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土砂降りの
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返答がないので、もう1度話しかけてみる。
「それに、こんなに雨が降っているのに傘をささないと風邪を引くよ」
相手は無言のままだったが、やがて小さく頷き小走りで病院に入っていった。
「待って!」
少年の持ち物であろう鍵を持ち、小走りで後を追う。
なかなか追いつけず、気づいたときには見失っていた。
「院内では静かにお願いします」
「すみません。さっき鍵を探している子がいたので渡したかったんですけど、見失ってしまって…。
多分15歳くらいの少年だったんですけど、もし持ち主が現れたら渡しておいてもらえませんか?」
人と話すのは苦手だが、こういう場合は何故かすらすら言葉が出てくる。
「分かりました」
「ありがとうございます」
看護師さんは不思議そうしていたが、やがてどこかへ歩き出す。
そういえば受付もすませていなかったと、俺はそのまま待合室へ向かった。
『まさかあれだけ酷いとは思いませんでした。瘴気で焼けたんだとは思いますが…』
「そもそも火傷だってことにさえ気づいてなかったから、悪化するのは当然だった」
『気をつけてください。さっきといい、あなたは無茶しすぎです』
「さっきって?」
何の話をしているのか意味が分からず、その場でただ首を傾げることしかできない。
『それは…』
「ごめん。ちょっと急がないといけなくなった」
『八尋?』
先程の少年がこちらを見つめ、ついてくるよう手招きする。
「待って!」
どこへ行くつもりかは分からないが、なんとなくついていかなければならないような気がして自然と早足になる。
そのまま追いかけていると、突きあたりを曲がっていった。
その部屋には驚くほど物がなく、ただベッドに少年が座っている。
…俺は来てはいけない場所に入ってしまったのか。
「君が探していた鍵、看護師さんに預けたんだ。見つけられたのに、ちゃんと届けられなくてごめん。
ただ、病院の中ではあんまり走らないようにした方がいい。人が多くて危ないから」
彼の手を握り、一礼して部屋を出ようとする。
だが、扉は固く閉ざされていて押しても引いても開かなかった。
『…バスで聞いた噂、覚えていますか?』
「ああ。病院の部屋に入ったらどこかに連れて行かれてしまうって…」
そこまで話して背筋が凍る。
どの病院か分からなかったが、もしそれがこの場所を指しているなら俺たちはどうなるだろう。
「ごめん、そういうことか」
『まったく、あなたという人は…』
「本当にごめん」
独りだったならともかく、瑠璃を巻きこんでしまっている以上なんとか家に戻らなければならない。
少年に話しかけようとすると、彼はぽつりと呟いた。
『雨が止むまでここにいて。そうすればちゃんと元の場所に出してあげるから』
「それに、こんなに雨が降っているのに傘をささないと風邪を引くよ」
相手は無言のままだったが、やがて小さく頷き小走りで病院に入っていった。
「待って!」
少年の持ち物であろう鍵を持ち、小走りで後を追う。
なかなか追いつけず、気づいたときには見失っていた。
「院内では静かにお願いします」
「すみません。さっき鍵を探している子がいたので渡したかったんですけど、見失ってしまって…。
多分15歳くらいの少年だったんですけど、もし持ち主が現れたら渡しておいてもらえませんか?」
人と話すのは苦手だが、こういう場合は何故かすらすら言葉が出てくる。
「分かりました」
「ありがとうございます」
看護師さんは不思議そうしていたが、やがてどこかへ歩き出す。
そういえば受付もすませていなかったと、俺はそのまま待合室へ向かった。
『まさかあれだけ酷いとは思いませんでした。瘴気で焼けたんだとは思いますが…』
「そもそも火傷だってことにさえ気づいてなかったから、悪化するのは当然だった」
『気をつけてください。さっきといい、あなたは無茶しすぎです』
「さっきって?」
何の話をしているのか意味が分からず、その場でただ首を傾げることしかできない。
『それは…』
「ごめん。ちょっと急がないといけなくなった」
『八尋?』
先程の少年がこちらを見つめ、ついてくるよう手招きする。
「待って!」
どこへ行くつもりかは分からないが、なんとなくついていかなければならないような気がして自然と早足になる。
そのまま追いかけていると、突きあたりを曲がっていった。
その部屋には驚くほど物がなく、ただベッドに少年が座っている。
…俺は来てはいけない場所に入ってしまったのか。
「君が探していた鍵、看護師さんに預けたんだ。見つけられたのに、ちゃんと届けられなくてごめん。
ただ、病院の中ではあんまり走らないようにした方がいい。人が多くて危ないから」
彼の手を握り、一礼して部屋を出ようとする。
だが、扉は固く閉ざされていて押しても引いても開かなかった。
『…バスで聞いた噂、覚えていますか?』
「ああ。病院の部屋に入ったらどこかに連れて行かれてしまうって…」
そこまで話して背筋が凍る。
どの病院か分からなかったが、もしそれがこの場所を指しているなら俺たちはどうなるだろう。
「ごめん、そういうことか」
『まったく、あなたという人は…』
「本当にごめん」
独りだったならともかく、瑠璃を巻きこんでしまっている以上なんとか家に戻らなければならない。
少年に話しかけようとすると、彼はぽつりと呟いた。
『雨が止むまでここにいて。そうすればちゃんと元の場所に出してあげるから』
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