カルム

黒蝶

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目撃情報

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家に戻り、買ったものを飲み食いしながらスクラップ帳を開く。
『またあの男が関与していると考えるべきでしょうか?』
「そうだな。その可能性が高い」
できれば近づきたくはないけど、あの男性の切実な願いを無視することなんてできない。
『美味しい』
「やっぱり小鞠はビスケットが好きなんだね」
『美味しい』
「喜んでもらえてよかった」
ぴりついた空気が一瞬でふわふわしたものに変わる。
瑠璃も苦笑いしながら砕いたビスケットをほおばった。
『小鞠がいるとおかしなところで気が抜けますね』
「所々で肩の力を抜くにはこの方がいいんじゃないか?」
『そうかもしれませんね』
月光を浴びながら空になった袋を見つめる。
最後の一口を一気に流しこんでそのまま横になった。
「…多分これだ」
そこに書かれていたのは、ふたりが巻きこまれたという怪死事件だ。
何故殺されてしまったのか、そもそも本当に殺されたのか…様々なことが書かれているものの、どれも核心に迫っていない気がする。
『普通の人間たちには視えないことが多いから、こういうことしか書けないんでしょうね』
「まあ、あり得ないような力を持った何かがいると考える方が難しいとは思う。
ただ、これだけ証拠が見つかっていないとなると犯人の手がかりになるようなものを探すのも苦労するかもしれない」
『何故彼らを探ろうと思ったんですか?』
「死因が分かれば、彼の友人を見つけられると思ったんだ。だけどこれじゃ無理か…」
写真に何かうつっていないか見てみたものの、残念なことに決定的な手がかりは見つけられなかった。
ひとつだけ分かったのは、現場近くに電波塔のようなものが建っていることだけだ。
『この場所だけでも分かりませんか?』
「似たような建物が沢山あると見分けられないかもしれないな……あ」
『どうかしたんですか?』
「これ、隣町の某所って書いてあるけどこの町に1番近い場所だ。ここにうつっているのが町の端にある駅だから」
よく見てみるとなんとなく分かったこともあった。
引き続き調べようとすると、どこかから紙飛行機が飛ばされてくる。
「これって、」
『カミキリさんからですか?』
「ああ。困っている人がいるから助けてほしいって。それから…」
そこまでで言葉を止めたのは、栞奈から届いた情報が今欲しているものだったからだ。
『他に何があるんですか?』
「…近くにあの男がいるって。もしかすると昨日の人が来たのかもしれない」
『或いははぐれた友人が現れた可能性もありますね』
「とにかく行ってみるしかない」
まだ少し眠そうな小鞠には申し訳ないけど、このまま放っておくわけにはいかない。
急いでリュックを用意して、そのまま廃墟まで向かう。
…もしあの男と遭遇してしまったら、どうするのがいいだろうか。
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