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『…どうすればよかった?』
その妖の手には、さっき壊した香炉がちょこんとのっている。
何に悩んでいるのか全然分からない。
『なんでそんなに困った顔をしているの?』
『すまない。起こしたか』
少し先に見えたのは間違いなくもうひとりで、その姿を目に焼きつけておくことにした。
『私は平気。小鞠はまだ寝ているし、私でよければ話し相手くらいにはなれるわ』
『手鞠は相変わらず世話焼きなようだな』
『だって、あなたを放っておいたらご飯も食べ忘れそうなんだもの』
『何故そういう発想になる』
もうひとりは手鞠というらしい。
この頃から小鞠は少し朝が苦手だったのか、なかなか起きてこないようだった。
『次はどんな町に行くの?』
『この町だ』
『素敵な本屋があるのね。行ってみたいわ』
『時間があれば立ち寄ろう』
そんな話をしているふたりの方へ、傷ついた人が近づいていく。
『小鞠、もう痛くないか?』
『動ける。大丈夫だよ…多分』
話し方がつまりつまりになる以外、雰囲気までそのままだ。
小鞠と手鞠の大きさは同じくらいで、ふたりの子どもを育てているかのように妖はふたりを撫でた。
『ふたりとも、しっかり助け合うように』
『小鞠が困っていたらいつだって私が助けになるよ』
『助け……』
『どうしてそんな微妙そうな顔をするの?』
『頑張らないとって、思った』
見ているだけで微笑ましい。
しばらくすると、空の色が変わって別の日になった。
『小鞠を預かってもらいましょう』
『だが、おまえは、』
『私は幸福人形。あなたにだって幸せを届けてみせるわ』
『そうか。…小鞠、必ず迎えにくるからここで待っていてくれ。
この家の持ち主ならきっと大丈夫なはずだから』
そのまま走り去ったふたりに何かが追いつく。
「やっと見つけた」
…あの男だ。
『逃げて』
「無理だよ。君たちじゃ俺からは逃げられない」
ばち、と音がして巨大な炎が包みこむ。
『やめて!お願い、その人に手を出さないで!』
『逃げろ、手鞠…!』
手鞠はパニック状態で逃げられそうにない。
その様子を見ながら、男はただ口元に弧を描いた。
『ひ、人でなし……』
「君たちみたいな化け物にそんなことを言われるなんて、心外だな…悲しいよ」
『近づかないで!』
死体が転がったままになっているなか、後退って逃げはじめる。
だが、そんな抵抗も虚しく手鞠は首を掴まれた。
「災い転じて幸福となすというなら、幸福転じて禍となす、とも言えるよね?」
てっきりあのときと同じことをすると思っていたのに、男が強く握った瞬間手鞠の悲鳴があたりに響き渡った。
そうしているうちに体がどんどん黒ずんでいく。
何か話していたけど覚えていない。
ただひとつ分かったのは、誰がどうやって呪いの人形を完成させたかということだ。
その妖の手には、さっき壊した香炉がちょこんとのっている。
何に悩んでいるのか全然分からない。
『なんでそんなに困った顔をしているの?』
『すまない。起こしたか』
少し先に見えたのは間違いなくもうひとりで、その姿を目に焼きつけておくことにした。
『私は平気。小鞠はまだ寝ているし、私でよければ話し相手くらいにはなれるわ』
『手鞠は相変わらず世話焼きなようだな』
『だって、あなたを放っておいたらご飯も食べ忘れそうなんだもの』
『何故そういう発想になる』
もうひとりは手鞠というらしい。
この頃から小鞠は少し朝が苦手だったのか、なかなか起きてこないようだった。
『次はどんな町に行くの?』
『この町だ』
『素敵な本屋があるのね。行ってみたいわ』
『時間があれば立ち寄ろう』
そんな話をしているふたりの方へ、傷ついた人が近づいていく。
『小鞠、もう痛くないか?』
『動ける。大丈夫だよ…多分』
話し方がつまりつまりになる以外、雰囲気までそのままだ。
小鞠と手鞠の大きさは同じくらいで、ふたりの子どもを育てているかのように妖はふたりを撫でた。
『ふたりとも、しっかり助け合うように』
『小鞠が困っていたらいつだって私が助けになるよ』
『助け……』
『どうしてそんな微妙そうな顔をするの?』
『頑張らないとって、思った』
見ているだけで微笑ましい。
しばらくすると、空の色が変わって別の日になった。
『小鞠を預かってもらいましょう』
『だが、おまえは、』
『私は幸福人形。あなたにだって幸せを届けてみせるわ』
『そうか。…小鞠、必ず迎えにくるからここで待っていてくれ。
この家の持ち主ならきっと大丈夫なはずだから』
そのまま走り去ったふたりに何かが追いつく。
「やっと見つけた」
…あの男だ。
『逃げて』
「無理だよ。君たちじゃ俺からは逃げられない」
ばち、と音がして巨大な炎が包みこむ。
『やめて!お願い、その人に手を出さないで!』
『逃げろ、手鞠…!』
手鞠はパニック状態で逃げられそうにない。
その様子を見ながら、男はただ口元に弧を描いた。
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『近づかないで!』
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だが、そんな抵抗も虚しく手鞠は首を掴まれた。
「災い転じて幸福となすというなら、幸福転じて禍となす、とも言えるよね?」
てっきりあのときと同じことをすると思っていたのに、男が強く握った瞬間手鞠の悲鳴があたりに響き渡った。
そうしているうちに体がどんどん黒ずんでいく。
何か話していたけど覚えていない。
ただひとつ分かったのは、誰がどうやって呪いの人形を完成させたかということだ。
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