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伝言完了
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「栞奈、いるか?」
『…もう少し奥まで来てほしい』
「分かった、すぐ行くよ」
いつもと少し様子が違っている気はしたものの、どんな状態なのかまでは分からない。
「今動けそうにない?」
『なんだか彼女が怯えているから、ひとりにはできない』
「彼女?」
やがて栞奈がいる場所に辿り着くと、そこではひとりの女性ががたがた震えていた。
「こんにちは。俺はあなたを害するつもりはないので心配しないでください」
『…本当に?あの男みたいなことはしない?」
「はい。攻撃したりしないと約束します」
一体どういう経緯で一緒にいることにしたんだろう…そのあたりが分からないまま、取り敢えず話を聞いてみることにした。
「どうしてあなたはあの男に追われているんですか?」
『よく分からないんです。手柄がどうのとか名が売れるとか…」
『…名前の為なら人を傷つけていいの?』
「あの男の狙いはそこだったのか」
その程度のものだったのかと心底がっかりした。
少なくとも、俺が見たときのあの男は俺にとっては敵でも別の人から見ればいいことをしているように見えたはずだ。
それがいつからか変わってしまったのか、或いは…
「俺の見る目がなかったのか」
『何の話?』
「ごめん、なんでもない」
まさか口から零れ出ているとは思わなかった。
女性に向き直り、単刀直入に訊いてみる。
「あなたの名前が知りたいです」
『私の、名前…恋歌です。泉恋歌」
やっぱりあたりだったらしい。
「あなたのご友人から伝言があります」
『彼に会ったの?無事だった?」
「あなたに名前を呼んでほしいと言っていました」
『そうなんですね。会いたいよ…友樹」
あの人は友樹さんというのか。
そんなことを考えていると、大きな鋏がじゃきじゃきと音を立てて右に左にと動きはじめる。
『駄目。もう少し様子を見たいから動かないで』
『……恋歌」
『友樹!」
傷だらけのふたりはその場で抱き合う。
涙を流しながら会話するふたりは本当に仲良しで、見ていて安心した。
『本当にありがとうございました」
「いえ。これからふたりで行くんですか?」
『そうするつもりです。…あの男、呪いの人形を持っているんです。気をつけてください」
その一言に驚きを隠せない。
「もう少し詳しい話を…」
そう言っている間にふたりの姿は消えていた。
『人形を探しているの?』
「ああ。多分この子くらいの大きさだと思うんだけど、見たことあるか?」
小鞠を抱きあげて地面におろすと、栞奈に向かって走り出す。
それでもただ笑っていた。
『…可愛らしいお客様』
「もしあの男が来たらすぐ逃げて。白いフードに赤い眼鏡、黒い本を持った男なんだ」
『分かった、気をつける。もう少しこの子と遊んでもいい?』
「勿論」
ふたりが遊ぶ姿を瑠璃と見つめる。
結局呪いの人形についてもあの男についてもそんなに詳しく知ることはできなかったけど、少しずつでも近づけている気がした。
『…もう少し奥まで来てほしい』
「分かった、すぐ行くよ」
いつもと少し様子が違っている気はしたものの、どんな状態なのかまでは分からない。
「今動けそうにない?」
『なんだか彼女が怯えているから、ひとりにはできない』
「彼女?」
やがて栞奈がいる場所に辿り着くと、そこではひとりの女性ががたがた震えていた。
「こんにちは。俺はあなたを害するつもりはないので心配しないでください」
『…本当に?あの男みたいなことはしない?」
「はい。攻撃したりしないと約束します」
一体どういう経緯で一緒にいることにしたんだろう…そのあたりが分からないまま、取り敢えず話を聞いてみることにした。
「どうしてあなたはあの男に追われているんですか?」
『よく分からないんです。手柄がどうのとか名が売れるとか…」
『…名前の為なら人を傷つけていいの?』
「あの男の狙いはそこだったのか」
その程度のものだったのかと心底がっかりした。
少なくとも、俺が見たときのあの男は俺にとっては敵でも別の人から見ればいいことをしているように見えたはずだ。
それがいつからか変わってしまったのか、或いは…
「俺の見る目がなかったのか」
『何の話?』
「ごめん、なんでもない」
まさか口から零れ出ているとは思わなかった。
女性に向き直り、単刀直入に訊いてみる。
「あなたの名前が知りたいです」
『私の、名前…恋歌です。泉恋歌」
やっぱりあたりだったらしい。
「あなたのご友人から伝言があります」
『彼に会ったの?無事だった?」
「あなたに名前を呼んでほしいと言っていました」
『そうなんですね。会いたいよ…友樹」
あの人は友樹さんというのか。
そんなことを考えていると、大きな鋏がじゃきじゃきと音を立てて右に左にと動きはじめる。
『駄目。もう少し様子を見たいから動かないで』
『……恋歌」
『友樹!」
傷だらけのふたりはその場で抱き合う。
涙を流しながら会話するふたりは本当に仲良しで、見ていて安心した。
『本当にありがとうございました」
「いえ。これからふたりで行くんですか?」
『そうするつもりです。…あの男、呪いの人形を持っているんです。気をつけてください」
その一言に驚きを隠せない。
「もう少し詳しい話を…」
そう言っている間にふたりの姿は消えていた。
『人形を探しているの?』
「ああ。多分この子くらいの大きさだと思うんだけど、見たことあるか?」
小鞠を抱きあげて地面におろすと、栞奈に向かって走り出す。
それでもただ笑っていた。
『…可愛らしいお客様』
「もしあの男が来たらすぐ逃げて。白いフードに赤い眼鏡、黒い本を持った男なんだ」
『分かった、気をつける。もう少しこの子と遊んでもいい?』
「勿論」
ふたりが遊ぶ姿を瑠璃と見つめる。
結局呪いの人形についてもあの男についてもそんなに詳しく知ることはできなかったけど、少しずつでも近づけている気がした。
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