カルム

黒蝶

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新たな事案

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『ここ最近、このあたりで彷徨っている少女がいると情報が入りました』
「そうか…」
やはりそうなのか。
あのあと俺はすぐ家に帰り、スクラップ帳をひたすら確認している。
『あなたは何を調べているんですか?』
「今日来たお客さんの名前、なんだか見覚えがあるんだ」
偶然かもしれないし、本人に確認することもできない。
だがもし、ここに名前があったら…できればそんなことを考えたくはなかったが、最悪を想定しておかないと心が折れそうだ。
「…やっぱり」
『どうかしましたか?』
「その彷徨ってる少女ってこの子じゃない?」
『肩まである髪にワンポイントがついた紺の靴下…そして、バッジのようなものがついた制服。間違いないと思います』
まさかここにきてこんなことになるとは思っていなかった。
できればただの客だと思いたかったが、こうなるとそういうわけにもいかない。
「…小林清香、今日本屋が閉店してから来てたんだ」
『何かされましたか?』
「いや、普通に本を買いに来ただけだった。引換券を持ってたし、本人で間違いないと思う。ただ、今回も死者だとは思ってなかったな…」
『あなたでは見抜くのが難しいでしょう』
「そうだね」
こんな酷い死に方をしても、あんな綺麗な姿のままいられることがあるのか。
最近は流行っている噂も耳にしないので、彼女が怪異になった可能性は極めて低い。
だが、それならどうして町に現れ、本を取りに来たのか。
『彼女は何故死んだのでしょうか』
「…これは俺の憶測なんだけど、いじめによるものなんじゃないかな?
暗くてよく見えなかったけど…あの子の手首、傷だらけだったんだ」
『それならもっと大々的に取りあげられているはずでは?』
「遺族の意向、学校の隠蔽、加害者からの何らかの圧力…可能性は色々考えられる」
人間というものはとにかく残酷だ。
特に、視えない人間に2度殺される気持ちは理解できないだろう。
それがどれだけの苦痛を伴うのか、全く理解できていない。
…俺にはなんとなく経験があるから分かる。
『どうするんですか?』
「このまま放っておくわけにはいかない。ただ、具体的にどうするかはまだ考えてないんだ。
…早くしないと戻れなくなるかもしれない。そうなる前に対処したいとは思ってるよ」
『死んだものの未練があるなんて、人間というものは本当に不思議ですね』
「苦しみが限界に達したら、そんなことを考える余裕さえなくなる。…そういう相手を何度も見てきただろう?」
瑠璃は一言、そうですねと呟いた。
相手を困らせるということはないと思うが、何に困っているのかを知りたい。
力になれるかどうかなんて聞いてみないと分からないけど、何もせずいるのが1番嫌だった。
「明日からもう少し調査してみる。俺にできることは限られてるけど、誰かが何か知ってるかもしれない」
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