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緊急調査
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あれから先輩にはしっかり休むように言われたけど、俺は今スクラップ帳と向き合っている。
『まったく、どうしてあなたはもっとじっとしていられないんですか?』
「ごめん。だけど、一刻を争う事態になってる可能性もあるから捜したいんだ」
『仕方ありません。今回も最後までつきあいます』
「ありがとう」
がむしゃらに調べていても仕方ないことは分かっている。
それでも体を止めることなんてできない。
「そういえば、先輩まだ勤務時間だったんじゃ…」
『自分も早退すると連絡しておいたと、あなたがお茶を淹れている間に話していました』
「いつの間に山岸先輩と仲良くなったんだ…」
不思議な雰囲気といい話し方といい、ふたりにはどこか似ている部分もある。
だから話が合うのかもしれない。
『人形に呪い殺されたなどという記事はないでしょう?』
「たしかにそんなふうに書かれているものはないよ。でも、もしこれが見間違いじゃないなら片割れはここにいるのかもしれない」
ある1枚の写真を瑠璃に見せると、複雑そうな表情でこちらを見ていた。
『この現場写真が嘘ではないなら、恐らくこの家の家主は被害者でしょう』
「そう思ったんだけど、空き家だったって書いてある。…なんでわざわざ空き家に行ったんだろう」
『そう仕向けられた、とか』
「ないとは言い切れない」
その記事の写真には、すやすやと眠る小鞠がいつも持っているとても小さな巾着袋と同じものが写っている。
だが、それを持つ小さな手しか視えないので姿までは捉えられない。
「小鞠と同じくらいの大きさの体なら、この腕はやっぱりもうひとりってことになるんだろうな」
『そう思います。巾着に限った話をすれば、縫い方が同じなので同一人物が作ったことは間違いなさそうです』
「小鞠が寝ている間に少しでも調べておきたいな」
夕方になり、仕事へ行く準備をする。
昨日のことを思い出すと体が重くなるけど、仕事が嫌いなわけじゃない。
先輩たちにも謝りたいし、シフト調整の時期が近いから少し減らしてもらおうと思っている。
…瑠璃や小鞠との時間を作りたい。
『八尋、あれが視えますか?』
「あれって、空が…俺の目がおかしいのか?」
瑠璃に声をかけられて視たのは、紫色の煙のようなものが空を舞っている。
それはとても禍々しく感じられて、何かがおこっているのは間違いなさそうだ。
「これ、外に行っても大丈夫なやつか?それとも、寧ろ向こうを調べに行った方がいいのかな…」
『あの方向には何があるんですか?』
「たしか廃寺があるはずだけど、ちゃんと行ったことはない。…やっぱり調べてみるか」
今日も行けそうにないと連絡を入れ、リュックに持っていきたいものを詰めこむ。
「…行こう」
『小鞠は置いていくんですか?』
「もう入ってるよ」
リュックの端からぴょこんと顔を出した小鞠は、まだ半分寝ぼけているらしい。
瑠璃はふっと息を吐いて、そのまま肩に止まる。
どんどん溢れている煙の方へ向かいながら、なんだか不穏なものを感じた。
『まったく、どうしてあなたはもっとじっとしていられないんですか?』
「ごめん。だけど、一刻を争う事態になってる可能性もあるから捜したいんだ」
『仕方ありません。今回も最後までつきあいます』
「ありがとう」
がむしゃらに調べていても仕方ないことは分かっている。
それでも体を止めることなんてできない。
「そういえば、先輩まだ勤務時間だったんじゃ…」
『自分も早退すると連絡しておいたと、あなたがお茶を淹れている間に話していました』
「いつの間に山岸先輩と仲良くなったんだ…」
不思議な雰囲気といい話し方といい、ふたりにはどこか似ている部分もある。
だから話が合うのかもしれない。
『人形に呪い殺されたなどという記事はないでしょう?』
「たしかにそんなふうに書かれているものはないよ。でも、もしこれが見間違いじゃないなら片割れはここにいるのかもしれない」
ある1枚の写真を瑠璃に見せると、複雑そうな表情でこちらを見ていた。
『この現場写真が嘘ではないなら、恐らくこの家の家主は被害者でしょう』
「そう思ったんだけど、空き家だったって書いてある。…なんでわざわざ空き家に行ったんだろう」
『そう仕向けられた、とか』
「ないとは言い切れない」
その記事の写真には、すやすやと眠る小鞠がいつも持っているとても小さな巾着袋と同じものが写っている。
だが、それを持つ小さな手しか視えないので姿までは捉えられない。
「小鞠と同じくらいの大きさの体なら、この腕はやっぱりもうひとりってことになるんだろうな」
『そう思います。巾着に限った話をすれば、縫い方が同じなので同一人物が作ったことは間違いなさそうです』
「小鞠が寝ている間に少しでも調べておきたいな」
夕方になり、仕事へ行く準備をする。
昨日のことを思い出すと体が重くなるけど、仕事が嫌いなわけじゃない。
先輩たちにも謝りたいし、シフト調整の時期が近いから少し減らしてもらおうと思っている。
…瑠璃や小鞠との時間を作りたい。
『八尋、あれが視えますか?』
「あれって、空が…俺の目がおかしいのか?」
瑠璃に声をかけられて視たのは、紫色の煙のようなものが空を舞っている。
それはとても禍々しく感じられて、何かがおこっているのは間違いなさそうだ。
「これ、外に行っても大丈夫なやつか?それとも、寧ろ向こうを調べに行った方がいいのかな…」
『あの方向には何があるんですか?』
「たしか廃寺があるはずだけど、ちゃんと行ったことはない。…やっぱり調べてみるか」
今日も行けそうにないと連絡を入れ、リュックに持っていきたいものを詰めこむ。
「…行こう」
『小鞠は置いていくんですか?』
「もう入ってるよ」
リュックの端からぴょこんと顔を出した小鞠は、まだ半分寝ぼけているらしい。
瑠璃はふっと息を吐いて、そのまま肩に止まる。
どんどん溢れている煙の方へ向かいながら、なんだか不穏なものを感じた。
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