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紫煙
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『そんな噂が流行っているんですか』
「うん。常連さんが話しているのを聞いたんだ。いつもなら聞き流すけど、今回はそうもいかないんだろうなって…」
『探せば幸せになれるのに、見つければ毒となり消えてしまう…不思議なものですね』
「…死遭わせ」
『え?』
幸福とは言わず幸せと表現された言葉は、もしかすると違った意味なのかもしれない。
「死んでしまうという意味で、死遭わせってことは考えられないか?」
『ないとは言い切れませんね。それなら話に矛盾がなくなりますし、意味の感じ方が変わってきます』
「…やっぱり調べてみないと」
本来であれば関わらない方がいいのは分かっているつもりだ。
ただ、このまま放っておいて誰かが巻きこまれては目覚めが悪い。
『おさんぽ』
「散歩?今からか?」
『おさんぽ』
「分かった、用意するよ」
リュックに荷物を入れようとすると、手の甲に瑠璃がとまる。
『もう少し寝てください。小鞠の相手は私がやっておきますから』
「ありがとう。そうさせてもらうよ。小鞠、少しだけ休ませてほしい。
それから準備して連れて行くって約束するよ」
小鞠の表情はぱっと明るくなり、小走りで部屋の隅に用意したスペースで折り紙をはじめた。
瑠璃に任せ、そのまま目を閉じる。
相変わらずそんなに長く深くは眠れないが、体を休めることはできた。
「おまたせ。小鞠はこっちに入ってくれる?」
『ここ』
「そう、そこ。しっかり隠れてて」
普通の人間には視えないとはいえ、万が一のことを考えなければならない。
外に出てみると、また遠くの方で紫煙が漂っていた。
『ただ散策したかったです』
「…うん。俺もそう思う」
無視すればよかったのかもしれないけど、やっぱり目の前にするとどうしてもそんなことはできなかった。
『お出かけ』
「ごめん。ちょっと先に寄り道するよ」
あの煙に追いつくのは難しいだろうし、下手に近づきすぎれば確実にやられてしまう。
無策でつっこむなんて本来なら駄目なんだろうけど、そんなことを言っていられる状況じゃない。
『このあたりでしょうか』
「間違いないと思う」
辺りに人は見当たらない。
そのことに安心していると、見覚えのあるフードが見えた。
…間違いなくあの男だ。
『八尋、あれが…』
「迂回しよう」
祓いにきたにしては随分距離があいているような気がして、別の道から近づくことにする。
危険だと知りつつも、どうしても調べておきたかった。
『八尋、止まってください』
「急にどうし…」
そこまでしか話せなかったのには理由がある。
紫色の怪しげな煙が、すぐ目の前まで迫ってきたからだ。
風上に立っていたのにも関わらず、それはすぐ近くまでやってきた。
走っても走っても逃れられず、とうとう転んでしまう。
「瑠璃、この手提げを持って逃げろ」
瑠璃や小鞠を逃したい、その一心で話した瞬間体が宙に浮いた。
「うん。常連さんが話しているのを聞いたんだ。いつもなら聞き流すけど、今回はそうもいかないんだろうなって…」
『探せば幸せになれるのに、見つければ毒となり消えてしまう…不思議なものですね』
「…死遭わせ」
『え?』
幸福とは言わず幸せと表現された言葉は、もしかすると違った意味なのかもしれない。
「死んでしまうという意味で、死遭わせってことは考えられないか?」
『ないとは言い切れませんね。それなら話に矛盾がなくなりますし、意味の感じ方が変わってきます』
「…やっぱり調べてみないと」
本来であれば関わらない方がいいのは分かっているつもりだ。
ただ、このまま放っておいて誰かが巻きこまれては目覚めが悪い。
『おさんぽ』
「散歩?今からか?」
『おさんぽ』
「分かった、用意するよ」
リュックに荷物を入れようとすると、手の甲に瑠璃がとまる。
『もう少し寝てください。小鞠の相手は私がやっておきますから』
「ありがとう。そうさせてもらうよ。小鞠、少しだけ休ませてほしい。
それから準備して連れて行くって約束するよ」
小鞠の表情はぱっと明るくなり、小走りで部屋の隅に用意したスペースで折り紙をはじめた。
瑠璃に任せ、そのまま目を閉じる。
相変わらずそんなに長く深くは眠れないが、体を休めることはできた。
「おまたせ。小鞠はこっちに入ってくれる?」
『ここ』
「そう、そこ。しっかり隠れてて」
普通の人間には視えないとはいえ、万が一のことを考えなければならない。
外に出てみると、また遠くの方で紫煙が漂っていた。
『ただ散策したかったです』
「…うん。俺もそう思う」
無視すればよかったのかもしれないけど、やっぱり目の前にするとどうしてもそんなことはできなかった。
『お出かけ』
「ごめん。ちょっと先に寄り道するよ」
あの煙に追いつくのは難しいだろうし、下手に近づきすぎれば確実にやられてしまう。
無策でつっこむなんて本来なら駄目なんだろうけど、そんなことを言っていられる状況じゃない。
『このあたりでしょうか』
「間違いないと思う」
辺りに人は見当たらない。
そのことに安心していると、見覚えのあるフードが見えた。
…間違いなくあの男だ。
『八尋、あれが…』
「迂回しよう」
祓いにきたにしては随分距離があいているような気がして、別の道から近づくことにする。
危険だと知りつつも、どうしても調べておきたかった。
『八尋、止まってください』
「急にどうし…」
そこまでしか話せなかったのには理由がある。
紫色の怪しげな煙が、すぐ目の前まで迫ってきたからだ。
風上に立っていたのにも関わらず、それはすぐ近くまでやってきた。
走っても走っても逃れられず、とうとう転んでしまう。
「瑠璃、この手提げを持って逃げろ」
瑠璃や小鞠を逃したい、その一心で話した瞬間体が宙に浮いた。
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