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隠れ鬼
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『まさかあれを捜そうと言い出すとは…』
「ごめん」
このままでは、近くにいる名前がない妖が怪異として存在することになるのも時間の問題だ。
今回の館長のように理性を保てる相手ばかりじゃない。
「そもそも、相手って怪異なのかな?」
『噂を利用した人間がいるということですか?』
「実は愉快犯でした、なんてことは…」
『時代が残っていたという事実がある以上、否定はできません。しかし、愉快犯と怪異がどちらも存在する可能性が高いと思われます』
「それもそうか」
切り傷か、それとも打撲だろうか。
傷が痛むせいでいまひとつ集中できていない。
『少し休みましょう』
「だけど、」
『八尋。今のあなたが怪異に遭遇して勝てる確率はそんなに高くありません』
「そうだね。ごめん」
瑠璃の言葉は厳しいようで、いつも優しさが滲んでいる。
ただでさえ怪我が治りきっていないのを無理して外に出させてもらっているのだ。
…それに、一緒に来てくれている瑠璃を危険な目に遭わせたくない。
『目処はついているんですか?』
「多分このあたりだと思うんだ。新聞記事から読み取れるのは、事件があったのがこの近くだろうということだけだから」
『もし相手が生きている人間だった場合はどうするんですか?』
「全力で逃げるよ。昔からかくれんぼは得意なんだ」
最後の独りになっても、誰からも見つけてもらえなかった。
…まだ小さかった頃の話だが、未だに覚えている。
だが、そのおかげで限りなく存在を無にすることを覚えた。
そうしていれば傷つくことも減るし、人間と深く関わらなくても大丈夫な気がする。
そう思いたいだけかもしれないが、その理論に縋りたかった。…今は本気でそう思っているが。
『あそこから人間の血のにおいがします』
「それじゃあやっぱり、実際に存在して、」
「誰かいるのか?」
その声に答えないよう、必死に息を殺す。
だんだんこちらから気配が遠ざかってはいるものの、まだ油断できない。
「俺は迷子になっただけなんだ。道案内をお願いしたいんだけど、出てきてもらえないかな?」
それなら何故工具のようなものを持つ必要がある?…なんて質問する勇気はない。
少しずつ離れようとした瞬間、思いきり落ち葉を踏んでしまった。
「やっぱり誰かいるじゃないか」
その速さは最早人間ではないくらいのもので、何度か追いつかれそうになる。
できるだけ後ろを振り向かずに走り続けていると、目の前に壁のようなものが現れた。
…全然気づいていなかったが、どうやらコンクリートの仕切りに向かっていたらしい。
「どうして逃げる?」
「そんなものを持っていたら、誰だって逃げます」
血が滴り落ちるその得物に一瞬視線をやり、それからは目の前の男と目を合わせ続けた。
「大丈夫、すぐ終わるからね」
「来るな!」
無我夢中でお守りを掴んだつもりだったが、相手が生きている人間なら効果はない。
諦めかけたそのとき、突然光が降り注ぐ。
『この地を荒らすもの、赦すべからず』
「あなたは、一体…」
その答えを聞くことなく、意識が途絶えた。
「ごめん」
このままでは、近くにいる名前がない妖が怪異として存在することになるのも時間の問題だ。
今回の館長のように理性を保てる相手ばかりじゃない。
「そもそも、相手って怪異なのかな?」
『噂を利用した人間がいるということですか?』
「実は愉快犯でした、なんてことは…」
『時代が残っていたという事実がある以上、否定はできません。しかし、愉快犯と怪異がどちらも存在する可能性が高いと思われます』
「それもそうか」
切り傷か、それとも打撲だろうか。
傷が痛むせいでいまひとつ集中できていない。
『少し休みましょう』
「だけど、」
『八尋。今のあなたが怪異に遭遇して勝てる確率はそんなに高くありません』
「そうだね。ごめん」
瑠璃の言葉は厳しいようで、いつも優しさが滲んでいる。
ただでさえ怪我が治りきっていないのを無理して外に出させてもらっているのだ。
…それに、一緒に来てくれている瑠璃を危険な目に遭わせたくない。
『目処はついているんですか?』
「多分このあたりだと思うんだ。新聞記事から読み取れるのは、事件があったのがこの近くだろうということだけだから」
『もし相手が生きている人間だった場合はどうするんですか?』
「全力で逃げるよ。昔からかくれんぼは得意なんだ」
最後の独りになっても、誰からも見つけてもらえなかった。
…まだ小さかった頃の話だが、未だに覚えている。
だが、そのおかげで限りなく存在を無にすることを覚えた。
そうしていれば傷つくことも減るし、人間と深く関わらなくても大丈夫な気がする。
そう思いたいだけかもしれないが、その理論に縋りたかった。…今は本気でそう思っているが。
『あそこから人間の血のにおいがします』
「それじゃあやっぱり、実際に存在して、」
「誰かいるのか?」
その声に答えないよう、必死に息を殺す。
だんだんこちらから気配が遠ざかってはいるものの、まだ油断できない。
「俺は迷子になっただけなんだ。道案内をお願いしたいんだけど、出てきてもらえないかな?」
それなら何故工具のようなものを持つ必要がある?…なんて質問する勇気はない。
少しずつ離れようとした瞬間、思いきり落ち葉を踏んでしまった。
「やっぱり誰かいるじゃないか」
その速さは最早人間ではないくらいのもので、何度か追いつかれそうになる。
できるだけ後ろを振り向かずに走り続けていると、目の前に壁のようなものが現れた。
…全然気づいていなかったが、どうやらコンクリートの仕切りに向かっていたらしい。
「どうして逃げる?」
「そんなものを持っていたら、誰だって逃げます」
血が滴り落ちるその得物に一瞬視線をやり、それからは目の前の男と目を合わせ続けた。
「大丈夫、すぐ終わるからね」
「来るな!」
無我夢中でお守りを掴んだつもりだったが、相手が生きている人間なら効果はない。
諦めかけたそのとき、突然光が降り注ぐ。
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「あなたは、一体…」
その答えを聞くことなく、意識が途絶えた。
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