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人形
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中から出てきたのは、なんだか不思議な雰囲気を纏った人形だった。
「なんだか精巧な作りをしているみたいだ」
『そうですね。手抜きでこんなふうにはならないはずです』
「結局送り主は分からずじまいか…」
もやもやしたものが心に残ったものの、どうしようもない。
とにかく探さなければと思ったが、本当に手がかりが何もなかった。
『その人形、少し危ないものかもしれません』
「今にも動き出しそうに見えるけど、きっと考えすぎだろう」
きっと、最近噂を追いすぎているからそう感じるんだろう。
…そうだと思いたい。
「取り敢えずここにでも置いておこうか」
『蓋は開けたままでいいんですか?』
「ずっと閉めたままだと、なんだか可哀想な気がするから…閉めておいた方がいいと思う?」
『一理ありますね。狭い箱の中でずっといるのも大変でしょうし、1日くらいなら構わない気がします』
「そうか。それじゃあこのままにしておこう」
それから一応ベッドに横にはなったけど、やっぱり眠れない。
思わずため息が零れたものの、そのままお守りを握りしめた。
『おはよう』
「瑠璃、もう少し寝かせてくれ…」
『おはよう』
「あと少しだけ、横になっていたい」
『おはよう』
だんだん意識がはっきりしてくるなかで違和感に気づく。
さっきからおはようしか言っていないし、声が瑠璃のものじゃない。
考えただけでどっとひや汗が出てきた。
だが、このまま目を開けないわけにはいかない。
「うわ!?」
『おはよう』
「君は、昨日の人形…さん?」
小さな着物を着たそれは間違いなく人形で、俺が起きたのを確認して家中を楽しそうに駆け回っている。
呆然としていると、瑠璃が肩に飛んできた。
『…やはりそうでしたか』
「何か知ってたのか?」
『一瞬、呪いの人形ではとも思ったのですが、この感じだとただの付喪神のようです』
「あれだけはしゃいでるのに、神様なのか…」
なんだか俺が出会ってきた神様たちとは違う光景に、思わず笑みが零れた。
『何か用があって自力で来たのかもしれませんね』
「それなら話を聞かないと」
『彼女は力が弱いようです。一言話すだけでせいいっぱいでしょう』
だからずっとおはようと繰り返していたのか。
「言葉、少しずつ教えたら覚えてくれるかな?」
『言葉を知らないわけではなさそうです。単純に、声を発することが難しいように感じます』
「それならもう少しこのまま様子を見よう。何か困っているなら話を聞きたい」
『いつものようにやっていくしかないのでしょうね』
こうして、家に動き回る人形がいる生活がはじまった。
「なんだか精巧な作りをしているみたいだ」
『そうですね。手抜きでこんなふうにはならないはずです』
「結局送り主は分からずじまいか…」
もやもやしたものが心に残ったものの、どうしようもない。
とにかく探さなければと思ったが、本当に手がかりが何もなかった。
『その人形、少し危ないものかもしれません』
「今にも動き出しそうに見えるけど、きっと考えすぎだろう」
きっと、最近噂を追いすぎているからそう感じるんだろう。
…そうだと思いたい。
「取り敢えずここにでも置いておこうか」
『蓋は開けたままでいいんですか?』
「ずっと閉めたままだと、なんだか可哀想な気がするから…閉めておいた方がいいと思う?」
『一理ありますね。狭い箱の中でずっといるのも大変でしょうし、1日くらいなら構わない気がします』
「そうか。それじゃあこのままにしておこう」
それから一応ベッドに横にはなったけど、やっぱり眠れない。
思わずため息が零れたものの、そのままお守りを握りしめた。
『おはよう』
「瑠璃、もう少し寝かせてくれ…」
『おはよう』
「あと少しだけ、横になっていたい」
『おはよう』
だんだん意識がはっきりしてくるなかで違和感に気づく。
さっきからおはようしか言っていないし、声が瑠璃のものじゃない。
考えただけでどっとひや汗が出てきた。
だが、このまま目を開けないわけにはいかない。
「うわ!?」
『おはよう』
「君は、昨日の人形…さん?」
小さな着物を着たそれは間違いなく人形で、俺が起きたのを確認して家中を楽しそうに駆け回っている。
呆然としていると、瑠璃が肩に飛んできた。
『…やはりそうでしたか』
「何か知ってたのか?」
『一瞬、呪いの人形ではとも思ったのですが、この感じだとただの付喪神のようです』
「あれだけはしゃいでるのに、神様なのか…」
なんだか俺が出会ってきた神様たちとは違う光景に、思わず笑みが零れた。
『何か用があって自力で来たのかもしれませんね』
「それなら話を聞かないと」
『彼女は力が弱いようです。一言話すだけでせいいっぱいでしょう』
だからずっとおはようと繰り返していたのか。
「言葉、少しずつ教えたら覚えてくれるかな?」
『言葉を知らないわけではなさそうです。単純に、声を発することが難しいように感じます』
「それならもう少しこのまま様子を見よう。何か困っているなら話を聞きたい」
『いつものようにやっていくしかないのでしょうね』
こうして、家に動き回る人形がいる生活がはじまった。
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