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堕ちた少女
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「えっと…ここにどうぞ」
残業ではなく読書がしたいと店長に申し出ると、戸締まりをしっかりするように言って許可をくれた。
嘘を吐いたことを申し訳なく思いつつ、
『やっぱり、分かっちゃったんですね」
「ごめん。君のことを新聞記事で読んだんだ。だけど、そこに書かれていない事実があるんだろうと思って…。
俺には君をどうこうする力はないけど、どうして同じ時間に飛び続けているのか教えてほしい」
そう話すと、目の前の少女はただ笑った。
『私、最期まで駄目な子だったんです。どうしてと言われれば分からないけど、あいつらに傷ひとつつけられなかった…」
それからゆっくり少女はどんな目に遭ってきたのか話しはじめる。
その内容はあまりにも酷く、途中で何度も目を逸してしまいそうになった。
ただ、彼女はやはり心に深い傷を負っていることは間違いない。
「それを全部、なかったことにされた?」
『…相手はかなりのお金持ちで、学校相手に寄付をしている家だって聞いています。
私は権力も財力もなくて、自分の身ひとつで勝負するしかなかったんです。…ただ、誰でもいいからあいつらに報いを受けさせてほしかったのかもしれません」
自分のことは誰にも気づいてもらえなくてもいいから、とにかく相手の酷いおこないに気づいてほしかったと、彼女はそう言った。
「他にも被害者がいるの?」
『今もターゲットにされている子が複数います。私と違って、可愛くて、頭がよくて…。
それなのに、最近は勉強するのもやめちゃってるんです。あの場所によく来るから、いつか私が視えてしまうんじゃないかとはらはらしていました」
「…そうか」
友人同士、だったのかもしれない。
彼女の選択を否定する権利なんて誰にもないし、当然そんなことをする気にもならなかった。
「君も、成績が下がったりしたの?」
『しました。もう全部が嫌になって…そのとき親から言われたんです。『出来損ないなんて生むんじゃなかった』って」
それが限界に達した人間にかけられる言葉なら、絶望するしかない。
彼女は助けを求められず、ぎりぎりのところで頑張って、頑張って、頑張り続けて…そうして最期の日を選んだのだ。
『私が実行した日、リーダー格の誕生日の前日だったんです。こうすれば笑顔で祝えなくなる、全部壊れるんじゃないかって…。
だけど、相手が心を持っていないことをすっかり忘れていました」
彼女は笑って話しているが、全然笑えない。
必死に生き抜いた結果がそれだなんて、あまりにも哀しすぎる。
「苦しかっただろ?大変だったね」
『…劣等生の私のお願い、聞いてもらえませんか?」
「内容によるけど、俺にできることなら」
『実は、あの屋上の片隅にUSBメモリーを隠しておいたんです。でも、あの場所に近づいたら毎回飛んでしまって…探しきれてないんです」
少女は決意したように顔をあげた。
『お願いします。封筒を見つけて、遠くにいる友人に送ってほしい…。あとは彼女に任せたいんです。
1番の被害者だったあの子には、あのデータを好きにする権利があると思うから」
残業ではなく読書がしたいと店長に申し出ると、戸締まりをしっかりするように言って許可をくれた。
嘘を吐いたことを申し訳なく思いつつ、
『やっぱり、分かっちゃったんですね」
「ごめん。君のことを新聞記事で読んだんだ。だけど、そこに書かれていない事実があるんだろうと思って…。
俺には君をどうこうする力はないけど、どうして同じ時間に飛び続けているのか教えてほしい」
そう話すと、目の前の少女はただ笑った。
『私、最期まで駄目な子だったんです。どうしてと言われれば分からないけど、あいつらに傷ひとつつけられなかった…」
それからゆっくり少女はどんな目に遭ってきたのか話しはじめる。
その内容はあまりにも酷く、途中で何度も目を逸してしまいそうになった。
ただ、彼女はやはり心に深い傷を負っていることは間違いない。
「それを全部、なかったことにされた?」
『…相手はかなりのお金持ちで、学校相手に寄付をしている家だって聞いています。
私は権力も財力もなくて、自分の身ひとつで勝負するしかなかったんです。…ただ、誰でもいいからあいつらに報いを受けさせてほしかったのかもしれません」
自分のことは誰にも気づいてもらえなくてもいいから、とにかく相手の酷いおこないに気づいてほしかったと、彼女はそう言った。
「他にも被害者がいるの?」
『今もターゲットにされている子が複数います。私と違って、可愛くて、頭がよくて…。
それなのに、最近は勉強するのもやめちゃってるんです。あの場所によく来るから、いつか私が視えてしまうんじゃないかとはらはらしていました」
「…そうか」
友人同士、だったのかもしれない。
彼女の選択を否定する権利なんて誰にもないし、当然そんなことをする気にもならなかった。
「君も、成績が下がったりしたの?」
『しました。もう全部が嫌になって…そのとき親から言われたんです。『出来損ないなんて生むんじゃなかった』って」
それが限界に達した人間にかけられる言葉なら、絶望するしかない。
彼女は助けを求められず、ぎりぎりのところで頑張って、頑張って、頑張り続けて…そうして最期の日を選んだのだ。
『私が実行した日、リーダー格の誕生日の前日だったんです。こうすれば笑顔で祝えなくなる、全部壊れるんじゃないかって…。
だけど、相手が心を持っていないことをすっかり忘れていました」
彼女は笑って話しているが、全然笑えない。
必死に生き抜いた結果がそれだなんて、あまりにも哀しすぎる。
「苦しかっただろ?大変だったね」
『…劣等生の私のお願い、聞いてもらえませんか?」
「内容によるけど、俺にできることなら」
『実は、あの屋上の片隅にUSBメモリーを隠しておいたんです。でも、あの場所に近づいたら毎回飛んでしまって…探しきれてないんです」
少女は決意したように顔をあげた。
『お願いします。封筒を見つけて、遠くにいる友人に送ってほしい…。あとは彼女に任せたいんです。
1番の被害者だったあの子には、あのデータを好きにする権利があると思うから」
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