カルム

黒蝶

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噂の変異

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「おはよう」
『おはよう』
『おはようございます』
桜花たちの一件を解決してから、家に着くなり3人ともすぐ横になった。
ふたりが寝ている間に俺は仕事に行って、帰るともう早朝近くで…ほとんどいつもと変わらない日を過ごせたと思う。
…そう、おかしな噂を聞いたこと以外は。
『今度は時空時計の噂ですか』
「うん。お客さんが話していたんだ。まさかと思って調べてみたけど、今回例のサイトは動いてなかった」
『つまり、別の方法で噂が広められているということですか?』
「そのあたりがよく分からないんだ」
お客さんにいきなり噂の出どころを聞くわけにもいかないし、そもそも話しかけていいのかさえ分からない。
『随分あやふやな噂ですね』
「奇跡の時計って呼んでる人もいるみたいだけど、その違いは分からない。
それともうひとつ、妙な噂が流れているんだ」
『妙な噂、ですか?』
「うん。呪いの人形についてなんだけど、夜な夜な居場所を探して訪ね歩いてくるとか、家に来たら大変なことになるとか…。
だけど、この噂も全部があやふやで、実際どうなるかは遭遇するまで分からない」
もし小鞠が狙われているとはっきりしているならなんとかしたいところだが、絶対そうだと言い切れるものがない。
『ご飯』
「ん?」
『ご飯…』
恥ずかしそうに小さい声でそう話す小鞠を見ていると、張りつめていた心が一気に穏やかになった。
「小鞠は汁物を食べると汚れそうだから、今日はおにぎりにしようか」
小さくにぎるのは難しいけど、小鞠がわくわくしている様子を見ているだけで楽しくなる。
「よし、できた」
『器用ですね』
「…フォローありがとう」
『いただきます』
形が整わず少し崩れてしまった塊を、小鞠は小さな口に運ぶ。
『美味しい』
「そうか。よかった」
本当に美味しそうに食べてくれるその姿を見ていると、噂に対する調査意欲がわいてくる。
『調べる気満々ですね』
「小鞠が巻きこまれたら困るし、どうやって噂を拡散させているのか気になる」
サイトの持ち主と同一人物なのか、厄介な人間がふたりいると考えるべきなのか…現時点でどっちか分からないし、ちゃんと調べておきたい。
どのみち厄介なことになりそうではあるけど、これから白フードの男に遭遇しても大丈夫なように備えはしておきたかった。
たまごボーロを砕いていると、瑠璃がやれやれという様子で声をあげた。
『最後までつきあいます』
「ありがとう」
『噂を勝手に流したり、元からある噂を変えたり…何故そんなことをするのか、私にも興味がありますから』
「本当にありがとう」
瑠璃には感謝しかない。
今回は小鞠も連れて行くことになるだろうし、気を引き締めなければ…そんなことを考えながらお守りを握りしめる。
こうしているとあの人のぬくもりを感じられる気がした。
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