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名もなき美術館
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「それじゃあ、やっぱりあなたは皮剥さんじゃないんですね」
『あれは別の者がおこしていること。自分には何も分からないんです。
ただ、その噂が広がりをみせているのが原因で、似た噂を持つ怪異は巻きこまれつつあります。…自分もいつ狂ってしまうか分かりません』
もう時間が残されていないことは理解した。
館長はそんななか踏みとどまってくれたのだ。
「俺を作品にしないでくれてありがとうございます」
『自分はただ、この美術館を護れればそれでいいので…。楽しんでいただきたいというのも事実です。
本来この場所は芸術の素晴らしさを見ていただく為にあるものですから。この石膏たちにも、そういう願いがこめられているのです』
「そうなんですね。…あなたの美術館には噂としての名前がありますか?」
『そういえば、はっきりしたものはありませんね』
巻きこまれる一因として、実は名称が朧気である場合が意外と多い。
「…【名もなき美術館】ということですか?」
『そんな感じです』
「分かりました。それなら俺がこの美術館に関する噂を流しておきます。
《その美術館に人間が辿り着くことは難しいが、もし辿り着けたら心揺さぶる素晴らしい作品が待っているらしい。ただし、マナー重視の心優しい館長に挨拶をしないといけない》…これならきっと、周りの噂に左右されることはなくなると思います」
『是非お願いします』
即興で考えたものだったが、まさかここまで喜んでもらえるとは思わなかった。
「そうだ、ひとつ教えてください」
『自分が知っていることならお答えします』
「さっきこの場所に入る前に飾られていた絵について知りたいんです。
…あの絵には、本当に相手を盲信させる力がありませんか?」
『この部屋に入る前は絵なんて飾っていなかったはずなのですが…おかしいな』
館長が持っていたパンフレットを見ても、あの絵に関する記述は見当たらなかった。
念の為1度確認しようと部屋の外に出ると、そこにはやはり怪しげな絵が存在している。
『この絵について、自分は何も分かりません。いつからあるのかさえ、何も…。ただ、何らかの術がかけられた形跡はあります』
「そういうの、分かるんですね。俺はよく視ないと分からなくて…ここに白いフードの男は来ませんでしたか?」
『ああ、真っ赤な眼鏡で黒い本のようなものを持っている方ならいらっしゃいました』
「その男に気をつけてください。恐らく、あなたを狂わせようとしたのはその男ですから」
『ありがとうございます。あなたもどうかお気をつけください。色違いの目というのは、本当に狙われやすいでしょうから。
…こちらのパンフレットを無くさずお持ちください。出口はあちらになります』
「ありがとうございます。今度はもっと、じっくり絵を見に来ますね」
館長はとてもいい人で、出口まで丁寧に送り届けてくれた。
あの忠告も心に留めておこうと握りしめたパンフレットに誓う。
「…瑠璃、今回も手を貸してほしい」
『あれは別の者がおこしていること。自分には何も分からないんです。
ただ、その噂が広がりをみせているのが原因で、似た噂を持つ怪異は巻きこまれつつあります。…自分もいつ狂ってしまうか分かりません』
もう時間が残されていないことは理解した。
館長はそんななか踏みとどまってくれたのだ。
「俺を作品にしないでくれてありがとうございます」
『自分はただ、この美術館を護れればそれでいいので…。楽しんでいただきたいというのも事実です。
本来この場所は芸術の素晴らしさを見ていただく為にあるものですから。この石膏たちにも、そういう願いがこめられているのです』
「そうなんですね。…あなたの美術館には噂としての名前がありますか?」
『そういえば、はっきりしたものはありませんね』
巻きこまれる一因として、実は名称が朧気である場合が意外と多い。
「…【名もなき美術館】ということですか?」
『そんな感じです』
「分かりました。それなら俺がこの美術館に関する噂を流しておきます。
《その美術館に人間が辿り着くことは難しいが、もし辿り着けたら心揺さぶる素晴らしい作品が待っているらしい。ただし、マナー重視の心優しい館長に挨拶をしないといけない》…これならきっと、周りの噂に左右されることはなくなると思います」
『是非お願いします』
即興で考えたものだったが、まさかここまで喜んでもらえるとは思わなかった。
「そうだ、ひとつ教えてください」
『自分が知っていることならお答えします』
「さっきこの場所に入る前に飾られていた絵について知りたいんです。
…あの絵には、本当に相手を盲信させる力がありませんか?」
『この部屋に入る前は絵なんて飾っていなかったはずなのですが…おかしいな』
館長が持っていたパンフレットを見ても、あの絵に関する記述は見当たらなかった。
念の為1度確認しようと部屋の外に出ると、そこにはやはり怪しげな絵が存在している。
『この絵について、自分は何も分かりません。いつからあるのかさえ、何も…。ただ、何らかの術がかけられた形跡はあります』
「そういうの、分かるんですね。俺はよく視ないと分からなくて…ここに白いフードの男は来ませんでしたか?」
『ああ、真っ赤な眼鏡で黒い本のようなものを持っている方ならいらっしゃいました』
「その男に気をつけてください。恐らく、あなたを狂わせようとしたのはその男ですから」
『ありがとうございます。あなたもどうかお気をつけください。色違いの目というのは、本当に狙われやすいでしょうから。
…こちらのパンフレットを無くさずお持ちください。出口はあちらになります』
「ありがとうございます。今度はもっと、じっくり絵を見に来ますね」
館長はとてもいい人で、出口まで丁寧に送り届けてくれた。
あの忠告も心に留めておこうと握りしめたパンフレットに誓う。
「…瑠璃、今回も手を貸してほしい」
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