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時計の館
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『少し情報を集めてきます』
「ごめん。俺だけじゃそんなに分かることがなくて…」
『あなたが気にする必要はありません。適材適所でやっていきましょう』
「ありがとう」
瑠璃が飛び立っていくのを見届け、小鞠に小さく割った煎餅を渡した。
「食べてみる?」
『食べる』
「ゆっくり噛んで、喉に詰まらせないようにね」
『いただきます』
食べる様子を見守りながら、残りの煎餅を少しずつ食べていく。
いつもと別の種類だったからか、ぱりぱり食感を楽しめた。
「どうだった?」
『美味しい』
「そうか。それならよかった」
『これ好き』
「食べたことあった?」
『食べたこと…』
考えこんでしまった小鞠に声をかけようとしたものの、しばらく様子を見ることにした。
『似たの、食べた』
「似ているやつか…食べた感じが?それとも見た目が?」
『色』
「分かった。それじゃあまた別の種類も買ってみるよ。いつものやつがいいかな…」
『いつものやつ』
「普段買っている種類はこれじゃないんだ。あとは…たまごボーロならあるよ」
瑠璃があげてみると好評だったという話を聞いていたので、小さく砕いたものを渡してみる。
小鞠はいつもより楽しそうにそれを食べきった。
「…たまごボーロ、もっと買ってこないとな」
『ただいま戻りました』
「おかえり。何か情報は得られた?」
『夜陽炎に話を聞きに行きましょう』
「それは構わないけど、まさかまた巻きこまれてるとか…」
『そういうわけではありませんのでご安心を』
瑠璃はそう言ったけど、わざわざ夜陽炎がやってくる時間に会いに行くということはただごとではないのだろう。
「夜陽炎に影響しそうな情報があるってことか」
『深夜に移動する館を見たという証言があります。その時間帯であれば、夜陽炎が見ていないはずがないと思ったのです』
「言われてみればそうか。けど、小鞠はどうしよう」
『一緒に来ますか?』
『行く』
「即答だったな」
小鞠はだいぶ受け答えしてくれるようになった気がする。
瑠璃と留守番している間もいい子にしているみたいだけど、そうなると持ち主が小鞠を置いていった理由が分からない。
「それじゃあ、3時前に行ってみよう」
だが、それは夜陽炎のところに行くまでもなく現れた。
『流石です、八尋』
「まさか本当にこんな場所があるなんて…」
扉が勝手に開いて招き入れてくれたものの、不気味さを感じて動けなくなってしまいそうだ。
『…もう少し奥まで進んでみましょう』
「そうだな」
本当なら引き返すべきなのかもしれないけど、この前の洋館や名もなき美術館のように外へ出られなくなっている可能性が高い。
かちかちと時を刻む音が何重にも聞こえて、少しだけ気分が悪くなりながらも前に進む。
目の前にぽつんと存在している扉を開けると、その中は全て時計で埋め尽くされていた。
「どうなってるんだ…」
「ごめん。俺だけじゃそんなに分かることがなくて…」
『あなたが気にする必要はありません。適材適所でやっていきましょう』
「ありがとう」
瑠璃が飛び立っていくのを見届け、小鞠に小さく割った煎餅を渡した。
「食べてみる?」
『食べる』
「ゆっくり噛んで、喉に詰まらせないようにね」
『いただきます』
食べる様子を見守りながら、残りの煎餅を少しずつ食べていく。
いつもと別の種類だったからか、ぱりぱり食感を楽しめた。
「どうだった?」
『美味しい』
「そうか。それならよかった」
『これ好き』
「食べたことあった?」
『食べたこと…』
考えこんでしまった小鞠に声をかけようとしたものの、しばらく様子を見ることにした。
『似たの、食べた』
「似ているやつか…食べた感じが?それとも見た目が?」
『色』
「分かった。それじゃあまた別の種類も買ってみるよ。いつものやつがいいかな…」
『いつものやつ』
「普段買っている種類はこれじゃないんだ。あとは…たまごボーロならあるよ」
瑠璃があげてみると好評だったという話を聞いていたので、小さく砕いたものを渡してみる。
小鞠はいつもより楽しそうにそれを食べきった。
「…たまごボーロ、もっと買ってこないとな」
『ただいま戻りました』
「おかえり。何か情報は得られた?」
『夜陽炎に話を聞きに行きましょう』
「それは構わないけど、まさかまた巻きこまれてるとか…」
『そういうわけではありませんのでご安心を』
瑠璃はそう言ったけど、わざわざ夜陽炎がやってくる時間に会いに行くということはただごとではないのだろう。
「夜陽炎に影響しそうな情報があるってことか」
『深夜に移動する館を見たという証言があります。その時間帯であれば、夜陽炎が見ていないはずがないと思ったのです』
「言われてみればそうか。けど、小鞠はどうしよう」
『一緒に来ますか?』
『行く』
「即答だったな」
小鞠はだいぶ受け答えしてくれるようになった気がする。
瑠璃と留守番している間もいい子にしているみたいだけど、そうなると持ち主が小鞠を置いていった理由が分からない。
「それじゃあ、3時前に行ってみよう」
だが、それは夜陽炎のところに行くまでもなく現れた。
『流石です、八尋』
「まさか本当にこんな場所があるなんて…」
扉が勝手に開いて招き入れてくれたものの、不気味さを感じて動けなくなってしまいそうだ。
『…もう少し奥まで進んでみましょう』
「そうだな」
本当なら引き返すべきなのかもしれないけど、この前の洋館や名もなき美術館のように外へ出られなくなっている可能性が高い。
かちかちと時を刻む音が何重にも聞こえて、少しだけ気分が悪くなりながらも前に進む。
目の前にぽつんと存在している扉を開けると、その中は全て時計で埋め尽くされていた。
「どうなってるんだ…」
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