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三分咲き
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翌日、仕事場までの道にある桜が咲いていた。
部屋に飾ってみたいと思いながらペダルを漕ぐと、昨日と同じ女性が立っている。
一礼して通り過ぎようとすると、いきなり話しかけられた。
『もし私が見えているなら、手を貸してもらえませんか?』
「もしってどういうことですか?」
思わず返事をしてしまい、しまったと感じたときにはもう遅い。
襲われるのかと思いきや、その女性はただ頭を下げてきた。
『どうか…どうか力をお貸しください』
「内容による。困ってるのは分かるけど、誰かを傷つけるようなことに手は貸せない」
『私は桜花。どうかこの欠片を探してほしいのです。私自身、桜の木から離れることはできません。
ですが、どうしても回収する必要があります』
「回収?」
『これは万華鏡と呼ばれる鏡の欠片です。病祓いに使うのですが、雨風が強い日に散り散りに飛ばされてしまいました』
桜花と名乗った存在の悲しそうな瞳を前に、やる前から諦めたくない。
「…分かった。出来る限り協力はする」
『ありがとうございます』
「どのあたりでばらばらになったの?」
『昨日あなたと会った公園です。あの場から他の枝たちを辿ってあなたを追いかけました』
だからこんな近所にいたのかと感心しつつ、なんとなく恐怖を覚える。
彼女についてもう少し知れば、多少怖さはなくなるかもしれない。
『時間があるときに探しに来てください。あなたほどの目をお持ちなら、すぐに見つかるはずですから』
「あ、待って、」
声をかけようとしたが間に合わず、桜花の姿はもうそこにない。
もう少し質問したかったけど、今は諦めて職場に向かおう。
「お疲れ様です」
「八尋君、最近また疲れてない?」
「そんなことないと思います」
相変わらず中津先輩は話しかけてくれるけど、それより今はやらないといけないことで頭がいっぱいだった。
現れるかもしれない小鞠の持ち主に、ばらばらになったという鏡の欠片集め…どれも難航しそうだ。
「お先に失礼します」
暗くて見つからないだろうと思いつつ公園に向かうと、なんだか不思議な気配がする。
足元で何かが光っていて、それを手に取った。
「…これが欠片か」
手で持ってみると見た目より重い。
公園という範囲は狭いものの、やっぱり暗い中探すのは危険そうだ。
「明日また出直すか」
家で待っているであろう小鞠と瑠璃のことを思い浮かべながらペダルを早く漕ぐ。
ひとつ気になったのは、桜花の様子だ。
冷静に頼んでいるように見えて、実は慌てていたような気がする。
何故そんなに急ぐ必要があるのか知りたいところだが、簡単に踏みこんでしまっていいんだろうか。
結局答えが出せないまま家まで辿り着いた。
部屋に飾ってみたいと思いながらペダルを漕ぐと、昨日と同じ女性が立っている。
一礼して通り過ぎようとすると、いきなり話しかけられた。
『もし私が見えているなら、手を貸してもらえませんか?』
「もしってどういうことですか?」
思わず返事をしてしまい、しまったと感じたときにはもう遅い。
襲われるのかと思いきや、その女性はただ頭を下げてきた。
『どうか…どうか力をお貸しください』
「内容による。困ってるのは分かるけど、誰かを傷つけるようなことに手は貸せない」
『私は桜花。どうかこの欠片を探してほしいのです。私自身、桜の木から離れることはできません。
ですが、どうしても回収する必要があります』
「回収?」
『これは万華鏡と呼ばれる鏡の欠片です。病祓いに使うのですが、雨風が強い日に散り散りに飛ばされてしまいました』
桜花と名乗った存在の悲しそうな瞳を前に、やる前から諦めたくない。
「…分かった。出来る限り協力はする」
『ありがとうございます』
「どのあたりでばらばらになったの?」
『昨日あなたと会った公園です。あの場から他の枝たちを辿ってあなたを追いかけました』
だからこんな近所にいたのかと感心しつつ、なんとなく恐怖を覚える。
彼女についてもう少し知れば、多少怖さはなくなるかもしれない。
『時間があるときに探しに来てください。あなたほどの目をお持ちなら、すぐに見つかるはずですから』
「あ、待って、」
声をかけようとしたが間に合わず、桜花の姿はもうそこにない。
もう少し質問したかったけど、今は諦めて職場に向かおう。
「お疲れ様です」
「八尋君、最近また疲れてない?」
「そんなことないと思います」
相変わらず中津先輩は話しかけてくれるけど、それより今はやらないといけないことで頭がいっぱいだった。
現れるかもしれない小鞠の持ち主に、ばらばらになったという鏡の欠片集め…どれも難航しそうだ。
「お先に失礼します」
暗くて見つからないだろうと思いつつ公園に向かうと、なんだか不思議な気配がする。
足元で何かが光っていて、それを手に取った。
「…これが欠片か」
手で持ってみると見た目より重い。
公園という範囲は狭いものの、やっぱり暗い中探すのは危険そうだ。
「明日また出直すか」
家で待っているであろう小鞠と瑠璃のことを思い浮かべながらペダルを早く漕ぐ。
ひとつ気になったのは、桜花の様子だ。
冷静に頼んでいるように見えて、実は慌てていたような気がする。
何故そんなに急ぐ必要があるのか知りたいところだが、簡単に踏みこんでしまっていいんだろうか。
結局答えが出せないまま家まで辿り着いた。
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