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はこならべ
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「…じゃあ、俺の番ですね」
さらさらと点と点を結び、自分のができることなんて一瞬で終わる。
『次はここに線を引いて」
「分かった。ありがとう」
「……そっちの番」
「はい」
蒼汰君の助言どおりにやってみると、小さな箱ができあがる。
このゲームは交互に点と点を結ぶように線を1本ずつ引いていき、四角を作っていくものだ。
そして、四角を完成させる度続けて線を1本追加で引くことができる。
『こっちも箱ができるよ!」
「…そうだね、箱でいっぱいだ」
黒で塗り潰していき、1本、また1本と引いては塗るを繰り返す。
このままいけば勝てるかもしれないと思っていたが、一瞬気を抜いてしまったのがいけなかった。
『お兄さん、そこ駄目…」
「あ…すみません、これで俺の番は終わりです」
1列ずれた場所に線を入れてしまい、そのまま少年の番になって次のターンがくることなく終わった。
四角の数を数えながら、これはもう駄目かもしれないと俯きそうになる。
『お兄さん…」
「負けちゃったらごめん」
「……だ」
「え?」
「俺の負けだ。約束どおりあなたの話を聞くよ」
できあがった四角の数を数えると同数なはずなのに、目の前にいる少年はそう呟いた。
「引き分けなら、どちらの勝ちとも言えないんじゃ…」
「この四角のこと、箱って呼んだでしょ?蒼汰は沢山箱を並べる遊びだって言ってた。
…だから、俺に視えていないものがそこにあるんだろうと信じてみることにした」
「ありがとうございます」
全部蒼汰君のおかげだ。
もし独りで挑んでいたら、確実に帰ってくれと言われて終わりだっただろう。
「場所を変えたい。我儘ばっかりで申し訳ないけど、ここで長居したら迷惑になるだろうから」
「そうですね。そうしましょう」
そうしてやってきたのは、先程の公園だ。
どこから話せばいいか迷っていると、蒼汰君が泣き出しそうな顔で話しはじめる。
『僕はお兄ちゃんに謝りたかったんだ。あの日も僕が我儘を言ったから、新しいお母さんを困らせて…それで、ふたりで外で遊ぼうってなったから」
「蒼汰君が謝っています。自分が我儘を言ったせいで新しいお母さんを困らせた、ふたりで外で遊ぼうということになったからって…」
「それは蒼汰のせいじゃない。それから、あの人は新しいお母さんじゃない」
「陽太さん、でいいのかな…俺にはそのあたりが分からないんだけど、新しいお母さんってどういうことなんですか?」
訊いてしまっていいのか分からなかったが、ここで話しておかないといけないような気がした。
陽太さんはため息を吐き、ゆっくり話しはじめる。
「蒼汰が言ってる新しいお母さんっていうのは、新しいお手伝いさんのことだと思う。俺の家は母が病気で死んで父子家庭だから、できる限りのことはしたいってお手伝いさんを雇ってたんだ。
だけど、蒼汰と1番仲がいいお手伝いさんが少し仕事を休むことになって…それで代わりに来た人のことを新しいお母さんって呼んでた」
「そういう経緯があったんですね」
複雑な思いを抱えながら、なんとか話についていく。
蒼汰君は少し苦しそうに息を吐いた。
「蒼汰君…?」
さらさらと点と点を結び、自分のができることなんて一瞬で終わる。
『次はここに線を引いて」
「分かった。ありがとう」
「……そっちの番」
「はい」
蒼汰君の助言どおりにやってみると、小さな箱ができあがる。
このゲームは交互に点と点を結ぶように線を1本ずつ引いていき、四角を作っていくものだ。
そして、四角を完成させる度続けて線を1本追加で引くことができる。
『こっちも箱ができるよ!」
「…そうだね、箱でいっぱいだ」
黒で塗り潰していき、1本、また1本と引いては塗るを繰り返す。
このままいけば勝てるかもしれないと思っていたが、一瞬気を抜いてしまったのがいけなかった。
『お兄さん、そこ駄目…」
「あ…すみません、これで俺の番は終わりです」
1列ずれた場所に線を入れてしまい、そのまま少年の番になって次のターンがくることなく終わった。
四角の数を数えながら、これはもう駄目かもしれないと俯きそうになる。
『お兄さん…」
「負けちゃったらごめん」
「……だ」
「え?」
「俺の負けだ。約束どおりあなたの話を聞くよ」
できあがった四角の数を数えると同数なはずなのに、目の前にいる少年はそう呟いた。
「引き分けなら、どちらの勝ちとも言えないんじゃ…」
「この四角のこと、箱って呼んだでしょ?蒼汰は沢山箱を並べる遊びだって言ってた。
…だから、俺に視えていないものがそこにあるんだろうと信じてみることにした」
「ありがとうございます」
全部蒼汰君のおかげだ。
もし独りで挑んでいたら、確実に帰ってくれと言われて終わりだっただろう。
「場所を変えたい。我儘ばっかりで申し訳ないけど、ここで長居したら迷惑になるだろうから」
「そうですね。そうしましょう」
そうしてやってきたのは、先程の公園だ。
どこから話せばいいか迷っていると、蒼汰君が泣き出しそうな顔で話しはじめる。
『僕はお兄ちゃんに謝りたかったんだ。あの日も僕が我儘を言ったから、新しいお母さんを困らせて…それで、ふたりで外で遊ぼうってなったから」
「蒼汰君が謝っています。自分が我儘を言ったせいで新しいお母さんを困らせた、ふたりで外で遊ぼうということになったからって…」
「それは蒼汰のせいじゃない。それから、あの人は新しいお母さんじゃない」
「陽太さん、でいいのかな…俺にはそのあたりが分からないんだけど、新しいお母さんってどういうことなんですか?」
訊いてしまっていいのか分からなかったが、ここで話しておかないといけないような気がした。
陽太さんはため息を吐き、ゆっくり話しはじめる。
「蒼汰が言ってる新しいお母さんっていうのは、新しいお手伝いさんのことだと思う。俺の家は母が病気で死んで父子家庭だから、できる限りのことはしたいってお手伝いさんを雇ってたんだ。
だけど、蒼汰と1番仲がいいお手伝いさんが少し仕事を休むことになって…それで代わりに来た人のことを新しいお母さんって呼んでた」
「そういう経緯があったんですね」
複雑な思いを抱えながら、なんとか話についていく。
蒼汰君は少し苦しそうに息を吐いた。
「蒼汰君…?」
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