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皮剥さん
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「このあたりは皮剥さんのおかげで安心ねえ…」
『そんなふうに言ってもらえるのはありがたいが、俺は役目を全うしただけのことだ』
「あら、そんなに照れなくてもいいのに」
おばあさんと人間ではない何かが話している。
その会話は穏やかなもので、なんだか安心した。
「今日も栗を持ってきたの。よかったら食べてね」
『ありがたくいただこう』
「あなたは本当にこれが好きねえ…食べてもらえて嬉しいわ」
それからもおばあさんと彼の会話は続いた。
だが、その生活は長くは続かなかったらしい。
誰かが俺に話しかけている。どうやら今回はここまでのようだ。
『…まったく、あなたという人は』
「ごめん。それで、どうなった?」
『どうもこうも、あの状態です』
殺人犯は伸びたまま動かない。
その近くにいるのは、さっき見た夢に出てきた人だ。
「あの…あなたが皮剥さんですか?」
『いかにも。何故俺のことを知っている?もしや、記憶でも見られてしまったか』
「あのおばあさんは、どうなったんですか?」
訊いていいのか分からなかったけど、ここで話を終わらせたらいけない気がする。
『安らかに眠りについたよ。…あの人は最期まで俺を祀ってくれた。
あれから殆どの人間に姿が写らなくなり、ずっとここで眠っていたのだ。それが、何故かおかしな噂が流れて起こされた』
「そうだったんですね。助けてくれてありがとうございます」
皮剥さんはこちらをじっと見つめるばかりで、なかなか喋ろうとしない。
あまり話すのが好きではないのか、男を追い詰める為に体力を使いすぎたのか、見ただけでは判断できなかった。
『おまえ、見かけない顔だな。遠い場所から来たのか?』
「いえ。最近町で事件がおこっていて…生きている人間が犯人だと思って探していたんです。
そのとき、今の皮剥さんの噂を耳にしていたのでどんな人なのか気になって調べに来ました」
『そうか。だから俺の体がいきなり動くようになったのか』
「…怒ってないんですか?」
『愚かな人間もいるが、あの人のような優しい人間もいる。おまえもきっと優しいのだろうな』
「そう言ってもらえるとありがたいです。…もし困ったことがあれば言ってください。俺で力になれるならできる限り頑張ります」
皮剥さんは俺にありがとうと言ってくれた。
彼の後ろ姿を見送り、警察には近くにあった電話ボックスから通報してその場を後にする。
『どうするんですか?』
「暴走したらなんとかしないといけないけど、今は様子を見る。誰かを傷つけるような人じゃないみたいだから」
『どんなものが視えたんですか?』
「秘密」
噂を創り出している人間のことは赦せない。
ただ分かるのは、今目の前にある景色が綺麗だということだ。
『そんなふうに言ってもらえるのはありがたいが、俺は役目を全うしただけのことだ』
「あら、そんなに照れなくてもいいのに」
おばあさんと人間ではない何かが話している。
その会話は穏やかなもので、なんだか安心した。
「今日も栗を持ってきたの。よかったら食べてね」
『ありがたくいただこう』
「あなたは本当にこれが好きねえ…食べてもらえて嬉しいわ」
それからもおばあさんと彼の会話は続いた。
だが、その生活は長くは続かなかったらしい。
誰かが俺に話しかけている。どうやら今回はここまでのようだ。
『…まったく、あなたという人は』
「ごめん。それで、どうなった?」
『どうもこうも、あの状態です』
殺人犯は伸びたまま動かない。
その近くにいるのは、さっき見た夢に出てきた人だ。
「あの…あなたが皮剥さんですか?」
『いかにも。何故俺のことを知っている?もしや、記憶でも見られてしまったか』
「あのおばあさんは、どうなったんですか?」
訊いていいのか分からなかったけど、ここで話を終わらせたらいけない気がする。
『安らかに眠りについたよ。…あの人は最期まで俺を祀ってくれた。
あれから殆どの人間に姿が写らなくなり、ずっとここで眠っていたのだ。それが、何故かおかしな噂が流れて起こされた』
「そうだったんですね。助けてくれてありがとうございます」
皮剥さんはこちらをじっと見つめるばかりで、なかなか喋ろうとしない。
あまり話すのが好きではないのか、男を追い詰める為に体力を使いすぎたのか、見ただけでは判断できなかった。
『おまえ、見かけない顔だな。遠い場所から来たのか?』
「いえ。最近町で事件がおこっていて…生きている人間が犯人だと思って探していたんです。
そのとき、今の皮剥さんの噂を耳にしていたのでどんな人なのか気になって調べに来ました」
『そうか。だから俺の体がいきなり動くようになったのか』
「…怒ってないんですか?」
『愚かな人間もいるが、あの人のような優しい人間もいる。おまえもきっと優しいのだろうな』
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ただ分かるのは、今目の前にある景色が綺麗だということだ。
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