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重い体
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『…八尋』
「瑠璃…?俺は、何を、」
ぼんやりした意識のなか、無理のない範囲で頭を働かせる。
たしか硝子の森に調査に向かって、それから地面から腕が生えてきて…。
「そうか、だから体が重いのか」
『あなたに憑いたものを祓おうとしたのですが、余程意志が強いのか切り離せませんでした』
「ごめん。完全に油断した俺の責任だ。それにしても、どうやって家まで帰ってきたのか全然思い出せない…。もしかして、無意識のうちに歩いてた?」
『やはり意識がなかったんですね』
その一言が答えの全てだった。
「そうか…」
先程から頭が重いのもそれが原因だろう。
「困ったな、今日は仕事なのに…」
『その状態で行くつもりですか?』
「なんとかやってみるよ。こんなぎりぎりになって休んだら迷惑かけるだろうから」
瑠璃は少し不安げに瞳を揺らしたが、やがてため息をひとつ吐いて俺の肩に乗った。
『仕方ないので今夜はこのまま書店の中でもついています』
「ごめん。ありがとう」
休むように言われるのかと思ったらそんな気遣いを感じられる答えで、少し意外に感じる。
勿論、そんなことを本人には言わなかった。
夕飯を食べているだけなはずなのに、とてつもなく息苦しい。
体の調子が悪いわけではないはずだが、とにかく体が鉛のように重く感じる。
『本当に行くんですか?』
「うん。古い本も置いてあるだろうから、少し借りて読もうと思う」
もしかすると、何か参考になることが書かれているかもしれない。
収穫が得られなかったとしても、なんだか無性に本が読みたい気分だ。
…我ながら、最近肉体労働が多いからかもしれない。
「八尋君、こんばんは」
「あ…こんばんは」
まずい。今1番会ってはいけないかもしれない人物に早速出くわした。
中津先輩はこちらをじっと見つめ、ひそひそと小声で囁く。
「…困りごとがあるなら後でつきあって」
「え?」
「僕、丁度コンビニスイーツを買いたかったんだ」
「分かりました」
やっぱり分かる人には分かってしまうらしい。
若干戸惑いもあるものの、今回は頼らせてもらうしかないだろう。
『俺は頼みさえ聞いてくれれば出ていく。だが、他の人間に話すつもりなら容赦しない』
頭のなかで声がしたかと思うと、途端に目眩が襲ってくる。
自分が自分ではないような感覚というのは、こういうことをいうのかもしれない。
「八尋君?顔色悪いけど大丈夫?」
「……はい」
心配しないでほしいと伝えたかったのに、そんな冷たい言葉が口から勝手に漏れ出てしまう。
一瞬意識が薄れたものの、なんとか頭を働かせた。
『八尋』
「ごめん、俺は平気だから誰にも言わないで。それに、他言無用だって…頼みを聞いたら出ていくって」
『今は信じるしかなさそうですね』
瑠璃たちに申し訳なく思いながら、体を引きずってなんとか仕事を終える。
先輩には用事があるからと頭を下げ、そのまま本屋を後にした。
「瑠璃…?俺は、何を、」
ぼんやりした意識のなか、無理のない範囲で頭を働かせる。
たしか硝子の森に調査に向かって、それから地面から腕が生えてきて…。
「そうか、だから体が重いのか」
『あなたに憑いたものを祓おうとしたのですが、余程意志が強いのか切り離せませんでした』
「ごめん。完全に油断した俺の責任だ。それにしても、どうやって家まで帰ってきたのか全然思い出せない…。もしかして、無意識のうちに歩いてた?」
『やはり意識がなかったんですね』
その一言が答えの全てだった。
「そうか…」
先程から頭が重いのもそれが原因だろう。
「困ったな、今日は仕事なのに…」
『その状態で行くつもりですか?』
「なんとかやってみるよ。こんなぎりぎりになって休んだら迷惑かけるだろうから」
瑠璃は少し不安げに瞳を揺らしたが、やがてため息をひとつ吐いて俺の肩に乗った。
『仕方ないので今夜はこのまま書店の中でもついています』
「ごめん。ありがとう」
休むように言われるのかと思ったらそんな気遣いを感じられる答えで、少し意外に感じる。
勿論、そんなことを本人には言わなかった。
夕飯を食べているだけなはずなのに、とてつもなく息苦しい。
体の調子が悪いわけではないはずだが、とにかく体が鉛のように重く感じる。
『本当に行くんですか?』
「うん。古い本も置いてあるだろうから、少し借りて読もうと思う」
もしかすると、何か参考になることが書かれているかもしれない。
収穫が得られなかったとしても、なんだか無性に本が読みたい気分だ。
…我ながら、最近肉体労働が多いからかもしれない。
「八尋君、こんばんは」
「あ…こんばんは」
まずい。今1番会ってはいけないかもしれない人物に早速出くわした。
中津先輩はこちらをじっと見つめ、ひそひそと小声で囁く。
「…困りごとがあるなら後でつきあって」
「え?」
「僕、丁度コンビニスイーツを買いたかったんだ」
「分かりました」
やっぱり分かる人には分かってしまうらしい。
若干戸惑いもあるものの、今回は頼らせてもらうしかないだろう。
『俺は頼みさえ聞いてくれれば出ていく。だが、他の人間に話すつもりなら容赦しない』
頭のなかで声がしたかと思うと、途端に目眩が襲ってくる。
自分が自分ではないような感覚というのは、こういうことをいうのかもしれない。
「八尋君?顔色悪いけど大丈夫?」
「……はい」
心配しないでほしいと伝えたかったのに、そんな冷たい言葉が口から勝手に漏れ出てしまう。
一瞬意識が薄れたものの、なんとか頭を働かせた。
『八尋』
「ごめん、俺は平気だから誰にも言わないで。それに、他言無用だって…頼みを聞いたら出ていくって」
『今は信じるしかなさそうですね』
瑠璃たちに申し訳なく思いながら、体を引きずってなんとか仕事を終える。
先輩には用事があるからと頭を下げ、そのまま本屋を後にした。
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