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蝕まれた姫
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『時を司るということは、彼女が倒れてしまうと世界もまずい状態になるのでは?』
「たしかに…。どのくらい影響が出るかなんて、予想するのも難しいだろうな」
横たえられた司時姫の体に少し触れてみるものの、呪いはそう簡単に解けそうにない。
『気をつけてください。侵食が進めば、万が一ということも考えられます』
「そんなにまずい状態なのか…」
このままではまずいことが分かっても、取り除く術がない。
どうしようか迷っていると、小人たちが話してくれた。
『最近、ここに遊び半分で人間がやってくるようになりました。町で話がどうのと騒いではいたが、一体何のことやら私どもには分からずじまいで…とにかく帰ってもらっていました。
主様の容態と関係があると思いますか?』
「やっぱりそうなのか。彼女を蝕んでいるのは、どこかの誰かが創り出した噂なんだと思う。最近俺たちも追ってみてるんだけど、単独犯なのか複数で動いているのかさえ掴めていない。
ただ、噂に巻きこまれて困っている死霊や妖もいる。特に怪異が無理矢理暴走させられそうになることも多いんだ」
小人たちはただ驚いた様子で俺を見ている。
それはそうだろう。…誰だって、そんなことを意図的におこなっているとは考えない。
「…どう思う?間違ってるかな?」
『外れているとは言い難いですね。恐らく彼女は噂に対する耐性が一般的な怪異や妖たちと比べて弱いのでしょう。
それが病のように暴走し、それを自分の体に閉じこめておく為に眠っていると考えられます』
「…そうか」
小人たちを巻きこみたくないと考えたのか、彼女の使命感故か。
どちらにせよ、起こす為には噂を変えるしかない。
「ごめん。1度ここを出たい。外の噂に関係しているなら、噂を変えれば彼女はよくなるかもしれない」
『本当ですか?』
「信じてほしい」
『あなたには私どもが視えていて、私どもでは視えなかった病まで見つけている。…姫様を助けてください』
「できる限りのことはやってみるよ」
小鞠が鞄の中でもぞもぞ動いているようだったものの、手をつっこんで頭を撫でながら小人たちに話しかけた。
「彼女の元の噂を知らないか?」
『主様はとても優しい方で、皆が困っているときに少しの間だけ時を止めていました』
「そんなことができるのか!?」
『誰かが危機に陥ったとき、時の番人として助けられるだけのことはしたいと話していました』
「勇気がある、優しい人なんだな」
たとえそんな能力があったとしても、人助けの為に使うなんてなかなかできることじゃない。
そんなに優しい妖を狙って怪異にしようとするなんて許せる範囲ではないと、怒りでいっぱいになってしまう。
「そういえば、他の人たちのことはどうやって案内したんだ?」
『もてなすこともないだろうと、強引に外に出しました』
「別の出入り口があるってことか」
そうこうしているうち、出口らしきものに辿り着いた。
『ここから出られます』
「ああ。ありがとう」
そのまま外に出ると、いつもと変わらない町の風景が目に飛びこんでくる。
悲しんでいた小人たちの為にもなんとかしたい。
「瑠璃、手伝ってくれ。俺は例のサイトの方にあたるから、もし噂を変えられるようなら変えてほしい」
『どんな噂にするおつもりですか?』
「…心優しいお姫様と小人たちが暮らす、不思議な時計の館の話」
「たしかに…。どのくらい影響が出るかなんて、予想するのも難しいだろうな」
横たえられた司時姫の体に少し触れてみるものの、呪いはそう簡単に解けそうにない。
『気をつけてください。侵食が進めば、万が一ということも考えられます』
「そんなにまずい状態なのか…」
このままではまずいことが分かっても、取り除く術がない。
どうしようか迷っていると、小人たちが話してくれた。
『最近、ここに遊び半分で人間がやってくるようになりました。町で話がどうのと騒いではいたが、一体何のことやら私どもには分からずじまいで…とにかく帰ってもらっていました。
主様の容態と関係があると思いますか?』
「やっぱりそうなのか。彼女を蝕んでいるのは、どこかの誰かが創り出した噂なんだと思う。最近俺たちも追ってみてるんだけど、単独犯なのか複数で動いているのかさえ掴めていない。
ただ、噂に巻きこまれて困っている死霊や妖もいる。特に怪異が無理矢理暴走させられそうになることも多いんだ」
小人たちはただ驚いた様子で俺を見ている。
それはそうだろう。…誰だって、そんなことを意図的におこなっているとは考えない。
「…どう思う?間違ってるかな?」
『外れているとは言い難いですね。恐らく彼女は噂に対する耐性が一般的な怪異や妖たちと比べて弱いのでしょう。
それが病のように暴走し、それを自分の体に閉じこめておく為に眠っていると考えられます』
「…そうか」
小人たちを巻きこみたくないと考えたのか、彼女の使命感故か。
どちらにせよ、起こす為には噂を変えるしかない。
「ごめん。1度ここを出たい。外の噂に関係しているなら、噂を変えれば彼女はよくなるかもしれない」
『本当ですか?』
「信じてほしい」
『あなたには私どもが視えていて、私どもでは視えなかった病まで見つけている。…姫様を助けてください』
「できる限りのことはやってみるよ」
小鞠が鞄の中でもぞもぞ動いているようだったものの、手をつっこんで頭を撫でながら小人たちに話しかけた。
「彼女の元の噂を知らないか?」
『主様はとても優しい方で、皆が困っているときに少しの間だけ時を止めていました』
「そんなことができるのか!?」
『誰かが危機に陥ったとき、時の番人として助けられるだけのことはしたいと話していました』
「勇気がある、優しい人なんだな」
たとえそんな能力があったとしても、人助けの為に使うなんてなかなかできることじゃない。
そんなに優しい妖を狙って怪異にしようとするなんて許せる範囲ではないと、怒りでいっぱいになってしまう。
「そういえば、他の人たちのことはどうやって案内したんだ?」
『もてなすこともないだろうと、強引に外に出しました』
「別の出入り口があるってことか」
そうこうしているうち、出口らしきものに辿り着いた。
『ここから出られます』
「ああ。ありがとう」
そのまま外に出ると、いつもと変わらない町の風景が目に飛びこんでくる。
悲しんでいた小人たちの為にもなんとかしたい。
「瑠璃、手伝ってくれ。俺は例のサイトの方にあたるから、もし噂を変えられるようなら変えてほしい」
『どんな噂にするおつもりですか?』
「…心優しいお姫様と小人たちが暮らす、不思議な時計の館の話」
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