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硝子の森
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目を開けると、いつもどおりの天井が広がっている。
あれからどうやって帰り着いたのかいまひとつ思い出せない。
『漸く起きましたか』
「おはよう。ごめん、そんなに寝てた?」
『そういうわけではありませんが、疲れているんだなと思いまして…』
「そうか」
確かにいつもより頭がすっきりしているような気がする。
いつもなら起きてすぐポットのお湯を沸かすのだが、今日は少し違う。
『スクラップ帳、ですか?』
「うん。新聞記事を切り抜いたまますっかり忘れてたから」
今回は行方不明事件を集めたものではなく、ちょっとした怪奇現象についての投稿コーナーをまとめてある方を開く。
『気になるものがあったんですか?』
「なんとなくだけど、もしこれが本当なら放っておけないなっていうものがあったんだ」
【硝子の森でずっと人が唸るような声が聞こえてきます。誰か謎を解明してください】
一見すると風の音だろうとつっこまれる話ではあるだろう。
だが、もしこれが本当に人間または人間ではない人たちの声だとしたら…そう思うと、自然とこの記事に目がいってしまっていた。
『硝子の森?』
「昔は硝子細工を作る職人さんたちが住んでたらしい。だけど数年前、職人さんたちが場所を変えて営業を始めたから、今は誰もいないはずなんだ」
『それは少し気になりますね。ただ、この町は本当に廃墟が多いですね』
「普通の町と比べるとそうかもしれない」
数年前、よく通り道として使っていた森でもある。
だからこんなにも気になってしまうのだろうか。
白フードの男の話を聞いたせいか、最近は夢見も酷くなってしまった。
どうせ眠れないなら、今のうちに調べに行こう。
『寒くないですか?』
「俺は割りと平気かもしれない。慣れてるからかな」
『すごいですね』
「普通だと思うよ」
そのまま歩いていると、どこからか低い声がした。
瑠璃には聞こえなかったのか、そのまま真っ直ぐ飛んでいる。
『……くれ』
「え?」
『ちょっと手を貸してくれ』
「どこにいるんですか?」
『おまえ、俺の声が聞こえているのか』
思えば、それは答えてはいけないものだったのかもしれない。
『丁度いいもの、見つけた!』
「待ってくれ、話を…」
鞄に入ったお守りに手を伸ばす余裕もなく、その場に膝から崩れ落ちる。
真っ黒い何かが体を覆っていき、激しい目眩に襲われた。
『…八尋?』
倒れた音で気づいたのか、こちらに向かって飛んでくる瑠璃の姿が目に入る。
「瑠璃…ごめん」
『何を言っているんですか?』
「俺に近づかないで。…多分、何かに、憑かれた」
遠くて俺の名前を呼ぶ声が聞こえたが、それに答えることさえできない。
体が地面にたたきつけられるのを感じながら、意識はそこで途切れた。
あれからどうやって帰り着いたのかいまひとつ思い出せない。
『漸く起きましたか』
「おはよう。ごめん、そんなに寝てた?」
『そういうわけではありませんが、疲れているんだなと思いまして…』
「そうか」
確かにいつもより頭がすっきりしているような気がする。
いつもなら起きてすぐポットのお湯を沸かすのだが、今日は少し違う。
『スクラップ帳、ですか?』
「うん。新聞記事を切り抜いたまますっかり忘れてたから」
今回は行方不明事件を集めたものではなく、ちょっとした怪奇現象についての投稿コーナーをまとめてある方を開く。
『気になるものがあったんですか?』
「なんとなくだけど、もしこれが本当なら放っておけないなっていうものがあったんだ」
【硝子の森でずっと人が唸るような声が聞こえてきます。誰か謎を解明してください】
一見すると風の音だろうとつっこまれる話ではあるだろう。
だが、もしこれが本当に人間または人間ではない人たちの声だとしたら…そう思うと、自然とこの記事に目がいってしまっていた。
『硝子の森?』
「昔は硝子細工を作る職人さんたちが住んでたらしい。だけど数年前、職人さんたちが場所を変えて営業を始めたから、今は誰もいないはずなんだ」
『それは少し気になりますね。ただ、この町は本当に廃墟が多いですね』
「普通の町と比べるとそうかもしれない」
数年前、よく通り道として使っていた森でもある。
だからこんなにも気になってしまうのだろうか。
白フードの男の話を聞いたせいか、最近は夢見も酷くなってしまった。
どうせ眠れないなら、今のうちに調べに行こう。
『寒くないですか?』
「俺は割りと平気かもしれない。慣れてるからかな」
『すごいですね』
「普通だと思うよ」
そのまま歩いていると、どこからか低い声がした。
瑠璃には聞こえなかったのか、そのまま真っ直ぐ飛んでいる。
『……くれ』
「え?」
『ちょっと手を貸してくれ』
「どこにいるんですか?」
『おまえ、俺の声が聞こえているのか』
思えば、それは答えてはいけないものだったのかもしれない。
『丁度いいもの、見つけた!』
「待ってくれ、話を…」
鞄に入ったお守りに手を伸ばす余裕もなく、その場に膝から崩れ落ちる。
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「瑠璃…ごめん」
『何を言っているんですか?』
「俺に近づかないで。…多分、何かに、憑かれた」
遠くて俺の名前を呼ぶ声が聞こえたが、それに答えることさえできない。
体が地面にたたきつけられるのを感じながら、意識はそこで途切れた。
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