カルム

黒蝶

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もうひとり

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もし、さっき木霊から聞いた言葉が本当ならどうすればいいんだろう。
このまま一緒にいて大丈夫だろうか。
『大丈夫』
突然小鞠に話しかけられて首を傾げていると、今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。
「心配かけてごめん。俺は大丈夫だよ」
『心配』
「ちょっと考え事をしていただけなんだ。具合が悪いわけじゃないから心配しないで」
そう話しかけるのでせいいっぱいだったものの、小鞠を笑顔にすることはできた。
『…小鞠、これを持っていてください』
『これ、これ…』
『最近手に入った、噂に干渉されづらくなるお守りです』
「そういうものもあるのか…」
『ずっと一緒にいる可能性があるなら、万が一のことも考え備えておきましょう』
てっきり嫌がられると思っていた俺にとって、瑠璃の反応は予想外だった。
「小鞠、こういうときはありがとうって言うんだよ」
『ありがとう』
『…たまには、あなた以外から感謝されるのも悪くありませんね』
「小鞠がここにいたいなら、持ち主が現れるまではここにいていい。もし持ち主が現れても、行きたくなかったら無理に行く必要はないよ。
…今は分からないかもしれないけど、そのときがきたら一緒に考えよう」
小鞠はこくこくと頷き、楽しそうにこちらを見つめる。
お守りはどこへ仕舞ったのか、いつの間にか彼女の手元からなくなっていた。
『いつか、神に近い存在になるかもしれませんね』
「本人が望んでいるならそれでもいいけど、望まない形なら苦痛を強いられることになるかもしれない」
俺たちが知らないことは多いし、恐らく小鞠も自分の状況をあまり理解できていない。
この状態でやっていけるか不安になるが、とにかく今は過ごしてみるしかないのだ。
紙飛行機になんとかやっていくことをしたため、木霊のところに届くよう投げる。
彼がどう思うのか、少し気になった。







──今日も町のとある場所に、その男はいる。
「ねえ、知ってる?呪われた人形の話」
「ああ、生気を吸うとかいうあれ?持ち主に不幸が飛び散って死んじゃうんだよね?」
「人形が備えられている神社みたいなところに行ったが最後らしいよ」
話し声を聞きながら、男はケースから人形を取り出す。
『あなた、何をするつもりなの?』
人形の言葉が届いているのかいないのか、男は鼻歌混じりに告げた。
「ここは噂が流れやすくて助かるよ。君のような存在を、合法的に殺すことができるしね。…さようなら、手鞠」
『いや、痛い、やめて…!』
その唇は弧を描き、姿が変わっていく人形を見つめる。
「もう少し暴走したらちゃんと祓ってあげるよ。…君の持ち主とお揃いにしてあげる」
赤い眼鏡を動かし黒い本を広げるその男は、白いフードを目深に被り直す。
…足元では、つい先程まで生きていた妖が事切れていた。
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