カルム

黒蝶

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楽しかった時間

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「お疲れ様でした」
疲れた体を動かしながらその場を離れようとすると、ぽんぽんと肩をたたかれる。…中津先輩だった。
「八尋君、今日こそつきあってもらうよ」
「それってどういう意味ですか?」
「最近忙しそうにしてるから、コンビニ夜食につきあって」
有無を言わさぬ笑みに、今日は逃げられないと悟る。
少し離れた場所で山岸先輩が申し訳なさそうな表情をしていたが、別に嫌なわけじゃないからそんな顔をしないでほしい。
そしてそのまま、コンビニでホットスナックを買ってベンチに腰掛ける。
まだ肌寒く感じて、長居はできないだろうと考えた。
「八尋君、この前もそれ食べてなかった?」
「昔からこういうチキンが好きで…」
「そういうの、なんだか分かる気がする」
先輩たちは人間ではない部分を持っているはずなのに、あまりそれを強く感じたことがない。
近くにいても体調を崩すようなことはないし、こうして向き合って話をしてもただ楽しいだけでそれ以外変化はなかった。
「八尋君、人付き合いは嫌い?」
「どうしたんですか、突然…」
「時々僕たちの方を見て、ちょっと羨ましいって顔をしているときがあったから。
勘違いだったらすごく恥ずかしいんだけど、僕と柊の関係はいいって思うものなのかなって」
「なんだか見ていて微笑ましいなって思うんです。たしかに俺は人付き合いが苦手で、いつも避けています。
独りでいる方が楽かもしれないと考えることもしょっちゅうだし、先輩方みたいにすごく仲がいい相手がいるわけでもないので…」
これでもかというほど人間が好きになれない。
裏切られて傷つくくらいなら、ずっと独りでも構わないと思っていた…はずなのに。
最近は人間ではない友人が徐々に増えはじめたような気がする。
「僕たちの関係がそんなふうに輝いて見えてるとは思わなかった。…いい後輩を持ったね、柊」
「君こそよかったんじゃない?…まあ、僕と木葉は腐れ縁みたいなものだけどね」
「またまた、そうやってすぐ照れるんだから…」
「照れてない」
このふたりを見ていると、本当に仲がよくて微笑ましいと感じる。
「もし木葉に嫌なことをされたらすぐ言って。僕がなんとかするから」
「ちょっと、柊!」
「先輩方は本当に仲がいいんですね」
俺はもう、そんな相手を作ることはないだろう。
またあんな思いをするくらいなら、瑠璃がいてくれるだけで充分だ。
「すみません。俺、もう行かないと…」
「またね!」
「気が向いたら次もつきあってあげて」
「ありがとうございます」
ふたりの優しさが心に沁み渡る。
だが、それと同時に昔のことを思い出してしまっていた。
考えても仕方がないのは分かっているつもりだが、すぐ割り切れるほど俺は強くない。
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