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ふゆのはなし
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「お疲れ様です」
怪我は思った以上に深刻で、病院でこっぴどく叱られた。
何をすればこんな怪我になるのかとため息を吐かれ、処置中は医者のうんざりした表情が目に入る。
…それもあって、病院はあまり好きになれない。
「八尋君」
「先輩方、お疲れ様です」
山岸先輩から鋭い視線が飛んできたような気がするが、気のせいだと思うことにしよう。
『八尋』
「瑠璃…もしかして、また待っててくれたのか?」
『それだけ怪我を負っていれば心配ですから』
たしかに最近は怪我をすることが増えた。
危険なことが増えたからなのか、単純に俺の手際が悪いだけなのか…どちらにせよ、もう少し気をつけた方がよさそうだ。
「少し栞奈のところに行ってみるよ」
『そういえば、紙飛行機が飛んできていましたね』
「うん。だからちょっと気になるんだ」
路面があまり凍っていない今なら、自転車で向かうのも不可能ではないだろう。
思いきりペダルを漕ぎだすと、なんだか懐かしいことを思い出した。
【雪遊びなんて久しぶりにしたわ。つきあってくれてありがとう】
【ううん。僕、初めてだったから】
【そう…それにしても、八尋は怪我が多いのね。危ないから、いいものをあげる。これがあれば、少しは怪我を減らせるでしょうから】
あの人にはもう会えないのに、最近そんな言葉ばかりを思い出してしまう。
あれからずっとお守りにはお世話になりっぱなしで、これがなかったらきっと今まで俺は生きてこられていない。
…そういえば、あの日もこんな天気だった。
【どうしてあの人の話を聞いてくれなかったの?僕のことを護ってくれるのはあの人しかいなかったのに…あの人は何も悪いことなんてしてないのに!】
【存在自体が悪だったから、かな?あんな化け物に魅入られて、君は可哀想な子なんだね】
俺はあの人がいたから頑張れたのに、どうしてあのとき手を離してしまったんだろう。
『……ろ』
逃げろって最期まで俺のことを気にしていたのに、どうして。
『八尋』
「…」
僕がいなければ、あの人は今でも元気に──
『八尋!』
「…ああ、ごめん」
ぼんやりしていて、全く話を聞いていなかった。
瑠璃の方をじっと見つめると、ふっとため息を吐かれる。
『あんまりぼんやりしていたら事故をおこしますよ』
「そうだね」
『何か気になることでもあるんですか?』
「無い訳じゃないけど、今は確証がないからもう少し待って」
『…分かりました』
気を悪くさせたかもしれないが、今の俺には想答えるのでせいいっぱいだった。
「こんばんは」
『突然呼び出してごめんなさい』
「どうかしたの?」
栞奈は困り果てた表情でこちらを見つめた。
『私は人との接し方が分からない』
「うん…?」
『この子の力になってあげてほしい』
彼女の後ろから出てきたのは小学生くらいの男の子で、彼は無邪気な顔で懇願した。
『お願い、カミキリさん。僕の記憶をお兄ちゃんから消して!そうしたらきっと、お兄ちゃんはもう泣かなくなるから…」
この少年は本気で言っている。
だが、何故そんなことを願っているのだろう。
怪我は思った以上に深刻で、病院でこっぴどく叱られた。
何をすればこんな怪我になるのかとため息を吐かれ、処置中は医者のうんざりした表情が目に入る。
…それもあって、病院はあまり好きになれない。
「八尋君」
「先輩方、お疲れ様です」
山岸先輩から鋭い視線が飛んできたような気がするが、気のせいだと思うことにしよう。
『八尋』
「瑠璃…もしかして、また待っててくれたのか?」
『それだけ怪我を負っていれば心配ですから』
たしかに最近は怪我をすることが増えた。
危険なことが増えたからなのか、単純に俺の手際が悪いだけなのか…どちらにせよ、もう少し気をつけた方がよさそうだ。
「少し栞奈のところに行ってみるよ」
『そういえば、紙飛行機が飛んできていましたね』
「うん。だからちょっと気になるんだ」
路面があまり凍っていない今なら、自転車で向かうのも不可能ではないだろう。
思いきりペダルを漕ぎだすと、なんだか懐かしいことを思い出した。
【雪遊びなんて久しぶりにしたわ。つきあってくれてありがとう】
【ううん。僕、初めてだったから】
【そう…それにしても、八尋は怪我が多いのね。危ないから、いいものをあげる。これがあれば、少しは怪我を減らせるでしょうから】
あの人にはもう会えないのに、最近そんな言葉ばかりを思い出してしまう。
あれからずっとお守りにはお世話になりっぱなしで、これがなかったらきっと今まで俺は生きてこられていない。
…そういえば、あの日もこんな天気だった。
【どうしてあの人の話を聞いてくれなかったの?僕のことを護ってくれるのはあの人しかいなかったのに…あの人は何も悪いことなんてしてないのに!】
【存在自体が悪だったから、かな?あんな化け物に魅入られて、君は可哀想な子なんだね】
俺はあの人がいたから頑張れたのに、どうしてあのとき手を離してしまったんだろう。
『……ろ』
逃げろって最期まで俺のことを気にしていたのに、どうして。
『八尋』
「…」
僕がいなければ、あの人は今でも元気に──
『八尋!』
「…ああ、ごめん」
ぼんやりしていて、全く話を聞いていなかった。
瑠璃の方をじっと見つめると、ふっとため息を吐かれる。
『あんまりぼんやりしていたら事故をおこしますよ』
「そうだね」
『何か気になることでもあるんですか?』
「無い訳じゃないけど、今は確証がないからもう少し待って」
『…分かりました』
気を悪くさせたかもしれないが、今の俺には想答えるのでせいいっぱいだった。
「こんばんは」
『突然呼び出してごめんなさい』
「どうかしたの?」
栞奈は困り果てた表情でこちらを見つめた。
『私は人との接し方が分からない』
「うん…?」
『この子の力になってあげてほしい』
彼女の後ろから出てきたのは小学生くらいの男の子で、彼は無邪気な顔で懇願した。
『お願い、カミキリさん。僕の記憶をお兄ちゃんから消して!そうしたらきっと、お兄ちゃんはもう泣かなくなるから…」
この少年は本気で言っている。
だが、何故そんなことを願っているのだろう。
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