逃し、幸運を運ぶ為もうひとりは一緒に逃げたと』
「そういうことでいいんだと思う。ただ、もうひとり…手鞠の存在を変化させた理由までは分からなかった」
『つまり、呪いの人形に変えられる前に事切れたということですね』
「…多分、そういうことだと思う」
多分としか言えないのは、自分の仮説に自信がないからだ。
噂を突然変異させてあの男にとっていいことがあるのか、そもそも変異させるのにどれだけ時間がかかるのか…まだまだ謎が多い。
『ここ、どこ』
「ごめん小鞠。起こした?」
『今、元気』
「そうか。それならいいんだ」
ぐっと腕を伸ばす小鞠を見ていると胸が締めつけられる。
優しい彼女は自分にとって大切だったらしいもうひとりのことを知れば、きっと苦しむだろう。
今は話さない方がいいのかもしれない。
『だっこ』
「え?」
『だっこ』
「分かった。こう?」
『大丈夫』
どうやら落ちこんでいるから励まそうと思ってくれたらしい。
髪をわしわしされながら、じっとこちらを見つめている。
「ありがとう。元気になったよ」
『よかった』
にこにこ楽しそうに笑う小鞠を撫でると、なんだか心が温かくなった。
『八尋、伏せてください』
「伏せる…こう?」
そのままの体勢でいると、槍のようなものが顔の真横にふってきた。
ただ、それには実体がないらしくすぐ消えてしまう。
すぐ近くに人の気配がして、そのまま様子を見ることにした。
「これで邪魔者は消えたか。…さあ、ここになら孤独を振り撒いて大丈夫ですよ。
世界の全てを呪うつもりで好きなようにしてください、手鞠」
立ちあがろうとしたけど、それより先によく分からない煙が立ちこめた。
「さて。そろそろ祓わせていただきましょう」
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