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「おはよう栞奈」
『この前の子は?』
「色々あったけど、なんとか成仏させられたよ」
『よかった…』
朝早くから報告しても問題ないか迷ったが、仕事があることを考えるとこの時間しか余裕がない。
「ごめん、ひとつ訊いてもいい?」
『…どうぞ』
「最近、夜陽炎の噂っていうのが流れてるみたいなんだけど…何か知らないか?」
『通りかかった人たちが、蝋燭がどうのと話していたのなら聞いた。だけど、どんなことをするのかまでは知らない』
「助かったよ。ありがとう」
別の怪異にまで情報が及んでいるということは、それほど広がりが早いということになる。
何か手を打たないとまずいことになるだろう。
帰り際、少し所用があるからと別行動していた瑠璃が飛んできた。
『噂について掴んできましたよ』
「ありがとう。何か収穫あった?」
『近くの住宅街に住んでいる人間たちによると、人々を陽炎のように拐ってそのまま自分と同じ姿にしてしまう…という話になっているようです。
出現時間はあなたから聞いていたとおりの午前3時、最近は肝試しに行く輩が増えているそうです』
「そうか…」
誰が流したにしろ、このままでは非常にまずい。
やはり放っておくことはできないが、それ以上に厄介なのが何人か本気で消えているだろうということだ。
『行方不明者として扱われないとなると、相手についての記憶は全て領域に入った時点でどの人間からも消されているのかもしれません』
「そうなると、何人消えたのか、本当はただの噂程度になっているのか分からないってことになる」
『本当に厄介ですね』
「どのみち調べに行かないと」
どこにでもいそうな亡霊だった彼にそんなことをさせるわけにはいかない。
寧ろ、誰も傷つけたくないと話していた彼に誰かを傷つけてほしくなかった。
『それではここで待っています』
「うん、また後で」
仕事先である本屋に入った瞬間、すぐに違和感を覚える。
今日バイトで一緒になるのは7人のはずだ。
それなのに、俺を合わせて7人しかいない。
「あの、店長」
「どうかしたかい?」
「笹田さん、今日は休みなんですか?」
「笹田さん…?そんな人いたっけ?」
その言葉に頭が真っ白になる。
「…すみません、俺の勘違いだったみたいです」
「もし具合が悪いようならすぐ言ってね」
「ありがとうございます」
そういえば、時々ここにやって来る常連さんたちと親しげに話していたのを見たことがある。
…まさか、肝試しに言った?
名前が欠けた出席簿に、誰も違和感すら感じていない風景…間違いなく影響が出ている。
笹田さんとはあまり話したことがなかったが、怪我をしているところに親切に声をかけてくれたことがあった。
バイトを辞めたなら、店長がはっきりそう言うはずだ。
本気で誰か分からないなんて、まるではじめから存在していなかったみたいじゃないか…。
そんな気持ちを抱えたままやる仕事は、いつもより集中できなかった。
『この前の子は?』
「色々あったけど、なんとか成仏させられたよ」
『よかった…』
朝早くから報告しても問題ないか迷ったが、仕事があることを考えるとこの時間しか余裕がない。
「ごめん、ひとつ訊いてもいい?」
『…どうぞ』
「最近、夜陽炎の噂っていうのが流れてるみたいなんだけど…何か知らないか?」
『通りかかった人たちが、蝋燭がどうのと話していたのなら聞いた。だけど、どんなことをするのかまでは知らない』
「助かったよ。ありがとう」
別の怪異にまで情報が及んでいるということは、それほど広がりが早いということになる。
何か手を打たないとまずいことになるだろう。
帰り際、少し所用があるからと別行動していた瑠璃が飛んできた。
『噂について掴んできましたよ』
「ありがとう。何か収穫あった?」
『近くの住宅街に住んでいる人間たちによると、人々を陽炎のように拐ってそのまま自分と同じ姿にしてしまう…という話になっているようです。
出現時間はあなたから聞いていたとおりの午前3時、最近は肝試しに行く輩が増えているそうです』
「そうか…」
誰が流したにしろ、このままでは非常にまずい。
やはり放っておくことはできないが、それ以上に厄介なのが何人か本気で消えているだろうということだ。
『行方不明者として扱われないとなると、相手についての記憶は全て領域に入った時点でどの人間からも消されているのかもしれません』
「そうなると、何人消えたのか、本当はただの噂程度になっているのか分からないってことになる」
『本当に厄介ですね』
「どのみち調べに行かないと」
どこにでもいそうな亡霊だった彼にそんなことをさせるわけにはいかない。
寧ろ、誰も傷つけたくないと話していた彼に誰かを傷つけてほしくなかった。
『それではここで待っています』
「うん、また後で」
仕事先である本屋に入った瞬間、すぐに違和感を覚える。
今日バイトで一緒になるのは7人のはずだ。
それなのに、俺を合わせて7人しかいない。
「あの、店長」
「どうかしたかい?」
「笹田さん、今日は休みなんですか?」
「笹田さん…?そんな人いたっけ?」
その言葉に頭が真っ白になる。
「…すみません、俺の勘違いだったみたいです」
「もし具合が悪いようならすぐ言ってね」
「ありがとうございます」
そういえば、時々ここにやって来る常連さんたちと親しげに話していたのを見たことがある。
…まさか、肝試しに言った?
名前が欠けた出席簿に、誰も違和感すら感じていない風景…間違いなく影響が出ている。
笹田さんとはあまり話したことがなかったが、怪我をしているところに親切に声をかけてくれたことがあった。
バイトを辞めたなら、店長がはっきりそう言うはずだ。
本気で誰か分からないなんて、まるではじめから存在していなかったみたいじゃないか…。
そんな気持ちを抱えたままやる仕事は、いつもより集中できなかった。
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