カルム

黒蝶

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ひきこさん

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『そうですか。少女だったはずの噂が女性というものに…』
帰り道、送っていくと言ってくれた先輩たちに断りをいれて瑠璃に聞いた話を説明していく。
「まさかそんなことになってるとは思ってなかったから、流石にちょっと驚いた」
『その部分が変化したからこそ、あの妖が助けてほしいと話していた夕という女性がひきこさんになったんですね』
「そういうことでいいと思う」
まだ自分の中でもいまひとつまとまっていない。
ただひとつ分かったのは、噂が昔とは少し違った形で流れていることだ。
傘をさして歩くその少女は昔いじめられて自ら命を絶った亡霊で、今でも友だちがほしくて相手を襲っている…そんな話だった。
それの少女の部分が女性に変化したことに何か意味があるのか、或いは…考えすぎて頭がパンクしそうだ。
『こんな夜中まで働いているのか』
「俺はあんまり積極的に人間関係を構築したいと思ってないから、夜間の本屋で仕事をしているんだ。
だからこの時間になることは多いし、仕事に出ていく時間も普通の人たちとは違う」
俺は、人間社会に溶けこむのを諦めた。
視えている世界を信じたくて、けどそれは決して誰とも交わることがないものだ。
…それに、生きている人間がそうじゃないかも区別がつかないのに普通の人間と関わっていくなんて不可能に近い。
「それより、君が探している人が取り込まれたであろう噂について聞いてきたよ。…その人は傘を持ってたんじゃない?」
『ああ。無地の傘だが使い心地がいいからといつも持っていた』
「それならきっと間違いない。彼女は次の雨の日、夕方になると現れる」
日付の指定は特になかったはずなので、彼女が完全に噂になっていなければそこで話をするしかない。
『話ができるのか?』
「君は話さなかったのか?」
『…彼女の目に写ったときのみ語らう仲だった。俺は人間の噂だの怪異だのについて詳しくないのだ。
それに、おまえの体を借りなければあの森から出ることすら叶わなかった』
彼が何故体を貸せと言ったのか、漸く理解した。
誰かを苦しめたかったわけではなく、単純に相手を探す為に動かないといけないから視えて動ける相手を見つける必要があったのだ。
「君はいい人だね」
『おまえを乗っ取ろうとしたのにか?』
「森から出る為に必要だったなら仕方ない。俺だって、もしも彼女が来なくなって君と同じ立場なら、同じことをするだろうから」
『…そうか』
瑠璃は少し離れた場所にとまったまま、こちらに視線を向けている。
何を考えているのかまでは分からないが、明日になればすぐ動けるだろう。
「明日、俺の体に入ればいい。夕方になったらひきこさんの噂を追う」
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