120 / 163
破壊
しおりを挟む
「これは…」
現場に辿り着いたときには酷い有様だった。
瓦は崩れ、積み上げられていた石は砕けてしまっている。
「木霊、いないのか?」
『…ああ、八尋か…』
「大丈夫か?具合が悪いとか、そういうのはないか?」
『特にはない。ありがとう八尋』
木霊を見たところ怪我はなさそうで安心した。
ただ、祠がこの状態ではきっとまた消えそうになるに違いない。
「誰にやられたか分かるか?」
『いや、残念なことにそこまでは分からなかった。ただ、どうやら今流れている噂が関係しているようだ』
「…呪われた人形の噂?」
はじめは小鞠がそうなんじゃないかと思っていたけど、一緒に過ごしているのに何もしないのはおかしい。
それに、記憶が飛んでいて俺の家の前に置いた相手がいるなら噂に沿って行動するのはほぼ不可能だろう。
『あの噂には続きがあってな。…どうやらそれに祠が登場するらしい。
内容までは知らないが、社からどうこう言われているであろうことは理解した』
「そうか…」
犯人の手がかりだけでも見つけたいと思っていたが、残念ながらそれらしきものは見つからない。
石を積み直していると、木霊の目が小鞠に向けられる。
「そうだ。大変なところ申し訳ないんだけど、この子のこと知らない?」
『可愛らしいお嬢さんだ。しかし、その子には持ち主がいるのではないか?』
「ここの社を見たみたいなんだ。俺の家の前に置いていった人を探したいんだけど、彼女には記憶がなくて…」
『それは大変だな』
『大変』
「確かにちょっと大変だけど、もし落としていったならちゃんと帰したいんだ」
『…もし落としたわけではなかったらどうする?』
「うちにいてもらうことになるかもしれない。本人が嫌がるなら引き止めないけど、帰る場所がないなら寧ろいてくれると楽しい」
ばらばらになった木製の破片を集めて、なんとか少しずつ形にしていく。
『相変わらず八尋はお人好しですね』
「力が強いわけじゃないみたいだし、記憶がない相手に出ていけなんて言いたくない。
だけど、多分普通なら出ていくよう話すのが普通なんだと思う。…だから、俺はそんなにいい人じゃないよ」
少し崩れてはいるものの、なんとか見た目と中の一部だけは完成した。
「ごめん、これくらいしかできなくて…」
『俺にとってはこれくらいではない。ありがとう』
「今日は仕事があるからそろそろ行くよ。…今日も花を持ってきたんだ。受け取ってくれる?」
『ありがとう』
そんな会話をして、楽しそうに走り回っていた小鞠に止まるよう話しかける。
初めて会ったとき箱を包むのに使われていた布を取り出すと、木霊が何かに気づいたらしくはっとしたような表情で尋ねてきた。
『…その子は木箱に入っていたのか?』
「え?ああ、うん。家の前に置かれていたんだ」
『そうか…それなら、持ち主はいない可能性が高い』
「どういうことなんだ?」
意味が分からず訊き返すと、予想外の答えが返ってきた。
『恐らく、その風呂敷の持ち主は病に侵されていた。…もう長くはない状態だった』
現場に辿り着いたときには酷い有様だった。
瓦は崩れ、積み上げられていた石は砕けてしまっている。
「木霊、いないのか?」
『…ああ、八尋か…』
「大丈夫か?具合が悪いとか、そういうのはないか?」
『特にはない。ありがとう八尋』
木霊を見たところ怪我はなさそうで安心した。
ただ、祠がこの状態ではきっとまた消えそうになるに違いない。
「誰にやられたか分かるか?」
『いや、残念なことにそこまでは分からなかった。ただ、どうやら今流れている噂が関係しているようだ』
「…呪われた人形の噂?」
はじめは小鞠がそうなんじゃないかと思っていたけど、一緒に過ごしているのに何もしないのはおかしい。
それに、記憶が飛んでいて俺の家の前に置いた相手がいるなら噂に沿って行動するのはほぼ不可能だろう。
『あの噂には続きがあってな。…どうやらそれに祠が登場するらしい。
内容までは知らないが、社からどうこう言われているであろうことは理解した』
「そうか…」
犯人の手がかりだけでも見つけたいと思っていたが、残念ながらそれらしきものは見つからない。
石を積み直していると、木霊の目が小鞠に向けられる。
「そうだ。大変なところ申し訳ないんだけど、この子のこと知らない?」
『可愛らしいお嬢さんだ。しかし、その子には持ち主がいるのではないか?』
「ここの社を見たみたいなんだ。俺の家の前に置いていった人を探したいんだけど、彼女には記憶がなくて…」
『それは大変だな』
『大変』
「確かにちょっと大変だけど、もし落としていったならちゃんと帰したいんだ」
『…もし落としたわけではなかったらどうする?』
「うちにいてもらうことになるかもしれない。本人が嫌がるなら引き止めないけど、帰る場所がないなら寧ろいてくれると楽しい」
ばらばらになった木製の破片を集めて、なんとか少しずつ形にしていく。
『相変わらず八尋はお人好しですね』
「力が強いわけじゃないみたいだし、記憶がない相手に出ていけなんて言いたくない。
だけど、多分普通なら出ていくよう話すのが普通なんだと思う。…だから、俺はそんなにいい人じゃないよ」
少し崩れてはいるものの、なんとか見た目と中の一部だけは完成した。
「ごめん、これくらいしかできなくて…」
『俺にとってはこれくらいではない。ありがとう』
「今日は仕事があるからそろそろ行くよ。…今日も花を持ってきたんだ。受け取ってくれる?」
『ありがとう』
そんな会話をして、楽しそうに走り回っていた小鞠に止まるよう話しかける。
初めて会ったとき箱を包むのに使われていた布を取り出すと、木霊が何かに気づいたらしくはっとしたような表情で尋ねてきた。
『…その子は木箱に入っていたのか?』
「え?ああ、うん。家の前に置かれていたんだ」
『そうか…それなら、持ち主はいない可能性が高い』
「どういうことなんだ?」
意味が分からず訊き返すと、予想外の答えが返ってきた。
『恐らく、その風呂敷の持ち主は病に侵されていた。…もう長くはない状態だった』
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
手紙屋 ─ending letter─【完結】
Shizukuru
ライト文芸
終わりは突然、別れは必然。人が亡くなるとはそう言う事だ。
亡くなった人の想いの欠片が手紙となる。その手紙を届ける仕事こそ、黒須家で代々受け継がれる家業、"手紙屋"である。
手紙屋の見習いである黒須寧々子(JK)が仕事をこなしている時に、大事な手紙を白猫に取られてしまった!
白猫を探して辿り着いた神社で出会ったのは……金髪、カラコン、バチバチピアスのド派手な美形大学生だった。
顔はいいが、性格に難アリ。ヤダこの人と思ったのに……不思議な縁から始まる物語。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
黄龍国仙星譚 ~仙の絵師は遙かな運命に巡り逢う~
神原オホカミ【書籍発売中】
キャラ文芸
黄龍国に住む莉美は、絵師として致命的な欠陥を持っている。
それは、右手で描いた絵が生命を持って抜け出してしまうというものだ。
そんなある日、住み込み先で思いを寄せていた若旦那が、莉美に優しい理由を金儲けの道具だからだと思っていることを知る。
悔しくてがむしゃらに走っているうちに、ひょんなことから手に持っていた絵から化け物が生まれてしまい、それが街を襲ってしまう。
その化け物をたった一本の矢で倒したのは、城主のぼんくらと呼ばれる息子で――。
悩みを抱える少女×秘密をもった青年が
国をも動かしていく幻想中華風物語。
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。
〇構想執筆:2022年、改稿投稿:2024年
【完結】ツインクロス
龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
宝石のような時間をどうぞ
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
明るく元気な女子高生の朝陽(あさひ)は、バイト先を探す途中、不思議な喫茶店に辿り着く。
その店は、美形のマスターが営む幻の喫茶店、「カフェ・ド・ビジュー・セレニテ」。
訪れるのは、あやかしや幽霊、一風変わった存在。
風変わりな客が訪れる少し変わった空間で、朝陽は今日も特別な時間を届けます。
想妖匣-ソウヨウハコ-
桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。
そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。
「貴方の匣、開けてみませんか?」
匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。
「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」
※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる