カルム

黒蝶

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あのあと結局証拠なんて見つけられず、そのまま部屋に帰ってきた。
先輩たちのおかげで助かったが、今回は反省点が多い。
少しだけ近くの公園で小鞠を遊ばせたものの、いつもより短い時間しかいられなかった。
『…それで、共通点かもしれないものとは何でしょう?』
「やっぱり言わないと駄目か」
先輩たちには言えなかったけど、瑠璃にだけは話しておこう。
「…あの男を書店で見た3日以内に紫煙は現れるのかもしれない。
最初のときも今回も、町に現れたのを確認してから3日以内に現れてる」
『成程。現場にもいましたし、全くの無関係とは言えなさそうです』
「ああ。だけどそうだった場合ひとつ謎が残る」
『謎ですか?』
「うん」
きっとこの謎は見過ごしてはいけないものだ。
小さな違和感が大きな確信に変わるまでには時間がかかると思う。
それでもやっぱり、たまたまの一言で流せるものではない。
「それは、」
『遊んで』
突然足にしがみつかれて驚いてしまう。
小鞠はただじっとこちらを見ていた。
「ああ、ごめん。何をして遊ぼうか」
『これ』
「つみき?分かった、今出すから少しだけ待ってて」
瑠璃との話は途中で終わってしまったが、彼女の表情に不満の色はない。
「ごめん。後でちゃんと話す」
『小鞠が窮屈な思いをしていないか心配なんですか?』
「うん。沢山遊びに連れていけるわけじゃないし、もう少しのびのび遊んでほしいと思ったんだ」
俺にはそういう相手がひとりいた。
だから、どれだけ辛いことがあってもあの人に会えると思えば頑張れたのだ。
あのときも今も視えることには感謝している。
「よし、何作ろうか?」
『お城…がいい』
「分かった。どんなのになるか楽しみだな」
『楽しみ』
「そうだな」
やっぱりまだ2語以上のものは難しいのか、会話の進みはゆっくりだ。
それでも、思ったことをせいいっぱい伝えようとしているのは分かる。
…俺と会ってくれていたあの人もこんな気持ちだったのだろうか。
『八尋』
「どうした?」
『これを支えてほしいのです。折角作るなら高くて綺麗なものにしたいので』
「たしかに…やってみるか」
こうしている間だけ、色々なことを考えることから解放されるのを赦してほしい。
過去のこと、あの男のこと、小鞠のこと…この積み木のように問題は山積みだ。
『住めそう』
「もう少し強度があれば、小鞠の家は完成させられたかもしれないな」
『ここがいい』
「…そうか。ありがとう」
これから先どうするのかは小鞠がどうしたいかで決めたい。
たとえ記憶が戻ってもここにいたいと思ってくれるなら、その願いを叶えてみせる。
…どのみち問題を片づけてからじゃないと決められないことではあるけど、もうひとりもちゃんと探し出そうと改めて心に決めた。
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