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振り下ろされる斧
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首がない遺体に関する事件はないわけじゃない。
「ひとりでいたから、一家心中ってことはないよな…」
『今日は寝ないつもりですか?』
「後で少しだけ休むよ」
『あなたの少しは本当に少しですからね…』
「休んではいるんだから、っていうのは言い訳にもならないか」
ふと顔をあげると、瑠璃の羽が傷ついていた。
「その羽、どうしたんだ?」
『枝にぶつかっただけですよ』
「誰かにやられたとかじゃないんだな?」
『本当に違います。あなたは心配性ですね』
「そっか…。ごめん、ならいいんだ」
あいつが町に来ているなら、そんなことが起こってもおかしくない。
俺はただ誰にも傷ついてほしくないのに、どうしてあの男はそんな酷いことをするんだろう。
『今日もお仕事なのでしょう?休み無しで行くのは堪えますよ』
「…そうだね。少しでも休んでおかないと迷惑をかけちゃいそうだ」
『気になるのはそこですか?』
「…?うん、そうだけど」
俺の言葉に瑠璃はただため息を吐く。
その意味がよく分からなかったが、取り敢えず横になることにした。
──お守りを枕元においてあるからか、昔の夢を見ることが増えたような気がする。
【八尋は将来やりたいこととか決めているの?】
ただ、ずっと一緒にいてほしい。
【私に?あなたは本当にいい子ね。そうなるといいけれど、私のことを忘れてしまってもいいのよ?】
…忘れられるわけないだろう。
いつまでだって、きっと忘れたりなんかしない。
たしかこの日は雨が降っていて、帰り道で転びそうになって、それから──
『…ろ、八尋』
「ん?ああ、ごめん。誰か来た?」
『どうやら招かれざる客のようですよ』
「それってどういう、」
どういう意味なのかなんて訊くまでもない。
ずるずると何かを引きずるような音が聞こえたかと思うと、玄関の扉に向かって何かが激しくぶつかっている。
この部屋に入りたいのか、やはり目が合ってしまっていたのか…色々考えた末、そのまま室内で包丁を構えた。
だが、そうこうしているうちに音は遠ざかっていき、そのまま消える。
『…入ってきませんでしたね』
「開けられるはずなのに、どうして…」
『一先ず夕飯を召しあがってはいかがでしょう?』
「そうさせてもらうね」
瑠璃の分も少しだけ用意して、俺はいつものように夕食を口にする。
すぐに家を出られるようにはしてあるので、お守りだけ鞄に入れて外に出た。
「…開けられなくてよかったのかもしれない」
『何故です?』
「この傷、他の人たちにも見えるのかな…」
扉には無数の傷がついていて、へこんでいる箇所もあった。
こんなの、人間技じゃない。
万が一修理になったら、なんてことはどうでもよくて、とにかく仕事場へと向かう。
…早く解決しないと、本当に犠牲者が出てしまうかもしれない。
「ひとりでいたから、一家心中ってことはないよな…」
『今日は寝ないつもりですか?』
「後で少しだけ休むよ」
『あなたの少しは本当に少しですからね…』
「休んではいるんだから、っていうのは言い訳にもならないか」
ふと顔をあげると、瑠璃の羽が傷ついていた。
「その羽、どうしたんだ?」
『枝にぶつかっただけですよ』
「誰かにやられたとかじゃないんだな?」
『本当に違います。あなたは心配性ですね』
「そっか…。ごめん、ならいいんだ」
あいつが町に来ているなら、そんなことが起こってもおかしくない。
俺はただ誰にも傷ついてほしくないのに、どうしてあの男はそんな酷いことをするんだろう。
『今日もお仕事なのでしょう?休み無しで行くのは堪えますよ』
「…そうだね。少しでも休んでおかないと迷惑をかけちゃいそうだ」
『気になるのはそこですか?』
「…?うん、そうだけど」
俺の言葉に瑠璃はただため息を吐く。
その意味がよく分からなかったが、取り敢えず横になることにした。
──お守りを枕元においてあるからか、昔の夢を見ることが増えたような気がする。
【八尋は将来やりたいこととか決めているの?】
ただ、ずっと一緒にいてほしい。
【私に?あなたは本当にいい子ね。そうなるといいけれど、私のことを忘れてしまってもいいのよ?】
…忘れられるわけないだろう。
いつまでだって、きっと忘れたりなんかしない。
たしかこの日は雨が降っていて、帰り道で転びそうになって、それから──
『…ろ、八尋』
「ん?ああ、ごめん。誰か来た?」
『どうやら招かれざる客のようですよ』
「それってどういう、」
どういう意味なのかなんて訊くまでもない。
ずるずると何かを引きずるような音が聞こえたかと思うと、玄関の扉に向かって何かが激しくぶつかっている。
この部屋に入りたいのか、やはり目が合ってしまっていたのか…色々考えた末、そのまま室内で包丁を構えた。
だが、そうこうしているうちに音は遠ざかっていき、そのまま消える。
『…入ってきませんでしたね』
「開けられるはずなのに、どうして…」
『一先ず夕飯を召しあがってはいかがでしょう?』
「そうさせてもらうね」
瑠璃の分も少しだけ用意して、俺はいつものように夕食を口にする。
すぐに家を出られるようにはしてあるので、お守りだけ鞄に入れて外に出た。
「…開けられなくてよかったのかもしれない」
『何故です?』
「この傷、他の人たちにも見えるのかな…」
扉には無数の傷がついていて、へこんでいる箇所もあった。
こんなの、人間技じゃない。
万が一修理になったら、なんてことはどうでもよくて、とにかく仕事場へと向かう。
…早く解決しないと、本当に犠牲者が出てしまうかもしれない。
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