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曇り空の
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「そんな勝手なことが、」
『そう。だから僕はあいつらを赦せない。優しかったんだ。寂しがってたんだ。…現実は残酷だって怯えてたんだ。
そんな彼が、人殺しみたいなことをするわけないのに!どうして死んじゃった瞬間勝手なことばかり言うの!?』
真田の領域であるこの場所では、ずっと雨が降っている。
彼の怒りはもっともだ。1番近くにいたからこそ、想像して創造した人のことをよく知っているんだろう。
「真田」
『…ごめん。僕、感情が昂ぶるといつもこうなるんだ。だけど、あの子の心はずっと泣いてた。
いつも僕に話しかけてくれる笑顔は優しかったけど、新しい薬を試す度震えてたんだ。誰だって怖いよね』
「…そうだな。見知らぬ薬を飲んだり、病気と闘うのは怖いと思う」
『君はやっぱり優しいね。あの子がいるうちに会ってみてほしかったな…』
真田はきっと、人を殺したり隠したりはしていない。
ただ、噂だけが独り歩きして収拾がつかなくなっている。
「誰が噂を流しはじめたか分かる?」
『…看護師が話してるのは見たことがあるよ。だけど、それが最初かどうかまでは分からないんだ。
あの子の担当だった奴等だったけど、もう名前さえ覚えてない』
「そうか…。それじゃあ、真田が話していた相手についてもう少し聞きたい。
まだ雨は止みそうにないし、もう少しだけつきあってほしいんだ」
『…いいよ』
怒らせたと思っていたが、どうやらそういうわけではなかったらしい。
『彼は…真田正春は、生まれつき心臓が弱かったらしい』
「正春さんっていうのか。素敵な名前だね」
『でしょ?僕もそう思ってたんだ』
自分の名字を名付けるほど、正春さんは真田に心を許していたのだろう。
そのことが目の前にある笑顔からも読み取れる。
『名前だけはかっこよくなったっていつも言ってた。あの子は演奏家になるのが夢で…』
それから真田は話してくれた。
ピアノを弾くのが好きで、体調がいいときには演奏を聴かせてもらっていたこと。
どうしてもピーマンだけは食べられなかったことや、ずっと夢だったコンクール出場が決まって喜んでいたのに、その夢が叶うことがなかったことも。
『どうして自分の体はこんなに弱いんだって泣いてた。いつも側にいるお姉さん…たしか、田端さんっていうんだけど、その人が付き添いをしてたんだ。
家族と呼べる相手なんていないけど、あの人にだけは心を開けるって話してた』
「そうか…」
『あの日は土砂降りだった。だからここでは、よく雨が降るんだ。
…僕はあの子のことを忘れないでここにいる。どうして噂が流れたのかは分からないままだけど、今日八尋に会えてよかった』
真田の笑顔は嘘ではないと信じたい。
空模様は少しずつ変化していき、いつの間にか雨は小ぶりになっていた。
『そう。だから僕はあいつらを赦せない。優しかったんだ。寂しがってたんだ。…現実は残酷だって怯えてたんだ。
そんな彼が、人殺しみたいなことをするわけないのに!どうして死んじゃった瞬間勝手なことばかり言うの!?』
真田の領域であるこの場所では、ずっと雨が降っている。
彼の怒りはもっともだ。1番近くにいたからこそ、想像して創造した人のことをよく知っているんだろう。
「真田」
『…ごめん。僕、感情が昂ぶるといつもこうなるんだ。だけど、あの子の心はずっと泣いてた。
いつも僕に話しかけてくれる笑顔は優しかったけど、新しい薬を試す度震えてたんだ。誰だって怖いよね』
「…そうだな。見知らぬ薬を飲んだり、病気と闘うのは怖いと思う」
『君はやっぱり優しいね。あの子がいるうちに会ってみてほしかったな…』
真田はきっと、人を殺したり隠したりはしていない。
ただ、噂だけが独り歩きして収拾がつかなくなっている。
「誰が噂を流しはじめたか分かる?」
『…看護師が話してるのは見たことがあるよ。だけど、それが最初かどうかまでは分からないんだ。
あの子の担当だった奴等だったけど、もう名前さえ覚えてない』
「そうか…。それじゃあ、真田が話していた相手についてもう少し聞きたい。
まだ雨は止みそうにないし、もう少しだけつきあってほしいんだ」
『…いいよ』
怒らせたと思っていたが、どうやらそういうわけではなかったらしい。
『彼は…真田正春は、生まれつき心臓が弱かったらしい』
「正春さんっていうのか。素敵な名前だね」
『でしょ?僕もそう思ってたんだ』
自分の名字を名付けるほど、正春さんは真田に心を許していたのだろう。
そのことが目の前にある笑顔からも読み取れる。
『名前だけはかっこよくなったっていつも言ってた。あの子は演奏家になるのが夢で…』
それから真田は話してくれた。
ピアノを弾くのが好きで、体調がいいときには演奏を聴かせてもらっていたこと。
どうしてもピーマンだけは食べられなかったことや、ずっと夢だったコンクール出場が決まって喜んでいたのに、その夢が叶うことがなかったことも。
『どうして自分の体はこんなに弱いんだって泣いてた。いつも側にいるお姉さん…たしか、田端さんっていうんだけど、その人が付き添いをしてたんだ。
家族と呼べる相手なんていないけど、あの人にだけは心を開けるって話してた』
「そうか…」
『あの日は土砂降りだった。だからここでは、よく雨が降るんだ。
…僕はあの子のことを忘れないでここにいる。どうして噂が流れたのかは分からないままだけど、今日八尋に会えてよかった』
真田の笑顔は嘘ではないと信じたい。
空模様は少しずつ変化していき、いつの間にか雨は小ぶりになっていた。
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