カルム

黒蝶

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新たな噂

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「お、お疲れ様です…」
「…お疲れ」
「山岸先輩、この前はすみませんでした」
「風邪が治ったならそれでいい。それに、君は秘密を守ってくれるだろうから」
ふたりで話をしていると、かなり近くから視線を感じる。
ふとそちらの方を向いた瞬間、中津先輩がこちらに走ってきた。
「ふたりとも、いつの間にそんなに仲良くなったの!?いいなあ、僕もまぜて?」
「あの…」
「…木葉、相手を困らせてる」
「柊はもうちょっと僕に優しくしてほしいかな」
ここ3日ほど、瑠璃の姿を見ていない。
なにかトラブルに巻きこまれていないといいけど、それなら彼女はすぐくるはずだ。
…そろそろ家で待っているかもしれない。
「すみません、俺はこれで失礼します」
できるだけ走ってみたものの、家までの道がかなり遠く感じられる。
あの出来事があってからも、先輩たちとの関係は特に変わっていない。
ふたりともいい人たちで迷惑はかけたくなくてできるだけ接触を避けてしまっているが、それでも今までどおり接してくれることに感謝しかなかった。
『…八尋』
「ああ、瑠璃。最近どうしてたんだ?」
『来て早々申し訳ないのですが、またトラブルです』
「今回はどんな話?」
恐らく、彼女の慌てぶりからしてまた怪異が現れたのだろう。
『また妙な噂が流れているのです』
「妙な噂?」
『クビトリさんというものを知っていますか?』
「いや、初耳だな…」
あったこともないし、元々の話がどんなものなのかも分からない。
噂はあくまで噂だと言われてしまえばそれまでだが、瑠璃が不安がるということはそういうことだ。
「どういう話?」
『首がない者が徘徊している。その者は自らの首を探し求め、夜になると徘徊し、目の前に来た相手から首を奪っていく…そういう話です』
「予想よりずっと怖いな。被害はどれくらい出てる?」
『その全容があまり見えてこないのです。そもそも、本当にそんなことをすれば痕跡が何もないのは不自然でしょう?』
言われてみればそうだ。
死人に口なしにも関わらず噂は広がり続けているのに、それを裏付けるような遺体などは見つかっていない。
「誰かが遊び半分で流したのか、それとも面白いからわざと吹聴したのか…」
『体調は大丈夫ですか?』
「うん。おかげさまでもうよくなったよ」
あれから熱を下がりきらせ、すぐに治した。
もう怠さも感じないし、仕事だってこなせたのだから大丈夫だろう。
「その噂って、出没時間は決まってないのか?」
『そのあたりがあやふやなのだそうです』
「…それじゃあ、少し町を歩いてみよう」
運がいいのか悪いのか分からないが、出くわしてしまう可能性がないとはいえない。
…こういう場合、何か武器にできそうなものを持っておくべきだろうか。
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