カルム

黒蝶

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探し物の理由

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「お疲れ様でした」
店を出ようとすると、誰かに手を掴まれる。
「八尋君、大丈夫?顔真っ青だよ?」
「中津先輩…」
隣には山岸先輩もいて、複雑な表情を見せていた。
申し訳ないが、ふたりを巻きこむわけにはいかない。
これは俺の問題だし、万が一あの男が現れたらという不安もある。
「すみません、俺は平気です。先輩たちの方こそ疲れているように見えます」
「僕たちはへっちゃらだよ。ありがとう」
「おやすみなさい」
急ぎ足でその場を離れ、すぐに瑠璃を呼ぶ。
出現条件が決まっていない相手というのは厄介だ。
夜、なんていう曖昧な表現だけでは探しようがない。
ただ、関連していそうな記事は見つけた。
「瑠璃、もしかしてこれなんじゃないかと思うんだ」
『快楽殺人の被害者、ですか』
「うん。どうやら何人かは体の一部しか見つからなかったらしくて…。どことは書かれてないけど、もしかすると顔がない人もいたんじゃないかって思うんだ」
『確かめてみる価値はありそうですね』
「今日は遅いから引き上げたいんだけど、この時間帯でも出てくるのかな?
というより、俺の家に来てたってことは夕方でも動けるのかもしれない」
『たしかにそこが不思議ですね。それも、狙ったわけではなさそうでした』
あのとき思いきり家に入られていれば逃げ切れなかったかもしれないのに、クビトリさんはそうしなかった。
それはやはり何か困っているからだと考える俺は、甘いのかもしれない。
「…家にいたらまた来ないかな?」
『来るかもしれませんね』
「今夜はそっちを試そう」
どうせ眠れなくて起きている身だ。
だったら、相手が現れるのを待つという戦法も許されるだろう。
それに、出現場所についてもあやふやな部分が多いのでどこまでやって来るのか試したい。
傷つけるつもりがなさそうだし、何故彷徨っているのかきちんと聞かなければ意味がないのだ。
『今日は随分と忙しそうでしたね』
「クビトリさんの話をしてないか周りの話を聞いてばかりいたからな。
ただ、あやふやな情報のまま少し広まってたからちょっと心配だな…」
『いつもあなたはそうやって人のことばかりですね』
「誰かが困っていたらなんとかしたいって思うのは、変なことなのかな」
他愛のない話をしているうちに、いつの間にか家まで辿り着く。
もう現れないだろうと気を抜いた瞬間、それは突然やってきた。
「え……」
『お願いします、お願いします』
ドアを開けた直後、視界に飛びこんできたのは土下座しながらぶつぶつ何かを呟くクビトリさんだった。
「あなたは、何に困っているんですか?」
『矢野を、矢野ヲ、ヤノヲ……』
そこまで話して姿を消してしまう。
…噂が広がっていないならと思っていたが、もうそれほど時間が残っていないのかもしれない。
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