カルム

黒蝶

文字の大きさ
上 下
126 / 163

満開

しおりを挟む
『どういう、ことですか?』
「多分、風花さんは自分が死んでしまっていることに気づいていない。
だから毎日君のところに通っているんだと思う。…本当はその鏡で、彼の病を治したかったんじゃないのか?」
万華鏡の効果は治癒だったはずだ。
そして、今彼と毎日話している自分は花が散れば眠りにつく。
「桜花は、自分が1年眠る前に風花さんの病気を治したかったんじゃないのか」
『そ、れは、』
「答えて、桜花」
目の前の少女はかなり動揺しているらしく、えっと、あの、から言葉が進まない。
どうやら俺の予想は当たったらしい。
『今の話、どういうこと?」
「風花、いつからそこに、」
『桜花が1年寝る?そのうえ僕は死んでいて、幽霊状態?…からかってる?」
「申し訳ないけど、それが俺たちが導き出した答えです」
『そんな…。やっとできた友だちなのに、僕が死人ならもう会えないじゃないか…」
風花さんの消えそうな声が耳まで届く。
彼らはただ一緒にいたいだけなのに、何か解決策はないだろうか。
『…風花、あなたはどんな形になったとしても、私の側にいたいと願ってくれますか?』
『誰も見舞いに来ない部屋で、君と話をすることだけが希望だったんだ。
自分にとって希望そのものみたいに眩しく輝いてる相手と一緒にいたくないなんていう方が嘘だ」
『鏡を集めていただきありがとうございました。…使いみちは決まりました』
風花さんの力強い言葉に、桜花さんは腹をくくったらしい。
「何をするつもりなんだ?」
『彼には私のお付きとして側にいてもらうことにします。…私だって、大切は友を失いたくはありませんから』
「そうか」
少しずつ花びらが舞い、なんとなく桜が散りかけているのを感じる。
もう少し話ができると思っていたのに、まさかこんなに早く眠りのときがくるとは思っていなかった。
『…君は桜花とどういう関係なの?」
「俺はただ、探しものを手伝っただけです」
『睨みつけたり警戒してごめん。桜花もだけど、僕に別の生き方をくれてありがとう」
『本当にお世話になりました』
「また来年、会えるといいな」
桜花は少し驚いていたものの、やがて穏やかな笑みを浮かべた。
『はい、必ず』
一段と強い風が吹いたかと思うと、目の前には葉が彩づく木が1本たっていた。
『自らを賭けてお付きという存在を創る…考えましたね』
「これでよかったのかな」
『本人たちがそうしたいと願ったのです。…信じましょう』
「そうだな」
『桜…』
「また咲いている場所があったら連れて行くよ」
小鞠の頭を撫でながら、肩にとまる瑠璃と話をする。
前髪を整え、左眼が見えないようにしながらゆっくり歩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

喪失~失われた現実~

星 陽月
ホラー
 あらすじ  ある日、滝沢の務める会社に桐生という男が訪ねてきた。男は都立江東病院の医師だという。  都立江東病院は滝沢のかかりつけの病院であったが、桐生という名の医師に聞き覚えがなかった。  怪訝な面持ちで、男の待つ会議室に滝沢は向かった。 「それで、ご用件はなんでしょう」  挨拶もそこそこに滝沢が訊くと、 「あなたを救済にきました」  男はそう言った。  その男が現れてから以降、滝沢の身に現実離れしたことが起こり始めたのだった。  さとみは、住んでいるマンションから15分ほどの商店街にあるフラワー・ショップで働いていた。  その日も、さとみはいつものように、ベランダの鉢に咲く花たちに霧吹きで水を与えていた。 花びらや葉に水玉がうかぶ。そこまでは、いつもとなにも変わらなかった。  だが、そのとき、さとみは水玉のひとつひとつが無規律に跳ね始めていくのを眼にした。水玉はそしてしだいにひとつとなっていき、自ら明滅をくり返しながらビリヤードほどの大きさになった。そして、ひと際光耀いたと思うと、音もなく消え失せたのだった。  オーナーが外出したフラワー・ショップで、陳列された店内の様々な花たちに鼻を近づけたり指先で触れたりしながら眺めた。  と、そのとき、 「花はいいですね。心が洗われる」  すぐ横合いから声がした。  さとみが顔を向けると、ひとりの男が立っていた。その男がいつ店内入ってきたのか、隣にいたことさえ、さとみは気づかなかった。  そして男は、 「都立江東病院の医師で、桐生と申します」  そう名乗ったのだった。  滝沢とさとみ。まったく面識のないふたり。そのふたりの周りで、現実とは思えない恐ろしい出来事が起きていく。そして、ふたりは出会う。そのふたりの前に現れた桐生とは、いったい何者なのだろうか……。

処理中です...