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死神
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体調に注意しつつ、なんとか深夜1時になって辿り着くことができた。
「ここが、君が探していた場所だよ」
『僕はたしかにここで、思いきりあの子を突き飛ばしたんです。多分、それでそのまま…」
「男の子の家は分かる?」
『この突きあたりを右に行った場所です」
指示どおり向かうと、そこにはたしかに1軒の家があった。
だが、扉は固く閉ざされ、誰かが住んでいる気配はない。
『やっぱり、引っ越してしまったんでしょうか…」
「その可能性も否定できないけど、時間が時間だから断言するのは難しい。
ただ、いない可能性の方が高いかもしれない」
『最後に僕と遊んでくれたお礼をちゃんとお礼が言いたかったんですけど、残念です」
絆は悲しげに微笑んで、そのまま何かを考えている。
自分のことを責めてしまってはいないだろうか。
少し不安を覚えつつ、立ち尽くす彼女を見ていることにした。
今無理に話しかけても、逆に辛くなってしまうだろうから。
『まさかお礼ひとつ言えない状況になるとは思いませんでした。…あの人たちがどうなったかなんて気にもならないけど、あの子が変な方向に注目を浴びてないか心配だったんです。
あの瞬間、そんなことも考えられなかったなんて…本当に最低ですね、僕は」
絆が心配していたのは、男児の安否と面白おかしく注目されていないかどうかだったのだ。
自分がしたことによってその子の生活を悪い方へ変えてしまっていたら、という不安があるんだろう。
「そんなことない。君は君が正しいと思うことをした。それなら、その選択を自分で否定する必要はないと思う」
『優しいんですね、あなたは」
「普通だと思うけど…」
そこまで話したところで人の気配を感じる。
この家の主だった人物か、それとも…俺の予想は当たってしまった。
『死神さん、もう時間ですよね…」
「残念だけど、これ以上猶予を与えることはできない」
その人物との会話に割って入ることなどできるはずもなく、ただ見ているだけの状態になる。
『私のお願いを聞いてくれてありがとうございました」
「力になれなくてごめん」
『生きている間、誰にも見向きもされなかった僕がこんなふうに人に協力してもらえた…それだけで充分です」
絆はただ笑っていて、その表情は満足げだった。
『死神さんも、ありがとうございました」
「僕はただ、時間を稼いだだけだから」
少女の願いが成し遂げられることはなかったが、それでも最後に笑顔を見られてよかった。
だが、目の前にいる人物をどうしても無視することはできない。
逃げ出したくなる衝動を抑えつつ、できるだけいつもどおりを装い話しかけた。
「……話を聞いてもいいですか、山岸先輩」
「ここが、君が探していた場所だよ」
『僕はたしかにここで、思いきりあの子を突き飛ばしたんです。多分、それでそのまま…」
「男の子の家は分かる?」
『この突きあたりを右に行った場所です」
指示どおり向かうと、そこにはたしかに1軒の家があった。
だが、扉は固く閉ざされ、誰かが住んでいる気配はない。
『やっぱり、引っ越してしまったんでしょうか…」
「その可能性も否定できないけど、時間が時間だから断言するのは難しい。
ただ、いない可能性の方が高いかもしれない」
『最後に僕と遊んでくれたお礼をちゃんとお礼が言いたかったんですけど、残念です」
絆は悲しげに微笑んで、そのまま何かを考えている。
自分のことを責めてしまってはいないだろうか。
少し不安を覚えつつ、立ち尽くす彼女を見ていることにした。
今無理に話しかけても、逆に辛くなってしまうだろうから。
『まさかお礼ひとつ言えない状況になるとは思いませんでした。…あの人たちがどうなったかなんて気にもならないけど、あの子が変な方向に注目を浴びてないか心配だったんです。
あの瞬間、そんなことも考えられなかったなんて…本当に最低ですね、僕は」
絆が心配していたのは、男児の安否と面白おかしく注目されていないかどうかだったのだ。
自分がしたことによってその子の生活を悪い方へ変えてしまっていたら、という不安があるんだろう。
「そんなことない。君は君が正しいと思うことをした。それなら、その選択を自分で否定する必要はないと思う」
『優しいんですね、あなたは」
「普通だと思うけど…」
そこまで話したところで人の気配を感じる。
この家の主だった人物か、それとも…俺の予想は当たってしまった。
『死神さん、もう時間ですよね…」
「残念だけど、これ以上猶予を与えることはできない」
その人物との会話に割って入ることなどできるはずもなく、ただ見ているだけの状態になる。
『私のお願いを聞いてくれてありがとうございました」
「力になれなくてごめん」
『生きている間、誰にも見向きもされなかった僕がこんなふうに人に協力してもらえた…それだけで充分です」
絆はただ笑っていて、その表情は満足げだった。
『死神さんも、ありがとうございました」
「僕はただ、時間を稼いだだけだから」
少女の願いが成し遂げられることはなかったが、それでも最後に笑顔を見られてよかった。
だが、目の前にいる人物をどうしても無視することはできない。
逃げ出したくなる衝動を抑えつつ、できるだけいつもどおりを装い話しかけた。
「……話を聞いてもいいですか、山岸先輩」
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