72 / 163
ひきこさん
しおりを挟む
『そうですか。少女だったはずの噂が女性というものに…』
帰り道、送っていくと言ってくれた先輩たちに断りをいれて瑠璃に聞いた話を説明していく。
「まさかそんなことになってるとは思ってなかったから、流石にちょっと驚いた」
『その部分が変化したからこそ、あの妖が助けてほしいと話していた夕という女性がひきこさんになったんですね』
「そういうことでいいと思う」
まだ自分の中でもいまひとつまとまっていない。
ただひとつ分かったのは、噂が昔とは少し違った形で流れていることだ。
傘をさして歩くその少女は昔いじめられて自ら命を絶った亡霊で、今でも友だちがほしくて相手を襲っている…そんな話だった。
それの少女の部分が女性に変化したことに何か意味があるのか、或いは…考えすぎて頭がパンクしそうだ。
『こんな夜中まで働いているのか』
「俺はあんまり積極的に人間関係を構築したいと思ってないから、夜間の本屋で仕事をしているんだ。
だからこの時間になることは多いし、仕事に出ていく時間も普通の人たちとは違う」
俺は、人間社会に溶けこむのを諦めた。
視えている世界を信じたくて、けどそれは決して誰とも交わることがないものだ。
…それに、生きている人間がそうじゃないかも区別がつかないのに普通の人間と関わっていくなんて不可能に近い。
「それより、君が探している人が取り込まれたであろう噂について聞いてきたよ。…その人は傘を持ってたんじゃない?」
『ああ。無地の傘だが使い心地がいいからといつも持っていた』
「それならきっと間違いない。彼女は次の雨の日、夕方になると現れる」
日付の指定は特になかったはずなので、彼女が完全に噂になっていなければそこで話をするしかない。
『話ができるのか?』
「君は話さなかったのか?」
『…彼女の目に写ったときのみ語らう仲だった。俺は人間の噂だの怪異だのについて詳しくないのだ。
それに、おまえの体を借りなければあの森から出ることすら叶わなかった』
彼が何故体を貸せと言ったのか、漸く理解した。
誰かを苦しめたかったわけではなく、単純に相手を探す為に動かないといけないから視えて動ける相手を見つける必要があったのだ。
「君はいい人だね」
『おまえを乗っ取ろうとしたのにか?』
「森から出る為に必要だったなら仕方ない。俺だって、もしも彼女が来なくなって君と同じ立場なら、同じことをするだろうから」
『…そうか』
瑠璃は少し離れた場所にとまったまま、こちらに視線を向けている。
何を考えているのかまでは分からないが、明日になればすぐ動けるだろう。
「明日、俺の体に入ればいい。夕方になったらひきこさんの噂を追う」
帰り道、送っていくと言ってくれた先輩たちに断りをいれて瑠璃に聞いた話を説明していく。
「まさかそんなことになってるとは思ってなかったから、流石にちょっと驚いた」
『その部分が変化したからこそ、あの妖が助けてほしいと話していた夕という女性がひきこさんになったんですね』
「そういうことでいいと思う」
まだ自分の中でもいまひとつまとまっていない。
ただひとつ分かったのは、噂が昔とは少し違った形で流れていることだ。
傘をさして歩くその少女は昔いじめられて自ら命を絶った亡霊で、今でも友だちがほしくて相手を襲っている…そんな話だった。
それの少女の部分が女性に変化したことに何か意味があるのか、或いは…考えすぎて頭がパンクしそうだ。
『こんな夜中まで働いているのか』
「俺はあんまり積極的に人間関係を構築したいと思ってないから、夜間の本屋で仕事をしているんだ。
だからこの時間になることは多いし、仕事に出ていく時間も普通の人たちとは違う」
俺は、人間社会に溶けこむのを諦めた。
視えている世界を信じたくて、けどそれは決して誰とも交わることがないものだ。
…それに、生きている人間がそうじゃないかも区別がつかないのに普通の人間と関わっていくなんて不可能に近い。
「それより、君が探している人が取り込まれたであろう噂について聞いてきたよ。…その人は傘を持ってたんじゃない?」
『ああ。無地の傘だが使い心地がいいからといつも持っていた』
「それならきっと間違いない。彼女は次の雨の日、夕方になると現れる」
日付の指定は特になかったはずなので、彼女が完全に噂になっていなければそこで話をするしかない。
『話ができるのか?』
「君は話さなかったのか?」
『…彼女の目に写ったときのみ語らう仲だった。俺は人間の噂だの怪異だのについて詳しくないのだ。
それに、おまえの体を借りなければあの森から出ることすら叶わなかった』
彼が何故体を貸せと言ったのか、漸く理解した。
誰かを苦しめたかったわけではなく、単純に相手を探す為に動かないといけないから視えて動ける相手を見つける必要があったのだ。
「君はいい人だね」
『おまえを乗っ取ろうとしたのにか?』
「森から出る為に必要だったなら仕方ない。俺だって、もしも彼女が来なくなって君と同じ立場なら、同じことをするだろうから」
『…そうか』
瑠璃は少し離れた場所にとまったまま、こちらに視線を向けている。
何を考えているのかまでは分からないが、明日になればすぐ動けるだろう。
「明日、俺の体に入ればいい。夕方になったらひきこさんの噂を追う」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

祓い屋と妖狐(ただし子狐)
朏猫(ミカヅキネコ)
キャラ文芸
僕はどうしてもあれがほしかった。だからお賽銭を貯めて人に化けて、できたばかりの百貨店にやって来た。そうしてお目当てのあれを探していたんだけれど、僕を妖狐だと見破った男に捕まってしまい――。僕を捕まえた人間は祓い屋をしていた。僕はいなり寿司を食べさせてくれる代わりに、双子の狛犬や烏と一緒に使い魔をしている。そうして今日も僕は祓い屋の懐に潜り込んでいなり寿司を買いに……もとい、妖を祓いに行くんだ。
美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜
星名柚花
キャラ文芸
夏祭りの夜、あやかしの里に迷い込んだ美緒を助けてくれたのは、小さな子狐だった。
「いつかきっとまた会おうね」
約束は果たされることなく月日は過ぎ、高校生になった美緒のもとに現れたのは子狐の兄・朝陽。
実は子狐は一年前に亡くなっていた。
朝陽は弟が果たせなかった望みを叶えるために、人の世界で暮らすあやかしの手助けをしたいのだという。
美緒は朝陽に協力を申し出、あやかしたちと関わり合っていくことになり…?

誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~
平尾正和/ほーち
ファンタジー
引きこもりニート山岡勝介は、しょーもないバチ当たり行為が原因で異世界に飛ばされ、その世界を救うことを義務付けられる。罰として異世界勇者的な人外チートはないものの、死んだらステータスを維持したままスタート地点(セーブポイント)からやり直しとなる”死に戻り”と、異世界の住人には使えないステータス機能、成長チートとも呼べる成長補正を駆使し、世界を救うため、ポンコツ貧乳エルフとともにマイペースで冒険する。
※『死に戻り』と『成長チート』で異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~から改題しました

あやかし居酒屋「酔」
碧
キャラ文芸
|其処《そこ》は人に似て、人とは異なる者たちが住まう世界。ある日、気づくと|其処《そこ》にいた。
“綾”という名前以外、自身の記憶を全て失くして。記憶も、|還《かえ》る場所も失くした綾を鬼の統領・|羅刹《らせつ》は「異界の迷い人」とそう呼んだ。恐ろし気な肩書と裏腹に面倒見のいい羅刹に保護され、なんだかんだですっかり世界に馴染んだ綾は店をはじめた。その名も あやかし居酒屋「|酔《すい》」。個性豊かでギャップ強めのあやかしたち相手に今日も綾は料理を振る舞う。◆料理はおつまみ、ガッツリごはん系メイン。繋がりのある話もありますが、単体でもサクっと読めるのでお好きなメニュー部分だけでもお読み頂けます!ひとまず完結です。……当初の予定まで書ききったのですが、肉祭りや女子会も書きたいのでストックができればいつか復活する、かも?(未定)です。

白い結婚をカラフルな虹で彩りましょう。
ぽんぽこ狸
恋愛
ハルメンサーラ伯爵令嬢のクリスタは、婚約をしていたマティアスと急遽結婚することになった。
なぜかといえば、伯爵家はひどい経済難を抱えており、八歳の子供であるクリスタの事もいよいよ養育できなくなったからである。
上の姉も少し前に同じ年の婚約者と別れて、すぐに結婚できる父と同じぐらいの年齢の男の元へと連れていかれた。
「結婚したからにはすべてを旦那様にお任せして、妻の役目を果たし堪えなければなりません」母はクリスタにそう言いつける。
元気に返事をするけれど、幼いクリスタには具体的に何をされるかということはわからない。
しかし”妻の役目を果たせ”とその言葉はクリスタの中にしかと刻まれたのだった。そして幼妻となりクリスタは婚約者のマティアスと生活を始める。
そんな中、二人の結婚は白い結婚だという言葉を侍女から聞いてしまい……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる